あの陰謀論が「真実」だった世界

蓮實長治

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早めにやったメリット・デメリット

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 あの伝染病のワクチンを打つと……ナノマシンが脳内に電子回路を作り、5Gの電波を受信出来るようになる……など、馬鹿馬鹿しいにも程が有る。
 幸運にも早めにワクチンを接種するチャンスが有ったので、早速、接種会場に行くまでは、そう思っていた。
 接種会場の片隅に見えたのは……メジャーどころの携帯電話会社のロゴが複数。
「あ……あの……これ……何でしょうか?」
 それは、携帯電話会社の臨時窓口だった。
「はい、2回目の接種後、およそ1日で、脳内に5G対応の『端末』が生成されますので」
 携帯電話会社のロゴ入りの制服を来たヤツは、そう説明した。
「はぁ?」
「とは言え、いずれかの携帯電話会社と契約しないと『脳内端末』は使用出来ません。ですので、早めの御契約を……」
「そ……そんな……馬鹿な……」
「あの……こちらの自治体さんから送られた接種案内にも明記されてた筈ですが……」

 世の中は、あっと云う間に変った。
 スマホは、ほんの少し前の「ガラケー」に近い扱いになった。
 スマホで出来る事は、大半が脳内で済むようになり……どうしても「脳内端末」でやるのが難しい事はPCやタブレットでやるようになった。
 少し前までの「歩きスマホ」に相当する行為をやっているかどうかの判断は困難になり……車を運転しながら「脳内ゲーム」をやってる馬鹿が出現し……いや「馬鹿」じゃなかった「馬鹿ども」だ。
 いつしか、大きな社会変化にともなう混乱や新しい問題は単なる日常と化し……そして、あの病気の流行時には、親戚の小学生からギリギリ「お兄ちゃん」と呼ばれていた俺は、気付いた時には「おっちゃん」呼ばわりされる年齢になっていた。

「あの……5Gの電波が停波になるって聞いたんで、脳内端末を更新したいんですが……」
 近所のショッピングモールに有る携帯電話会社の窓口で、俺は、店員にそう言った。
 もう、脳内端末用の電波の規格は7Gが普通で、来年には8Gも実用化されるらしい。
「はい、判りました。では、そちらの席にお座り下さい」
 店員は、何故か、床屋のパーマ機のようなゴツい機械を俺の頭に近付けた。
「な……何ですか、これ?」
「簡易型のMRIです。脳内端末の状態を確認させて……あ……」
「ど……どうしました? 何か問題でも?」
「お客様の脳内に有るのは、脳内端末の最初期の型のようですね」
「マズいんですか?」
「次の型からですと、ナノマシンを注入すればバージョンUPが出来るんですが……この型式だと手術が必要ですね」
「手術? 頭を切って開いて脳内端末を取り出すって事?」
「そうです。根こそぎ」
「費用は……?」
「これぐらいです。あと一週間の入院が必要になります」
 ……なんだ、こりゃ……ボーナスの時期じゃないと無理な値段だ。しかも……仕事を一週間休まないといけないのか?
「あの……健康保険は……その……」
「病気の治療じゃないので、全額、お客様の負担ですね」
「……そ……そんな……」
「例の伝染病のワクチンを打たれた時に生成されたタイプですか……少し気が早かったようですね」
 おい、伝染病が流行ってた時にワクチンを打ったのが「気が早かった」って、どう云う事だよ?
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