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第一章:The Intern

スカーレット・モンク(9)

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『薄々は気付いてるだろ? あの2人の児童はTCAの大阪派のVIPだ。おそらくは、女の子の方が言ってた通り「シン天皇」候補だ』
 あの2人とその「保護者」がレスキュー隊の車で搬送されると、ほぼ同時に、瀾師匠からテキストメッセージが来た。
『いや、でも、今時、どんな強力な精神操作能力者を生み出したって、大した役には立たないでしょ』
「ところで、この『大阪派』とは何だ?」
 あたしの携帯電話ブンコPhoneを覗き込んでたてるがそう聞いた。
「ああ、TCAの2大政治派閥の1つだ。TCAの理想は、昔のような明確な中心が有り、上意下達的な『日本』だ。その手段として、超強力な精神操作能力者『シン天皇』を生み出し、全国民……TCAじゃ『国民』じゃなくて『臣民』って呼んでるけど……を精神操作の元に起こうとしてるのが大阪派」
「無茶苦茶だ。2大政治派閥とか言ってたが……もう1つは多少はマシなんだろうな?」
「もう1つの『東京派』は……一部の『上級臣民』を除いた全国民に脳改造を行ない『忠良なる臣民』を……」
「私から聞いたのに、こんな事を言うのは何だが、流石にやめてくれ。それ以上聞いたら気分が悪くなりそうだ。大体、そんな馬鹿どもを支持してる更なる馬鹿が居るのか?」
「だから、TCAは『伝統Traditional 文化culture 地域area』であると同時に『テロリストTerrorist 閉じ込めconfined 地域area』なんだよ。馬鹿な政治家と、それを支持してるもっと馬鹿な連中を隔離する為の」
「だが……TCAの外では、精神操作能力が効かない人間が一般的になりつつあるのなら……2種類の馬鹿の内、よりタチが悪い馬鹿の方が有利になっているのか?」
「ああ……」
 いや、待て……。
 今まで、TCA内での人権侵害が……十分酷いが「大半の住民に脳改造を行なう」ほどじゃなかったのは、馬鹿な極悪人どもが2派に分れて、その勢力が拮抗していたからだ。
 けど、そのバランスは、よりタチが悪い「東京派」に有利になりつつあり……そして、こっちでは「特異能力持ちだけど、犯罪者になったとしても愉快犯系の小物がせいぜい」のヤツでも、TCAの中では何かの象徴に……おい……そんな……。
『あの……もし、あいつらの身に何か起きたら、TCA内にデカい影響が有るんですか?』
『多分な。そして、その影響はこっちにも波及する』
『もし、本当に、あいつらがTCAの大阪派のVIPだとして……TCAの東京派は、あいつらが、こっちに居る事を知ってんですかね?』
『判らん。しかし、もし知ってたら何か行動を起こすだろう』
『どうすりゃいいんですか?』
『状況が不透明な場合こそ基本に立ち返れ』
 そのメッセージには、何故が音声ファイルが添付されていて……。
「何て曲だ? 悪くない歌だな」
 鳴り出したのは……あたしどころか、下手したら師匠達さえ生まる前の……アメリカのHip Hopの名曲だった。
「『Do the right thing』って映画で使われた『Fight the power』って曲だ」
「なら、話は簡単だ。先行きが不透明な時こそ私達がやるべきは『力に抗いファイト・ザ・パワー』『正しい事をやれドウ・ザ・ライト・シング』」
「簡単に言うな。誰もが師匠達になれる訳じゃ……」
「なら、あの人達の弟子をやめるか?」
「仕方ねえな……あたしのバイクを止めてる駐輪場に戻るぞ」
 そう言いながら、あたしは、瀾師匠にテキスト・メッセージを送信。
『レスキュー隊の車に、あたしのバイクのナンバーと車種を連絡して下さい。このバイクは護衛だと思えって』
『判った。私も手の空いてるヤツを応援に向かわせる』
「ああ、そうだ……この歌を歌ってるグループの名前はな……」
「何だ?」
「Public Enemyだ」
「なるほど。国中を敵に回したとしても、自分が正しいと信じる事をやれ、と」
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