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第二章:Fair Game

スカーレット・モンク(8)

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「ごめん、現時点で交通量が少ない交差点を割り出すか、レスキュー隊に頼んで、近隣の道を通行止めにして」
 車を運転しているビンガーラが、無線で後方支援要員に連絡する。
了解Affirm、ちょっと待て』
 1分経たない内に座席のタッチパネル式モニタに表示されている地図上の交差点のいくつかに緑色のマークが表示される。
『今、表示が変った交差点が比較的交通量が少ない』
了解confirm。全員、シートベルトを確認。あとゲロ袋を1人につき3つ用意して。そして、何が起きても舌を噛まないように気を付けてて」
了解Affirm
 あたしは、そう言って、ビニール袋を男の子とその「保護者」に渡す。
「あ……あの……何をする気ですか?」
 不安気に尋ねる男の子の「保護者」。
 ビンガーラはそれに答えずに運転を続ける。
 あたし達の車を取り囲むように走っていた3台の敵車両も……まだ、あたし達の車を確実に爆破出来るまで近付いていないようだった。
 映画なんかと違って、おそろしく地味なカーチェイスだ。
 なにせ、相手の車をクラッシュさせる訳にはいかない。
 でも、ビンガーラの一言で何かとんでもない真似をやる気な事だけは判る。
 そして、何故か、ビンガーラは運転席のタッチパネル式モニタを操作し、自動運転モードの準備。
 やがて、ビンガーラが指定した条件に当て嵌る交差点の1つに近付き……。
 あたし達の車は、やや速度を落し、右折用のレーンに入り……敵の3台も、それを追う。
 続いて、ビンガーラは自動操縦モードを起動。
 あたし達の車は段々と右を向き……。
 衝撃。
 車は大きく揺れ……気付いた時には、3台の敵車両は全て前方に見え……しかも、段々とあたし達の車から遠ざかっている。
 ふと……窓の外を見る。
 周囲の光景の見え方が……明らかにおかしい。
「えええええッ?」
 背後うしろから迫って来る……おそらく何の関係も無い車。
 あたし達の車は、それを巧みに回避。
 おそらくは、自動操縦モードだから可能な反射速度だ……。
 だって……なんて人間技じゃ……あれ?
 ビンガーラの両手は、ちゃんとハンドルを握り、座席のモニタに映されている後部カメラの映像を見ながら車を運転し続けていた。
『油断するな。敵車両は、まだお前らを追ってる』
了解confirm
 ピンガーラは、後方支援要員からの無線連絡に対してそう答えると、更に次の交差点で車の向きを変えつつ……ちょっと待て、右折・左折の場合の「右・左」って、バックしながら曲がる場合って、どっちがどっちなんだっけ?
 ともかく、あたし達の車は……ようやく、正常に前に向かって走り出した。
『よくやった。敵車両を遠隔操作してる車を、ほぼ突き止めたぞ』
 えっ? どう云う事?
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