魔導兇犬録:哀しき獣

蓮實長治

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第一章:悪いやつら

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「あんた、何考えてんだ?」
「いや、腕試しですよ……腕試し……」
 「アラサーのヤンキー」風の……多分、俺より一枚上手の同業者魔法使いに案内された居酒屋の個室に居たのは、見掛けは四十前後、ただし、六十代のちょっとした中小企業の社長か「地元の大物」ぐらいの貫禄は有りそうな小太りに眼鏡の男はそう言った。
 名前は……渡された名刺に書かれてたのを信じれば藤波孝次郎。
 表に居た2人は、こいつと雇用契約を結んでいて、俺の技量・力量を試したらしかった。
 一応、「探」ってみたが……「気」「霊力」の量は生まれ付きデカそうだが……その「気」「霊力」を操る訓練をやった奴に特有の「パターン」は無し。
 スポーツで喩えるなら「生まれ付きの身体能力は高かったが、練習に付いていけなくて途中で挫折した奴」みたいな感じだ。
 こっちが「探」っても……気付いたような反応は無し。
 体の方は……やや不健康気味。
 いかにもな「禿てる事をごまかす」ような髪型も体調の影響かも知れない。
 この齢で、この体型だと……糖尿とかでED……いや詮索するのはやめておこう。俺だって、いい齢だから、いつ「明日は我が身」となるか知れたモノじゃねえ。
 着てるのはダークグレイの背広に妙に派手な赤のネクタイ。
 手首には結構高価たかそうな腕時計。
 ワイシャツの袖にはカフスボタン……だが、その袖口は妙に擦り切れてて、カフスボタンの金色の鍍金めっきも剥げかけてる。
 良く見ると……靴も履き古した安物。
 就活一発目の相手が……自分を金持ちに見せ掛けようとして失敗してる金に困ってそうな阿呆ってのも先行き不安だが……まぁ、贅沢は言ってられねえ。
 ここで当面の金を稼いで、次の就職先を探す事にするか。
「で、あらかじめ言っておくけど……」
「何でしょうか?」
「俺、戦闘向きの呪文の方が得意でな……」
 困った事に、マトモな就職先が多いのは……例えば、他者が使った敵対的な魔法の効力を減らす護符を大量生産品するのが得意とか、そんな地味な魔法が使える奴だ。
 しかし、「魔法使い」が現実に存在すると判ってから、「魔法使い」を志した奴の大半は、派手な「魔法」ばかりを覚えようとした。
 ……はっきり言えば、俺も、その目立ちたがりのマヌケの1人だ。
 その結果、悪い意味で大人になっても中学生の心を忘れなかった「魔法使い」達は……どんなに腕が良くても就職先は、犯罪組織にテロ組織。
 稀にしか居ない運がいい奴は「正義の味方」や「NEO TOKYO」の「自警団」。
 ただし、後者に関しては、下手なヤクザよりタチが悪いのが多い。
 前者の「正義の味方」達は極端な秘密主義なので、就職したくても、どうコンタクトを取ればいいか判らない。それどころか……顔や本名がバレた奴は、問答無用で除名処分らしいので、「近代西洋オカルティズム」系と云う狭い界隈とは言え、そこそこ顔が知られてる(本名だけは元所属先の「真の名」の掟で……あ、しまった、これも元所属先の連中にはバレてたわ)俺が就職出来る見込みは薄い。
 犯罪組織やテロ組織に就職なんてのは……余命あと数年なんてヤケになるしかない状況でもない限りはお断りだ。円満退職だけは絶対に無い。
 そして、「NEO TOKYO」の「自警団」に関しては……自分から、そのツテを断ってしまった。
「大丈夫です。戦闘向きの『魔法』が得意な人を募集してたんですよ。それも派手なら派手なほど、私がやろうとしてる事に向いてます」
「『派手なら派手なほど』か……なら、誰かを暗殺しろなんてロクデモない話じゃないようだな」
 言うまでもなく、「どっかのヤクザの親分を殺して来い」なんて仕事には派手な「攻撃魔法」は逆に都合が悪い。
 可能かどうかは別にして、かなりの腕の同業者魔法使いでも「魔法系の能力による呪殺」と気付かないような殺し方が理想的だ。
 そして、これまた俺と同じ世代か、それ以降の同業者魔法使いには「地味だが足が付かないタイプの呪殺」も真面目に学んだ奴は少ない。
 仕方ねえ。
 「魔法使い」が実在してる事が判って以降、「魔法使い」の道を志した奴は、魔法オタクの成れの果てか、自分がスゲ~事が出来るのを誰かに知ってもらいたい目立たがり屋だ。まぁ、俺だって他人ひとの事を、イロイロ言えた義理じゃねえが。
「でもよう、派手な攻撃魔法で何をやるつもりだ?」
ですよ……。格闘技の技の代りに、魔法を使ったプロレス」
「いい考えだ……ただ1つ欠点が有る」
「何でしょうか?」
「『気』とか『霊力』とか『魔力』が『視える』奴は少数派で……しかも、カメラには映らねえ」
