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第一章:宿怨 ― Hereditary ―
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「ねぇ……その、あたしみたいな人と会ったの初めてなんで、よく判んないんだけど……あたしたちみたいな人って、沢山居るの?」
あたしと荒木田さんは、勇気ん家で正義くんたちの帰りを待つ事にした。そして、仁愛ちゃんが洗濯モノを干してる間に、あたしは荒木田さんに、そう聞いた。
「普通の魔法使いも『私達』に含まれるんなら、結構居る。でも、う~ん、狭い意味での……自称・神様に選ばれた人間は、日本中でも二~三〇人ぐらいだ。と言っても、私には、似たような力を持ってる知り合いがもう1人居る。久留米に住んでる『水の神』の力の使い手だ」
「じゃ、何? あたしたちの力って『魔法』とは違うの?」
「私も良くは知らないけど、どうも、私達は、普通の『魔法使い』が一生修行しても身に付けるのは無理ゲーな力を、自称・神様に選ばれただけで身に付けてしまったらしい。しかも、大抵の『魔法』をかけられても無意識の内に無効化してしまうみたいだし、『魔法使い』の使い魔や式神に攻撃されても、自分でも気付かない内に、攻撃した使い魔や式神が勝手に消滅してしまうって話だ。なので、私達みたいな人間が居る事を知ってる『魔法使い』は、私達の事を良く思ってないみたいだ」
おいおい、あたし、そんなチートな能力を持ってたの? まぁ、一〇年前にアレを引き起した「神様」なら、その位の事出来てもおかしくないか……。
「でも、あくまで魔法に似てるだけの全然別の力なんで、私達に取り憑いてる自称・神様は、普通の魔法の事は良く知らないし、私達は、俗に言う『霊感』は普通の人以下みたいだ。普通の悪霊や魔物なんかは、私達に何の害も及ぼせないので、まぁ、ある意味で、私達は悪霊や魔物なんかを認識する必要が無くなってる。だから、力は私達の方が遥かに上だけど、私達より普通の魔法使いの方が向いてる事はいくらでもある。……いや、あくまで、その手の話に詳しい知り合いから聞いた話だけど」
「なるほどね……」
「あとさぁ、私も事情を良く知ってる訳じゃないけど、あんたに取り憑いてる『神様』が何をやらかした『神様』かが、私以上に事情を知らないヤツにバレたらエラい事になるぞ」
「う……うん、そこは気を付けてる。ところでさ、あたしたちみたいな人って、普段、どう云う生活してんの?」
「普通の生活だよ。私の場合は、朝は飯食って、学校行って、学校の帰りに遊んだりバイトしたりして、家に帰ったら、晩飯食ったり、ゲームしたり、本を読んだりした後に、風呂に入って寝る。今探してる香港の金持ちのガキも、私のゲーム仲間だ」
「えっ? 何て言うか……普通過ぎる……。香港の金持ちの子供がゲーム仲間以外は……」
「いや、多少、変な力を持ってても、将来は、働いて金稼いで食ってかなきゃいけないだろ。今は、奨学金とバイトで何とかなってるけど。残念ながら、自称・神様のチート能力でもお金や食べ物は生み出せない」
「学校って?」
「福岡の私大の文学部」
「文学部って、就職先とか有るの?」
「歴史とか民俗学だったら、レコンキスタあたりに就職出来る可能性が高いな」
レコンキスタ……「本土」の対特異能力者専門の広域警察だ。
「えっ? 何で、レコンキスタ?」
「昔の伝説なんかに出て来る妖怪なんかの正体は特異能力者じゃないか、って話が有るんで、そっち関係の知識が特異能力持ちの犯罪者の能力の分析に使えたりするし、魔法系の特異能力者に対抗するには『昔から伝わってる呪術や魔法の御約束ごと』を知ってた方が有利なんだ。だから、その手の知識が有る人間は、警察や警備会社では引く手数多だ」
「そうなんだ……」
「ところで、これは?」
荒木田さんが指差したのは部屋に飾ってある古ぼけた強化服。
「勇気たちのお父さんの形見。一〇年前の富士の噴火の時に、これで、勇気たちのお父さんは、沢山の人を助けたみたい」
「勇気?」
「ああ、言ってなかったね。ここに住んでる3人兄弟の一番上。あたしと同じ秋葉原高専の2年生」
「形見って事は、お父さんは?」
「5年前に死んだ。『秋葉原』の自警団のリーダーに祭り上げられたんだけど……『秋葉原』と『神保町』の自警団の下っ端同士が喧嘩して……気付いた時には、話がこじれにこじれてて、自警団のリーダー同士の一騎打ちでケリを付けるしかなくなってた」
そして、勇気たちのお父さんは、「神保町」の自警団のリーダーに呪殺された。
更に、その後、「秋葉原」の自警団「サラマンダーズ」は、自分達の元リーダーの子供である勇気たちを見捨てた。「サラマンダーズ」の新しいリーダーは、勇気たちのお父さんの派閥を粛清したのだ。もし、生きていたら勇気たち兄弟の面倒を見てくれたであろう人達は、ほぼ全員、生コンを飲まされて海に沈められた。
今は欠けている強化服の左肩の装甲。そこに、かつて描かれていたのは「サラマンダーズ」のシンボルマークだ。
「なんて言うか……言っちゃ悪いが……」
「ヤクザみたい?」
「ああ」
「聞いた事ない? この島で、マトモな『警察』が有るのは『有楽町』だけだって」
「なるほど……」
例えば、警察署長であれば、公職しかも責任ある立場である以上、身元を公表しなければならない。けど、「秋葉原」「神保町」「九段」で、「身元を公表してる警察署長」が、本物のヤクザを怒らせたりしたら、警察署長の家族の名前その他を瞬時に調べ上げられ、そして、次の日には……もし、その警察署長に小学生の子供が居たなら、その子供が学校帰りに誘拐され、更にその次の日には、その子供が死体か……同じ位酷い状態で発見される事になる。
なので、いつしか、警察はマトモに機能しなくなり、リーダーがどこの誰かを公表する気も無いヤクザ紛いの自警団――「秋葉原」の「サラマンダーズ」、「神保町」の「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」、そして、「九段」の「英霊顕彰会」……通称「靖国神社」――によって治安が維持されるようになった。
「ねぇ、レナ姉にお客さん、晩御飯はウチで食べてく?」
仁愛ちゃんの声。そうだ、もう、そろそろ、そんな時間だ。
「えっ? 今日も仁愛ちゃんが家事当番なの?」
「レナ姉からもあの馬鹿兄貴に言ってもらえる? 最近、家事はあたしに押し付けてる」
「ところで、正義くんたち、いくら何でも、帰りが遅くない?」
「そうだね。じゃあ、あたしが迎えに行くから、留守番してて」
あたしと荒木田さんは、勇気ん家で正義くんたちの帰りを待つ事にした。そして、仁愛ちゃんが洗濯モノを干してる間に、あたしは荒木田さんに、そう聞いた。
「普通の魔法使いも『私達』に含まれるんなら、結構居る。でも、う~ん、狭い意味での……自称・神様に選ばれた人間は、日本中でも二~三〇人ぐらいだ。と言っても、私には、似たような力を持ってる知り合いがもう1人居る。久留米に住んでる『水の神』の力の使い手だ」
「じゃ、何? あたしたちの力って『魔法』とは違うの?」
「私も良くは知らないけど、どうも、私達は、普通の『魔法使い』が一生修行しても身に付けるのは無理ゲーな力を、自称・神様に選ばれただけで身に付けてしまったらしい。しかも、大抵の『魔法』をかけられても無意識の内に無効化してしまうみたいだし、『魔法使い』の使い魔や式神に攻撃されても、自分でも気付かない内に、攻撃した使い魔や式神が勝手に消滅してしまうって話だ。なので、私達みたいな人間が居る事を知ってる『魔法使い』は、私達の事を良く思ってないみたいだ」
おいおい、あたし、そんなチートな能力を持ってたの? まぁ、一〇年前にアレを引き起した「神様」なら、その位の事出来てもおかしくないか……。
「でも、あくまで魔法に似てるだけの全然別の力なんで、私達に取り憑いてる自称・神様は、普通の魔法の事は良く知らないし、私達は、俗に言う『霊感』は普通の人以下みたいだ。普通の悪霊や魔物なんかは、私達に何の害も及ぼせないので、まぁ、ある意味で、私達は悪霊や魔物なんかを認識する必要が無くなってる。だから、力は私達の方が遥かに上だけど、私達より普通の魔法使いの方が向いてる事はいくらでもある。……いや、あくまで、その手の話に詳しい知り合いから聞いた話だけど」
「なるほどね……」
「あとさぁ、私も事情を良く知ってる訳じゃないけど、あんたに取り憑いてる『神様』が何をやらかした『神様』かが、私以上に事情を知らないヤツにバレたらエラい事になるぞ」
