ささやかな願い

蓮實長治

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ささやかな願い

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 これは、どう見ても作り物だろう……。しかし、悪趣味な作り物も有ったものだ。
 ミイラ化した何かの腕を見せられて、副大統領は、そう思った。
 親指が2本。他の指が9本。執務室を訪ねた男に見せられたミイラ化した手には、やたらと指が有った。
 なお、ここで言う「有った」とは過去形の意味だ。
 ミイラの指は、ほとんどが折られており、残っているのは2本だけだった。
「猿の手と云う小説を御存知ですか?」
「ああ、知っているよ」
「実は……あれには元になった事実が有りまして……。このミイラの指を1つ折る毎に、1つの願いが叶うのです」
「なるほど……私に、このミイラの指を折って、願いを言え、と……」
「やってみる勇気は有りますか?」
「ああ……。私を大統領にしてくれ」
 そう言って副大統領は、残り2本の指の片方を折った。
「実は……同じ願いをされた方が過去にいらっしゃいまして……」
「私の予想通りなら、中々、巧いオチだな。そいつはジョンソン前大統領だ、って言うんだろ?」
「はい」
「では……私の1つ目の願いを、今の大統領が生命を失なわない形で叶えてくれ」
 そう言って副大統領は最後の1本の指を折った。

「さっき私の執務室に来た男は誰だっけ?」
 フォード副大統領は、ホワイトハウスの職員にそう質問した。
「あの……ここ2時間ほど……誰も来ていませんが?」
 そんな馬鹿な……そう副大統領は思った。ならば……現に目の前に有る、この2本のミイラ化した指は何なのだ? と……。

 時に一九七三年十二月。ジェラルド・R・フォードがリチャード・ニクソン政権の副大統領に就任した数日後の事であった。
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