魔導兇犬録:哀 believe

蓮實長治

文字の大きさ
29 / 83
第四章:DEAD STROKE

(4)

しおりを挟む
「で、何であんな事になったか、判る人、誰か居る?」
 向こうのチームのリーダーがバンの中でボヤき出した。
「いや、やったの貴方でしょ」
 向こうのチームの「一匹狼担当」っぽい子が当然のツッコミ。
「知らないという事は……最悪でも過失か……」
 運転してるスキンヘッドの大男のおじさんがそう言った。
「何を知らなかったか判らんが、刑事起訴された場合、彼女がその『何か』を知らなかった事を、どうやって証明すればいいんだ?」
 続いて助手席にいる六〇ぐらいの弁護士さん。
「彼女がやったのは、多分、こう云う感じの事じゃないですか? まず、たまたま不良警官に絡まれている人達を見付けた。そこで、不良警官に対して何かの精神操作系の『魔法』を使った。そうしたら、何故か効き過ぎた」
「……は……はい……」
「しかも……あの状況では、複雑な精神操作は、まず不可能。多分、何か単純な感情を呼び起こすモノ……例えば、相手に恐怖心を抱かせる、とかをやった可能性が高い」
「え……えっと……何で判ったんですか?」
「精神操作系の能力は持ってるが、その能力を迂闊に使った結果、痛い目を見た事がない人が良くやるミスだ。似たような状況の裁判記録が無いか調べてみて下さい。ただ、刑事裁判は専門じゃないので、どんな判例が有るかまでは判りかねますが」
「どう言う事だ?」
「精神操作系の能力を使われた人間の脳内で起きてるのは、洗脳や暗示と似たような事です。つまり、洗脳や暗示にかかりやすい人間は精神操作系の異能力の効果も強まり、洗脳や暗示にかかりやすい状況に置かれた人間もまた同じ」
「でも……警官って……洗脳や暗示に……そんなにかかりやすいの?」
「話がややこしいのは、そこだ。どこの精神操作系の能力を持ってる者が居るか判らないような御時世だ。警官は暗示にかかりにくくなるような訓練をやってはいる……表向きは」
「へっ?」
「ところが、警察などの体育会系の『文化』が有る組織は……ある意味で構成員を洗脳していると言える」
「待ってくれ……それが本当なら……警官が暗示にかかりにくくなる訓練を受けるのは……」
「警察という組織の『文化』と『暗示にかかりにくくなる訓練』とは相性が最悪です。暗示にかかりにくい人間は、集団の中で自分だけが違う意見を持っていても、それによる不安感はそうでない人より小くなり、同調圧力にも耐性を有しますが、警察のような組織では、これが困った問題を引き起します。いわば『型破りな警官』は少数居れば、警察組織を巧く運営するのに役立つし、警察組織が暴走する事の歯止めになる。しかし、『型破りな警官』ばかりだと警察組織そのものが成り立たなくなる」
「なるほど……暗示にかかりにくい警官が増えるというのは、警察上層部にとっては扱いにくい警官が増えると言う事か……」
「もちろん、上からの命令に従うだけの警官だけになっても、警察組織はいずれ腐敗し暴走するでしょう。しかし、型破りな警官ばかりになるデメリットは短期間で目に見え易い形で出ますが、上からの命令に従うだけの警官ばかりになるデメリットは……病気に喩えるなら潜伏期間が長い。そして、上からの命令に従うだけの警官ばかりになれば、警察組織は形骸化するでしょうが、組織そのものは存続する。警察上層部からすれば、どちらがよりマシな地獄かは明白です。警察関係者以外にとっては話は違ってくるにせよ」
「つまり……現在、警官は……暗示にかかりにくくなる訓練は受けているが、形だけという事か」
「そうです。更に警官に精神操作系の能力を使うのは、ある意味で、既に洗脳がかかっている人間を更に洗脳するような事で。……しかも、暗示にかかりにくくなる訓練を中途半端に受けている事が、話を更に複雑化しています」
「つまり……最悪は……どうなるんだ?」
「既に、警官にとっては最悪な事になっています。警官に精神操作能力を使うのは……マズい事になるのだけは判っていますが『マズい事』のタイプも被害の大きさも、全く予想が出来ません」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

処理中です...