1 / 1
Dark Victory
しおりを挟む
朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。
「世界各国の政府は、残存人類の皆様に『今度こそ人類絶滅を成功させる』と確約しました。ようやく、我々、人類はあの悪魔達に勝利出来るのです」
まぁ、せいぜい、頑張ってくれ。
時に、西暦2049年。
俺達が、うっかり、あの「脚本破り」の「事故」を起こしてしまってから約50年後の事だった。
今回も、人類が自分達の「安楽死」に失敗したなら、次にこの手のニュースを知るのは、ラジオか紙媒体を通じてで……更にその次は口コミだろう。
2035年。
人間界が「地獄」になってしまった事で、この世界の法則が、どう変ったかが、段々と判ってきた。
人間が自分の手で「希望」を生み出せば、別の人間が、その「希望」をあっさりブッ潰し、より深い「絶望」が生まれる。
それがこの何十年間かに起き続けた事だ。
人間達は、自分達が自由意志を行使した結果、どんどん不本意な事態になっていってると思ってるだろうが……実は、まるで自然現象のように希望が絶望を生む負の連鎖が自動的に起き続けているのだ。
どうやら……その事に人間も気付いたようだった。
そして……「最後の審判」が永遠に来ないのなら……自分達の手で、それを起こしてしまえ……。
そう考える人間が出始めた。
2033年。
希望は、またしても潰えた。
人間の社会に平和をもたらした世界統一政府は、各国の旧政府・旧軍・旧警察などの関係者からなるテロリスト達の絶え間無い攻撃により、瓦解した。
テロの遠因は……俺の同胞の何人かが人間達に、あの日起きた事を教えてしまったせいだ。
でも、俺は人間社会がどう変ろうと死ぬ事も殺される事も無いだろう……多分だが……。
しかし……ここ十年近い混乱のせいで……いくつかの社会インフラがズタズタになった。
インターネットと云う暇潰しには最適なモノが再び使えるようになるのは……何十年後になるだろうか?
2031年。
俺の同胞達が人間達に捕えられ始めた……。
いや……正確には「自首」だ。
人間の科学技術がいくら進歩したって、俺達に対抗する術なんて無い。マンガのキャラが読者を絞め殺す位に有り得ない事態だ。
だが、俺の同胞達は、もう、30年以上も人間のフリして人間社会で暮してきたヤツがほとんどだ……。
その中から人間に同情する者も出て来るだろう……。
そして、ヤツらは全てをゲロした。
人間達に全てを教えた上で、人間達に人間達自身の未来を選ばせるつもりで。
2030年。
少しは人間を見直した。
俺達の存在が明らかになった事による混乱は5年と少しで治まり……そして、機能しなくなった世界各国政府に代って、世界統一政府が生まれた。
だが……一抹の不安は有る。
もし……「地獄」をマシにしようとする時、何かの反動が有るとするなら……?
2024年。
アメリカ大統領選の年だった。
その日、俺は、アメリカの大統領選の討論会の様子をネット中継で見ていた。
だが……あれが起きてしまった時、俺は、思わず叫んでしまった。
「ば……馬鹿野郎……」
大統領候補の片方を銃撃しようとした暴徒に言ったんじゃない。
馬鹿は……それを身を挺して防ごうとしたヤツだ。
十五年ばかり連絡が無いと思ってたら……アメリカに行ってたのか……。
けど……いくら緊急事態だからって……人の命を救えりゃいいってモンじゃねえだろ……。
更に事態はややこしくなるぞ……。
次のアメリカ大統領候補の内、マシな方を、悪魔が身を挺して救った場面が……全世界に生中継されちまったんだから……。
2009年6月。
「あの……センパイ、これからどうなるんですかね?」
後輩は携帯電話でいつもの愚痴を零した。
「うざいよ、オマエ。この十年で、その話、何度目だよ?」
「センパイ、今、どこですか? 電話から変な歓声みたいな音が聞こえんですけど……」
「プロレスの観戦だ」
「はぁ?……もう、人間社会での生活を楽しみまくってますね……」
