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第一章:The Intern

スカーレット・モンク(8)

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「あなたが保護者ですか?」
「は……はい」
 スカート姿の女の子の連絡で駆け付けたのは……背広に眼鏡の中肉中背で……「特徴が無いのが特徴」と言った感じの二十代後半から三十代前半の男。
 特に何かの戦闘術を身に付けるようには見えないし、「魔法使い」特有の「気」も感じない。
 とんでもない達人か……さもなくば戦闘能力ほぼ皆無の両極端のどっちかで、まあ、多分、後者の可能性が高いだろう。
「不特定多数に『精神操作能力』を使ったと言っても被害は少ないですし……貴方達は筑豊TCAからの『観光客』なので事を荒立てる気は有りません。ですが、早急に筑豊TCAにお戻り下さい。可能な限り、これ以上、善意による行為も悪意による行為も何もせずに。何だったら、お送りしますが」
 スカート姿の女の子の「保護者」らしき男にそう告げているのは「レスキュー隊」のメンバーだ。
 元々は、あたし達「正義の味方」の中でも一般人の避難誘導や保護・救助などを専門にしたチームだったが、今は「正義の味方」とは協力関係に有る独立した組織ネットワークになり、しかも、「力関係」に関しては、わざと「正義の味方」より「レスキュー隊」の方が優位になるような仕組みシステムになっている。
 周囲では、「魔法使い」系の技能・能力を持っているらしいレスキュー隊員が「精神操作」の影響を受けた人達の治療を行なっていた
 だが、その時……。
「はい、ちょっと待って下さい。チーム長、『Storm Breakers』のコードネーム『羅刹女ニルリティ』から我々から許可を得たい件が有るとの連絡が……」
「あの人……まだ『正義の味方』やってたのか?……大怪我で引退したって噂だったけど。……まぁいい、代ってくれ」
「いえ、理由は言えないが、周囲の全員に聞こえるようにしろと……」
「は?」
『聞こえるか?「Storm Breakers」の「羅刹女ニルリティ」だ。騒ぎを起こした児童の保護者に代って欲しい』
 正体を隠す為に変性してはいるが……いつの間にか姿を消していた瀾師匠の声だった。
「は……はい。どうぞ」
「えっ? 僕ですか?」
『TCAでは「呪詛返し」を受けた『精神操作能力者』の治療は可能か?』
「え……えっと……その……」
『やっぱり無理か』
「た……多分……」
『では、レスキュー隊の担当者の方々に……騷ぎを起こした児童の強制送還の猶予をお願いしたい』
「えっ?」
『騒ぎを起こした児童は、普通じゃない状態に有る筈だ。その状態の治療の専門家を知っている。レスキュー隊太宰府チームの平田優奈ゆうな氏と紅林くればやし祥子氏だ』
「仕方有りません。許可しますが、治療が終ればTCAに戻っていただきます」
 騷ぎの原因になった男の子は座り込んで……虚ろな目、荒い呼吸、顔には恐怖が浮かび……そして、治療を試みているレスキュー隊員は厳しい表情で首を横に振っていた。
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