世界同時多発……

蓮實長治

文字の大きさ
1 / 1

世界同時多発……

しおりを挟む
「貴方は、有色人種にしては優秀なジャーナリストだと思っていたが、そんな陰謀論を信じるとはね……」
 香港からアメリカに亡命したジャーナリストは、アメリカでも報道関係の仕事に就こうとしたが……彼女の亡命を支援したアメリカのシンクタンクは、あくまでも彼女にアメリカで新しい仕事に就く事ではなく「中国の人権抑圧の被害者」の象徴で有り続ける事を要求した。
「ところで、TVをつけてよろしいですか?」
「この話と何か関係が有りますか?」
「ええ……」
 そのシンクタンクの理事長の執務室の大型TVには、ニュース専門チャンネルが映し出された。
「私がアメリカに亡命してきた頃から、この調子です。ニュース番組のアナウンサーは白人ばかり……それも、アナウンサーを能力よりも外見で選んでいるとしか思えない」
「外見も白人である事も立派な能力ですよ。適者生存と云うヤツですな」
「何を言っているのですか?」
「貴方は、我々が白人至上主義を広めようとしていると言われるが、とんだ誤解です。全ては心有るアメリカ国民の選択であり、我々は後押しや地均しをしたに過ぎない。優秀な人種が再びアメリカの主導権を握らねば、中国がアメリカに勝利してしまう事も有り得る」
 彼女に助けの手を差し延べたのは……とんでもない連中だった。どうやら、彼らにとっての「アメリカ国民」には……いや「人間」には有色人種は含まれていないらしい。
「もちろん、貴方が『有色人種が作った国が万が一にも自滅しなければ全体主義国家と化す』と云う事実を広めるシンボルになっていただければ、我々にも都合が良いので、今後とも……」
「ふざけないで下さい」

 ほどなくして、彼女の亡命を支援したシンクタンクは「彼女のアメリカへの亡命は、民主化運動により香港に居られなくなったからではなく、中国のスパイとしてアメリカで諜報活動を行なう為だった疑惑が有る」との声明を出し……しかも、ホワイトハウスも、それを「真実」だと認定した。
 香港に続いてアメリカからも追われる事になった彼女を受け入れたのは、アメリカ・中国に続く「第3の超大国」となりつつ有るインドだった。
「あの……マハトマ・ガンディー廟に参拝をしたいのですが……。香港で民主化運動をやっていた頃、マハトマ・ガンディーのインド独立運動の手法を参考にしていましたので……」
 インドに到着した彼女は、彼女の再亡命を支援したインド政府のエージェントにそう言った。
「ああ、外国では、まだ、そのような認識なのですね?」
「えっ?」
「今のインドでは、ガンディー氏が率いたインド国民会議よりも、現与党の方がインド独立に果した役割は大きかった、と云う認識が一般的です」
 彼女は、その一言で、何か不穏なモノを感じた。
「より端的に言いますと……今のインドでは『ガンディー廟に行く』事そのものが、現政権に反対する不穏分子の行動と見做されかねないのですよ」
 ふと、彼女の脳裏に、民主主義そのものが世界から消えつつ有るのでは? と云う嫌な想像が浮かんだ。
 頭を切り替えるつもりで、空港から移動する車から、外を見ると……ヒンドゥー至上主義者団体の旗を掲げ、銃を抱えた男達の集団が、まるで軍隊のように堂々とパレードを行なっていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

妹の初恋は私の婚約者

あんど もあ
ファンタジー
卒業パーティーで、第一王子から婚約破棄を宣言されたカミーユ。王子が選んだのは、カミーユの妹ジョフロアだった。だが、ジョフロアには王子との婚約が許されない秘密があった。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

処理中です...