魔導兇犬録:哀 believe

蓮實長治

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第五章:Over the Limit

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「煽りが……巧いな……。では、こちらも、もう少し煽ってみるか……。構えからして……ん? 総合格闘技に近いが……違和感が有る。打撃と組み技だけでなく……武器を扱う訓練もしているのか……? いや……それでも……何かがおかしい……」
 サングラスの男の人は……そう言った。
「当ってるの?」
 あたしは、スペクトラム・スカーレットに訊く。
「わ……わかりません……」
「君にも、ちゃんと教えた筈だよ……。目が見える連中が……どれだけ何も見ていないかをね……」
「は……はいッ‼」
 スペクトラム・スカーレットは……文字通り学校の先生に注意された子供のように緊張してる事が感じられる口調で返事。
「どうやら……君は……齢の割に動揺しにくい性格のようだな……。心理戦は無意味か……」
「お互いにな……」
 次の瞬間……眞木さんのお姉さんが前蹴り。
 でも……白い杖で軌道を逸らされる。
 眞木さんのお姉さんは舌打ち。
「まさか……目が見えてないから、段差の存在を……」
 サングラスの人が全部言い終える前に眞木さんのお姉さんの左手がサングラスの人の頭を狙う……。
 サングラスの人が言った通り……眞木さんのお姉さんとサングラスの人の間には……床に段差が有る。
 眞木さんのお姉さんと、サングラスの人の身長差でも……頭に当……えっ?
 再び、眞木さんのお姉さんの攻撃は杖で阻まれ……けど、眞木さんのお姉さんは杖を掴む。
「いい体幹だ。君を倒すのは容易いが……君を鍛えた誰かを倒すのは……骨が折れそうだな」
 眞木さんのお姉さんは……わずかにバランスを崩す。
 そこに、サングラスの人の前蹴り。
 でも……。
 眞木さんのお姉さんは、やや膝を曲げ、左手で蹴りを払う。
 でも、サングラスの人も、ほんの少しだけバランスを崩しただけ。
 微かな笑い声……。
 やがて……サングラスの男の人の笑いは……大きな……心底楽しそうなモノに変る。
「私も、とんだマヌケだ。ようやく判ったよ……違和感の理由が……」
 眞木さんのお姉さんの……蹴りやパンチが続く。
 でも、全部、防がれる。
「余裕綽々で君を叩きのめして……『私が有利なのはサウスポーの有利に似ている。君達は私のようなタイプの人間と戦った経験は皆無だろうが、私は目の見えている相手との戦いが日常だ』と説教の1つもカマすつもりだったが……」
 サングラスの男の人は……眞木さんのお姉さんの攻撃をさばきながら、そう言った。
「とんだお笑いだ……。この私が……の相手に『私が有利なのはサウスポーが有利なのと同じ理由だ』を決め台詞にするつもりだったとはな……」
「えっ?……本当なの?」
「わ……わかりません……。でも……たしかに……右も左も同じ位使えるように見え……」
「おい……一瞬でいい。こいつの気を逸らしてくれ」
 その時、眞木さんのお姉さんの叫び。
「は……はいっ‼」
 あたしは「守護天使」を呼び出し……実体が無いモノだけど……変な光景だ。
 あたしの「守護天使」のは……このバスの上下サイズより上。
 バスの中からは胴体の一部しか見えない。
 ともかく、あたしは……守護天使にサングラスの男の人を攻撃させ……。
 あ……やっぱり……。
 サングラスの男の人の体から、もの凄い「気」が放たれ、攻撃がはじき返される。
「えっ?」
 そのたった一瞬で……。
「こ……このガキ……何しやがる?」
 サングラスの男の人の口調が、さっきまでと変った。
 眞木さんのお姉さんは……サングラスの男の人の右腕にしがみつき……手首に噛み付いていた。
「があああ……」
 サングラスの男の人は手を思いっ切り振る。
 眞木さんのお姉さんは口を離し……。
「私の動きを読めてたようだが……その動きの意図や意味までは……読めなかったようだな」
「ふ……ふざけるな……このクソメスガキが……」
 サングラスの男の人は……右の手首や親指の付け根やてのひらから……ダラダラと血を流していた。
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