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第一章:ルーズ戦記

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『話にならん』
『なぁ、もう少し派手な方法は無いのか?』
『「勝てば良かろうなのだ」などと云う虚無主義ニヒリズムを信奉するなど「正義の味方」を名乗るテロリストどもと何が違うのだ? 恥を知れ』
『我々の貴重な時間を無駄にしたのか。この馬鹿は殺処分だな』
「おい、てめぇ、何考えてやがる? 近い将来の日本の指導者となるべき方々の時間をわざわざ取ってもらって……やった提案がコレか?」
 「正義の味方」監査委員の公務が休みの日に、ウチの会社で、上部組織の幹部にある提案をしたが……結果がコレだ。
『柳ヶ瀬君とか言ったかね? 君こそ、何故、部下が我々に対して行なう提案を事前にチェックしていなかったのかね?』
「えっ?」
『懲戒は覚悟しておきたまえ』
「ま……待って下さい。その……私は……」
『彼は我々を支持してくれている「外」の地方政治家の弟だ。飼い殺しで勘弁してやるのが妥当だろう』
『そうか……なら、処分するのは馬鹿な部下だけにするか』
 俺がやった提案は……「『正義の味方』の前線要員よりも遥かに多くの非戦闘員の協力者が居るのが確実だ。狙うなら、前線要員よりそっちだ」と云うモノだったが……。
『君は何かを勘違いしているようだ。君がやった方法で「正義の味方」を名乗るテロリストどもの組織を潰せたとしよう。でも、愚民どもには自称「正義の味方」どもの組織が自壊したように見える可能性が高い。違うかね?』
「え……あ……」
『勝てば良いと云うモノではない。自称「正義の味方」どもを我々が潰すか、愚民どもが自称「正義の味方」どもこそ害悪と見做すように仕向けねばならない。それも、なるべく華々しい形でな』
「え……えっと……」
『自称「正義の味方」どもを潰すのは過程に過ぎん。その後に、我々が奴らに取って代る新しい日本の支配者になれねば……何の意味が有る?』
『大体、自称「正義の味方」を支援している非戦闘員など、いくらでも代りが居るだろう? そんな奴らを狙うよりも、代りが居ない戦闘要員・前線要員を狙う方が効率的だ』
 そうなのか?
 本当に、そうなのか?
 中央集権・上意下達型の組織と中枢の無い「組織と呼べるかも判らない組織」。
 過剰な体育会系文化と、体育会系文化の欠如。
 俺達と「正義の味方」が何から何まで逆だとしたら……「正義の味方」達にとって「代りが居ない」のは、俺達や一般人が「正義の味方」と認識している前線で戦ってる奴らじゃなくて……背後に居る非戦闘員じゃないのか?
『一両日中に、彼の顔をスキャンする為の装置を手配する』
「はぁ?」
『彼が、ここまで無能な以上は……彼の偽物を作り、「正義の味方」監査委員に潜り込ませる事にしよう』
『おお、いい考えた』
『流石だな』
 いよいよ……俺も殺処分か……。
 多分、そんな計画、あっさり破綻するだろうが、俺が生きて「ざまぁ」と言ってやる事は出来ないだろう。
 万が一、それまで生きてられても、上層部が立てた計画(その場の思い付きを「計画」と呼べればだが)の失敗を「ざまぁ」と嘲笑ったのがバレたら、やっぱり殺処分だ。
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