「悪いか? これから、この世界がどうなるか……あの事態を引き起こした俺達にだって判んないんだ。これからは、俺達にとって永遠の余生みたいなモノだ。好きに楽しませろ。いつもと同じ話なら、もう切るぞ……。おらぁ、三沢‼ やれ、頑張れ‼ おい、どうした? お前なら、これ位……あれっ?」
翌朝、広島市内のホテルで、ファンだったプロレスラーがリング上で事故死したと云うニュースを聞いた時、俺は絶叫した。
人一人の死のせいだけじゃない。
約十年前に俺達がやった「やらかし」がフラッシュバックしたせいだった。
2001年9月。
「あ~あ……始まっちゃったか……」
人間として、この世界で生きていく事を決めた俺は、TVのニュースを見ながら、そう呟いた。
そうだ……これは始まりに過ぎない……。
俺達が約二年前にやった失敗のせいで……人間の世界は、どんどん悪くなっていく。
しかし……人類は簡単に滅ぶ事は出来ず……地獄と化したこの世界で生き続けるしか無いだろう。
どうすればいいのか、原因である俺達にさえ判らない。
1999年7月。
「あの……どうすんですか、これ?」
「い……いや……それは……その……」
「こんな『事故』起こしたら……下界で何が起きるか知れたもんじゃ……」
「わかってるけど……あいつらが、ここまで調子悪かったなんて思わなかったんだよ……。いや、あいつらだったら、多少は調子悪くても、俺達の総攻撃ぐらい受けきってくれると……」
俺達、悪魔は「脚本」とは逆に、うっかり、滅ぼしてしまった「神」と「天使」達の死体の山を目にしながら……呆然と立ちつくしていた。
この戦いで滅び去る筈だった俺達は……その後の事なんて、何も考えてなかった以上、「どうすればいいんだ?」と云う問いの答は、俺達の誰一人持っていない。
「おい……これ……」
「マズい、全員、逃げろ‼」
主を失なった「天国」は崩壊を始め……。
「見てみろ……下界もエラい事態になってるぞ」
そして、人間達は気付いていなかったが、この時、人間達の住む世界「地球」は「地獄」と融合を始めていた。
2049年。
人類の政治・軍事指導者達は、残存する全ての核兵器を爆発させたが……地球も人類も完全に滅ぶ事は無く……残された人類は更なる地獄で生き続ける事になった。
もちろん、人間界が「地獄」と化した以上、「ここ」は地獄の底ですらなく……この先には、もっと酷い地獄が待っているが……人類は滅ぶ事は有るまい。
「地獄」が囚人達の解放を許す事など有り得ない。
「世界各国の政府は、残存人類の皆様に『今度こそ人類絶滅を成功させる』と確約しました。ようやく、我々、人類はあの悪魔達に勝利出来るのです」
まぁ、せいぜい、頑張ってくれ。
時に、西暦2049年。
俺達が、うっかり、あの「脚本破り」の「事故」を起こしてしまってから約50年後の事だった。
今回も、人類が自分達の「安楽死」に失敗したなら、次にこの手のニュースを知るのは、ラジオか紙媒体を通じてで……更にその次は口コミだろう。
2035年。
人間界が「地獄」になってしまった事で、この世界の法則が、どう変ったかが、段々と判ってきた。
人間が自分の手で「希望」を生み出せば、別の人間が、その「希望」をあっさりブッ潰し、より深い「絶望」が生まれる。
それがこの何十年間かに起き続けた事だ。
人間達は、自分達が自由意志を行使した結果、どんどん不本意な事態になっていってると思ってるだろうが……実は、まるで自然現象のように希望が絶望を生む負の連鎖が自動的に起き続けているのだ。
どうやら……その事に人間も気付いたようだった。
そして……「最後の審判」が永遠に来ないのなら……自分達の手で、それを起こしてしまえ……。
そう考える人間が出始めた。
2033年。
希望は、またしても潰えた。
人間の社会に平和をもたらした世界統一政府は、各国の旧政府・旧軍・旧警察などの関係者からなるテロリスト達の絶え間無い攻撃により、瓦解した。
テロの遠因は……俺の同胞の何人かが人間達に、あの日起きた事を教えてしまったせいだ。
でも、俺は人間社会がどう変ろうと死ぬ事も殺される事も無いだろう……多分だが……。
しかし……ここ十年近い混乱のせいで……いくつかの社会インフラがズタズタになった。
インターネットと云う暇潰しには最適なモノが再び使えるようになるのは……何十年後になるだろうか?
