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第一章:ルーズ戦記

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 いわゆる「特異能力者」の存在が明らかになる以前から指摘されていた……らしい「代議制民主主義の行き詰まり」。(らしいと言うのは、俺が生まれた頃には「特異能力者」の存在が明らかになっていたからだ)
 その対策として世界各地で導入が進められているのが、いわゆる「抽選制民主主義」だ。
 議会・裁判所・検察・その他の公的機関、それからの「監査」を抽選で選ばれた素人が行なう。
 まずは、そこから始まった。もっとも、二〇世紀から日本でも検察審査会制度が有ったので、それが拡大されたようなモノだが……。
『何で、「外」では、こんな愚かしい制度が有るんだ? しかし、今回は、その愚かしい制度を我々が利用出来る訳か……』
 会議室の大型モニタには、通称「伝統文化地域」の政治派閥の1つ「大阪派」の幹部が映っていた。
 その口調は……妙に芝居がかったモノだが……高校の時の文化祭で観た演劇部の面々の方が、まだ、演技力が有るような気がしないでもない。
 まぁ、通称「大阪派」の中でも「お笑いタレント出身」の政治家は、十年ほど前の大阪壊滅の際に大半が死亡または行方不明になったので、演技力や話術がイマイチな政治家しか残ってないのは仕方ないが……。
 約二〇年前の富士山の噴火で「本物の関東」と当時の日本政府は壊滅した。
 その後、滅んだ旧政府の後継機関を自称する「正統日本政府」が主に廃墟と化した関東で活動し、同時に旧大阪府が勝手に「新しい日本政府」こと「シン日本首都」を名乗った。
 そして、その両方は「正義の味方」「御当地ヒーロー」により滅ぼされた……が、2つの「日本政府を自称したテロ組織」の支持者は残った。
 結果が今のこの状況だ。
 日本は2つに分裂した。
 新しい時代に対応した「狭義の日本」である「外」と、「正統日本政府」や「シン日本首都」の支持者達が住む「伝統文化地域」に。
 更に「伝統文化地域」内では、「正統日本政府」の流れを汲み「一部のエリートを除く全臣民を脳改造して、古き善き日本を取り戻す」事を目標に掲げる「東京派」と、「シン日本首都」の流れを汲み「超チート級の精神操作能力者である『シン天皇』を生み出し、日本を支配する」事を目的とする「大阪派」の内紛が続いていた。
 と言っても、この「外」では「義務教育で『精神操作能力への抵抗訓練』が実施され、そもそも、大半の『正義の味方』『御当地ヒーロー』は(後方支援要員や非戦闘員のスタッフを含めて)精神操作能力者への耐性を持っている(らしい)」ような状況では、時間が経つほど「大阪派」が不利になる。
 ちなみに、俺が勤務しているこの会社は「大阪派」のフロント企業だ。
「では……こいつを『正義の味方』監査委員会に潜り込ませて『正義の味方』を自称するテロリストどもの正体を探らせます」
 課長が続けて、そう言った。
『では、頼むよ、古川君とか言ったかな? 君の働き次第では……我々が「東京派」に巻き返す事も夢では無いだろう』
「は……はぁ……」
『自称「正義の味方」どもの強みは「正体を明かしていない事」だ。正体さえ判れば……対処の方法はいくらでも有る』
「え……えっと……例えば……?」
『奴らの自宅に迫撃砲を撃ち込むとか色々有るだろ』
「え……えっと……それってテロでは?」
「はぁ? 何言ってやがる? テロリストは奴らで、テロリストをブチのめす事はテロじゃねえ。そんな事も判らねえから、お前はいつまで経っても……」
 問題は、その「テロリスト」どもがデカいツラをしている「外」の方が、「テロリスト」どもが居ない「伝統文化地域」より、科学技術も進んでいて、経済的にも発展していて、自由で平等で安全な社会だと云う点だが……ここでその事を指摘したが最後、俺は無事では済まない。
『待ちたまえ。良い手を思い付いた。奴らの身元が判明しても、攻撃すべきは、奴らではない。奴らの隣人だ』
「へっ?」
「素晴らしいお考えでありますッ‼」
『奴らの近所の人間から狙う。奴らに子供が居れば、その子供が行っている学校を狙う。何なら奴らの家族を狙ったフリをして関係ない良く似た誰かを誘拐して、その死体を晒す。そうすれば、「外」の愚かだが、善良なる臣民達も、自称「正義の味方」どもの危険性に気付き、自発的に奴らを迫害・粛清してれる筈だ』
「あ……あの……もし、『テロリスト』征伐に巻き込まれる『隣人』が私だなんて事は……その……?」
 俺は当然の疑問を口にした。
『安心したまえ。そんな事になっても、有るべき正しい日本が再建された暁には、君の御霊みたまは新しく再建された靖國神社に英霊として祀られるだろう』
 いや、神様にしてもらわなくてもいいんで、たのむから、1人の平凡な人間のまま平和な人生を送らせてくれ。
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