「う……うん、そこは気を付けてる。ところでさ、あたしたちみたいな人って、普段、どう云う生活してんの?」
「普通の生活だよ。私の場合は、朝は飯食って、学校行って、学校の帰りに遊んだりバイトしたりして、家に帰ったら、晩飯食ったり、ゲームしたり、本を読んだりした後に、風呂に入って寝る。今探してる香港の金持ちのガキも、私のゲーム仲間だ」
「えっ? 何て言うか……普通過ぎる……。香港の金持ちの子供がゲーム仲間以外は……」
「いや、多少、変な力を持ってても、将来は、働いて金稼いで食ってかなきゃいけないだろ。今は、奨学金とバイトで何とかなってるけど。残念ながら、自称・神様のチート能力でもお金や食べ物は生み出せない」
「学校って?」
「福岡の私大の文学部」
「文学部って、就職先とか有るの?」
「歴史とか民俗学だったら、レコンキスタあたりに就職出来る可能性が高いな」
レコンキスタ……「本土」の対特異能力者専門の広域警察だ。
「えっ? 何で、レコンキスタ?」
「昔の伝説なんかに出て来る妖怪なんかの正体は特異能力者じゃないか、って話が有るんで、そっち関係の知識が特異能力持ちの犯罪者の能力の分析に使えたりするし、魔法系の特異能力者に対抗するには『昔から伝わってる呪術や魔法の御約束ごと』を知ってた方が有利なんだ。だから、その手の知識が有る人間は、警察や警備会社では引く手数多だ」
「そうなんだ……」
「ところで、これは?」
荒木田さんが指差したのは部屋に飾ってある古ぼけた強化服。
「勇気たちのお父さんの形見。一〇年前の富士の噴火の時に、これで、勇気たちのお父さんは、沢山の人を助けたみたい」
「勇気?」
「ああ、言ってなかったね。ここに住んでる3人兄弟の一番上。あたしと同じ秋葉原高専の2年生」
「形見って事は、お父さんは?」
「5年前に死んだ。『秋葉原』の自警団のリーダーに祭り上げられたんだけど……『秋葉原』と『神保町』の自警団の下っ端同士が喧嘩して……気付いた時には、話がこじれにこじれてて、自警団のリーダー同士の一騎打ちでケリを付けるしかなくなってた」
そして、勇気たちのお父さんは、「神保町」の自警団のリーダーに呪殺された。
更に、その後、「秋葉原」の自警団「サラマンダーズ」は、自分達の元リーダーの子供である勇気たちを見捨てた。「サラマンダーズ」の新しいリーダーは、勇気たちのお父さんの派閥を粛清したのだ。もし、生きていたら勇気たち兄弟の面倒を見てくれたであろう人達は、ほぼ全員、生コンを飲まされて海に沈められた。
今は欠けている強化服の左肩の装甲。そこに、かつて描かれていたのは「サラマンダーズ」のシンボルマークだ。
「なんて言うか……言っちゃ悪いが……」
「ヤクザみたい?」
「ああ」
「聞いた事ない? この島で、マトモな『警察』が有るのは『有楽町』だけだって」
「なるほど……」
例えば、警察署長であれば、公職しかも責任ある立場である以上、身元を公表しなければならない。けど、「秋葉原」「神保町」「九段」で、「身元を公表してる警察署長」が、本物のヤクザを怒らせたりしたら、警察署長の家族の名前その他を瞬時に調べ上げられ、そして、次の日には……もし、その警察署長に小学生の子供が居たなら、その子供が学校帰りに誘拐され、更にその次の日には、その子供が死体か……同じ位酷い状態で発見される事になる。
なので、いつしか、警察はマトモに機能しなくなり、リーダーがどこの誰かを公表する気も無いヤクザ紛いの自警団――「秋葉原」の「サラマンダーズ」、「神保町」の「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」、そして、「九段」の「英霊顕彰会」……通称「靖国神社」――によって治安が維持されるようになった。
「ねぇ、レナ姉にお客さん、晩御飯はウチで食べてく?」
仁愛ちゃんの声。そうだ、もう、そろそろ、そんな時間だ。
「えっ? 今日も仁愛ちゃんが家事当番なの?」
「レナ姉からもあの馬鹿兄貴に言ってもらえる? 最近、家事はあたしに押し付けてる」
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