 と言っても、訓練を積んでない人間でも「魔法や霊的存在の攻撃対象が自分の場合には『視』える可能性も有る」らしい。逆に言えば、対象が自分じゃなけりゃ「何となく変な感じがする」止まり、と云う事だが。
 そして、「魔法使い」同士の戦いで金を取って見世物にしする、ってのは、この小太り中年の独創じゃなくて、先例は皆無じゃなかった筈だ。
 だが、それでも「魔法」だけじゃなく格闘技その他の近接戦闘術が使える奴が選手になる場合が多いなど、「魔法」の事を知らない奴でも楽しめるように色々と工夫をしている。
「実は……いい手が有るんですよ」
 そう言って、その小太りの中年眼鏡は背広のポケットから……。
「おい、何だ、そりゃ? マズいモノじゃ……」
 テーブルの上に置かれたのは……いかにも違法ヤバいクスリが入ってますよ、と云う感じの小さなビニールのパッケージ。
「私の実家は……江戸時代までは京都の土御門家から免許をもらってた陰陽師の家系だったんですが……もう何代も前に、ちゃんとした術は失伝してしまいまして……」
 なるほど……。
 「異能力者」の存在が明らかになって以降、中学か高校の理科で習った「メンデルの法則」だか何だかでは巧く説明出来ない通称「非DNA性遺伝」とやらを仮定した方が巧く説明出来る現象が色々と見付かった。主に「異能力は遺伝するのか?」と云う事に「『気』だの『霊力』だのの強さ」もその1つだ。
 こいつの家系も、生まれ付き「気」「霊力」「魔力」が強い奴を輩出してきたのだろう。
「その中で、唯一伝わってるのがコレの作り方なんですよ……ハシリドコロと云う薬草の成分を抽出して作った、普通の人間に一時的に霊視能力を与える薬です」
「大丈夫な薬か?」
「多少の興奮状態になりますが……見世物の客としてなら、少しばかり騒いでくれる方がいいでしょう」
 ちょっと不安が有る……マズい事態になったら、すぐに逃げる準備をしておいた方がいいだろう。
「で……あんたと連絡を取った時にも言ったが、俺達の流派では『一般人としての名前』は明かせねえんだよ」
「じゃあ、普段でも、リングネームで呼んで、給料は銀行振り込みや電子マネーじゃなくて、現金を手渡しでいいですか?」
「給料の方は、それでいいが……リングネーム?」
「まぁ、『魔法使い同士でプロレスをやる』がコンセプトの見世物なんで……リングネームとギミックを決めないと……」
「ギミック? どう云う意味の『ギミック』だ?」
「『客向けの経歴』の意味ですよ」
「僕は……リングネームは『ピンク・ホラー』で、役割は悪役ヒール。『実力は有るけどサイコパスだったんで、所属流派を追放された』って設定です」
「俺は、リングネームは『ミッドガルド・サーペント』。役割は悪役ヒールで、須佐之男命スサノオノミコトを祀ってた正統派の神道系の悪霊祓いの家系の出だったが、隔世遺伝で八岐大蛇ヤマタノオロチの力が発現しちまったんで、一族を追放された、って設定だ」
 さっきまで、静かに飲んでた表に居た「『ぼくのかんがえたさいあくのサイコパス』を演じてた阿呆なサイコ野郎の若造」と「とんでもない実力者らしいアラサーのヤンキー」がそう言った。
「じゃあ……俺は……」
「その新人さん……2種類の『力』が使えるみたいです。聞いた事が無い珍しいタイプです」
 阿呆若造が余計な事を口走る。
「じゃあ、何か二重人格っぽいリングネームにして……善玉ベビーフェイス悪役ヒールを兼任って事で……」
 おい、待ってくれ。
 もう「おじさん」と言われても怒る気を無くしてるような齢になって、そんな中学生が考えたような「設定」を演じなきゃいけねえのかよ?
 あと、俺は、単に生まれ付き2種類の霊力を使えるだけで、二重人格なんかじゃねえ。
「架空の経歴は……『二重人格だったせいで所属流派を追放された』ってのはどうですか?」
 おい。
 中学生が考えたラノベか?
 何で、追放モノ設定のヤツばかりなんだよ?
「判った。その手の事は、専門家であるアンタに任せる」
 既に俺は、文句を言う気力さえ失なっていた。
「じゃあ、雇用契約は成立って事でいいですか?」
「ああ」
「では、早速ですが……
 一瞬、何を言われたか理解出来なかった。
 単語の1つ1つの意味は判った。
 文章の意味も判った。
 しかし、何故、この状況で、そんな事を言われたのかが理解出来なかった。
「あ……ああ……1回目の興業の開催場所は押さえたんですが……予算が足りなくて……」
 待て……この話、無かった事にしてくれ……。
「あと、ここの飲み食いの代金……割り勘でいいですか?」
 表で会った2人の方を見ると……。
 しまった……何で気付かなかったんだ?
 たしかに、この実業家気取りの阿呆の奢りにしては……頼んでる酒やツマミは……安そうなのを少量だけだった。
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