あの陰謀論が「真実」だった世界

蓮實長治

文字の大きさ
1 / 3

早めにやったメリット・デメリット

しおりを挟む
 あの伝染病のワクチンを打つと……ナノマシンが脳内に電子回路を作り、5Gの電波を受信出来るようになる……など、馬鹿馬鹿しいにも程が有る。
 幸運にも早めにワクチンを接種するチャンスが有ったので、早速、接種会場に行くまでは、そう思っていた。
 接種会場の片隅に見えたのは……メジャーどころの携帯電話会社のロゴが複数。
「あ……あの……これ……何でしょうか?」
 それは、携帯電話会社の臨時窓口だった。
「はい、2回目の接種後、およそ1日で、脳内に5G対応の『端末』が生成されますので」
 携帯電話会社のロゴ入りの制服を来たヤツは、そう説明した。
「はぁ?」
「とは言え、いずれかの携帯電話会社と契約しないと『脳内端末』は使用出来ません。ですので、早めの御契約を……」
「そ……そんな……馬鹿な……」
「あの……こちらの自治体さんから送られた接種案内にも明記されてた筈ですが……」

 世の中は、あっと云う間に変った。
 スマホは、ほんの少し前の「ガラケー」に近い扱いになった。
 スマホで出来る事は、大半が脳内で済むようになり……どうしても「脳内端末」でやるのが難しい事はPCやタブレットでやるようになった。
 少し前までの「歩きスマホ」に相当する行為をやっているかどうかの判断は困難になり……車を運転しながら「脳内ゲーム」をやってる馬鹿が出現し……いや「馬鹿」じゃなかった「馬鹿ども」だ。
 いつしか、大きな社会変化にともなう混乱や新しい問題は単なる日常と化し……そして、あの病気の流行時には、親戚の小学生からギリギリ「お兄ちゃん」と呼ばれていた俺は、気付いた時には「おっちゃん」呼ばわりされる年齢になっていた。

「あの……5Gの電波が停波になるって聞いたんで、脳内端末を更新したいんですが……」
 近所のショッピングモールに有る携帯電話会社の窓口で、俺は、店員にそう言った。
 もう、脳内端末用の電波の規格は7Gが普通で、来年には8Gも実用化されるらしい。
「はい、判りました。では、そちらの席にお座り下さい」
 店員は、何故か、床屋のパーマ機のようなゴツい機械を俺の頭に近付けた。
「な……何ですか、これ?」
「簡易型のMRIです。脳内端末の状態を確認させて……あ……」
「ど……どうしました? 何か問題でも?」
「お客様の脳内に有るのは、脳内端末の最初期の型のようですね」
「マズいんですか?」
「次の型からですと、ナノマシンを注入すればバージョンUPが出来るんですが……この型式だと手術が必要ですね」
「手術? 頭を切って開いて脳内端末を取り出すって事?」
「そうです。根こそぎ」
「費用は……?」
「これぐらいです。あと一週間の入院が必要になります」
 ……なんだ、こりゃ……ボーナスの時期じゃないと無理な値段だ。しかも……仕事を一週間休まないといけないのか?
「あの……健康保険は……その……」
「病気の治療じゃないので、全額、お客様の負担ですね」
「……そ……そんな……」
「例の伝染病のワクチンを打たれた時に生成されたタイプですか……少し気が早かったようですね」
 おい、伝染病が流行ってた時にワクチンを打ったのが「気が早かった」って、どう云う事だよ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...