2031年。
俺の同胞達が人間達に捕えられ始めた……。
いや……正確には「自首」だ。
人間の科学技術がいくら進歩したって、俺達に対抗する術なんて無い。マンガのキャラが読者を絞め殺す位に有り得ない事態だ。
だが、俺の同胞達は、もう、30年以上も人間のフリして人間社会で暮してきたヤツがほとんどだ……。
その中から人間に同情する者も出て来るだろう……。
そして、ヤツらは全てをゲロした。
人間達に全てを教えた上で、人間達に人間達自身の未来を選ばせるつもりで。
2030年。
少しは人間を見直した。
俺達の存在が明らかになった事による混乱は5年と少しで治まり……そして、機能しなくなった世界各国政府に代って、世界統一政府が生まれた。
だが……一抹の不安は有る。
もし……「地獄」をマシにしようとする時、何かの反動が有るとするなら……?
2024年。
アメリカ大統領選の年だった。
その日、俺は、アメリカの大統領選の討論会の様子をネット中継で見ていた。
だが……あれが起きてしまった時、俺は、思わず叫んでしまった。
「ば……馬鹿野郎……」
大統領候補の片方を銃撃しようとした暴徒に言ったんじゃない。
馬鹿は……それを身を挺して防ごうとしたヤツだ。
十五年ばかり連絡が無いと思ってたら……アメリカに行ってたのか……。
けど……いくら緊急事態だからって……人の命を救えりゃいいってモンじゃねえだろ……。
更に事態はややこしくなるぞ……。
次のアメリカ大統領候補の内、マシな方を、悪魔が身を挺して救った場面が……全世界に生中継されちまったんだから……。
2009年6月。
「あの……センパイ、これからどうなるんですかね?」
後輩は携帯電話でいつもの愚痴を零した。
「うざいよ、オマエ。この十年で、その話、何度目だよ?」
「センパイ、今、どこですか? 電話から変な歓声みたいな音が聞こえんですけど……」
「プロレスの観戦だ」
「はぁ?……もう、人間社会での生活を楽しみまくってますね……」
「悪いか? これから、この世界がどうなるか……あの事態を引き起こした俺達にだって判んないんだ。これからは、俺達にとって永遠の余生みたいなモノだ。好きに楽しませろ。いつもと同じ話なら、もう切るぞ……。おらぁ、三沢‼ やれ、頑張れ‼ おい、どうした? お前なら、これ位……あれっ?」
翌朝、広島市内のホテルで、ファンだったプロレスラーがリング上で事故死したと云うニュースを聞いた時、俺は絶叫した。
人一人の死のせいだけじゃない。
約十年前に俺達がやった「やらかし」がフラッシュバックしたせいだった。
2001年9月。
「あ~あ……始まっちゃったか……」
人間として、この世界で生きていく事を決めた俺は、TVのニュースを見ながら、そう呟いた。
そうだ……これは始まりに過ぎない……。
俺達が約二年前にやった失敗のせいで……人間の世界は、どんどん悪くなっていく。
しかし……人類は簡単に滅ぶ事は出来ず……地獄と化したこの世界で生き続けるしか無いだろう。
どうすればいいのか、原因である俺達にさえ判らない。
1999年7月。
「あの……どうすんですか、これ?」
「い……いや……それは……その……」
「こんな『事故』起こしたら……下界で何が起きるか知れたもんじゃ……」
「わかってるけど……あいつらが、ここまで調子悪かったなんて思わなかったんだよ……。いや、あいつらだったら、多少は調子悪くても、俺達の総攻撃ぐらい受けきってくれると……」
俺達、悪魔は「脚本」とは逆に、うっかり、滅ぼしてしまった「神」と「天使」達の死体の山を目にしながら……呆然と立ちつくしていた。
この戦いで滅び去る筈だった俺達は……その後の事なんて、何も考えてなかった以上、「どうすればいいんだ?」と云う問いの答は、俺達の誰一人持っていない。
「おい……これ……」
「マズい、全員、逃げろ‼」
主を失なった「天国」は崩壊を始め……。
「見てみろ……下界もエラい事態になってるぞ」
そして、人間達は気付いていなかったが、この時、人間達の住む世界「地球」は「地獄」と融合を始めていた。
2049年。
人類の政治・軍事指導者達は、残存する全ての核兵器を爆発させたが……地球も人類も完全に滅ぶ事は無く……残された人類は更なる地獄で生き続ける事になった。
もちろん、人間界が「地獄」と化した以上、「ここ」は地獄の底ですらなく……この先には、もっと酷い地獄が待っているが……人類は滅ぶ事は有るまい。
「地獄」が囚人達の解放を許す事など有り得ない。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる