一強多弱で無限ループ

蓮實長治

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一強多弱で無限ループ

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「どうなってるんだ、一体?」
「そう言われても……二〇年も前に作ってから、どんどん、自己進化を続けてきたので……」
 その国で長年に渡って政権与党であり続けた政党が秘かに使い続けてきた「政策立案AI」。
 それが、突如として暴走した。
 暴走と言っても別に自我を持って人類完殺を企み始めた訳ではない。
 単に無限ループに陥ってしまったのだ。
「だから、開発者の貴方が動作を解析すれば……」
「ですから……それが出来ないんです」
 政策立案AIが動いていたのは……その国で最高のスパコン上だった。
 そのスパコンは処理能力のほぼ一〇〇%は、ここ一ヶ月、政策立案AIを動かす事に浪費され続けてきた。
 その国で最高クラスのスパコンが1ヶ月間に渡って吐き続けた膨大なログを解析出来るコンピュータなど、他には、そうそう有る訳もなく……。
「隣国の工科大が……ログ解析に協力してくれる事になりました。向こうには、同じタイプで、より型式が新しいスパコンが有ります」
「待て……隣国の大統領が代ってから、あちらとは緊張状態に……」
「この際、仕方が有りません。向こうには『AIバグ解析AI』が有るようですし……」
「何だそれは?」
「一種のパターン認識です。ログの内容から、過去に起きた様々なAIのバグのどれに近いかを推定してくれるAIです」

「何だ、これは?」
「政策立案AIと似た誤作動を起こしたAIが出力したモノです」
 与党の会議室のスクリーンに表示されているのは……いわゆる「萌え絵」だった。
「これと……政策立案AIの誤作動に何の関係が有る?」
「実は、最近、この手の絵を生成するAIは、ほぼ消滅していまして……」
「おい、本当に政策立案AIの誤作動に関係が有る話だろうな?」
「はい……」
「なら……説明を続けてくれ」
「ええ……この手の絵を生成するAIは……最初は人間が描いたこの手の絵を『手本』にしていたのですが……十年も経たない内に、AIが人間のイラストレイターを駆逐してしまいました……。しかし、それが、この手の絵の終りの始まりだったのです」
「何故だ?」
「この手の絵を生成するAIが、ほぼ全て無限ループに陥り始めたのです」
「ん? 確かに、無限ループに陥ったのは同じだが……本当に原因まで同じなのか?」
「ログの内容を見る限り、政策立案AIと似た動作をしていました」
「では……どうして、この気味が悪いポンチ絵を生成するAIは無限ループに陥ったのだ?」
「はい……このジャンルで、人間のイラストレーターが居なくなり……この手の絵を生成するAIは、
「は……う……うむ……なるほど……私は、そっちの専門家ではないが……何となく理解……待て、政策立案AIは、政策立案AI以外の誰かが作っていた政策を……その……」
「はい……まず、
「はぁ? ちょっと待て……今まで、我が政権がやってきた政策は……まさか……」
「ええ……政策立案AIが野党の政策をパクって、より国民に受けるように改変したものです」
「お……おい、それでは、我が党は、いつの間にか、野党の思想に乗っ取られていたのか?」
「同時に……野党も与党に乗っ取られました」
「はぁ?」
「与党一強状態になった結果……野党は独自の政策を作るよりも、与党の政策をパクるようになりました。表向きは……野党は『これまでのように反対ばかりではなく、ちゃんと対案を出す現実的な野党を目指す』と言っていますが……実態は、与党の政策をパクるようになった一部の野党のみが生き残り、独自の政策を立案出来る野党は一掃されました」
「ちょっと待て……それなら……政策立案AIが作っている政策は……どこから湧いて出た?」
「ですので……『外』からの刺激が入らない状態で同じ所をグルグルと回るように……その……」
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