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第一章:ルーズ戦記

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「あの、営業の古川ですけど……IT管理部門の人って、今、誰か居ます?」
 夕方ごろ、俺は自分の会社に電話をした。定時ギリギリだったが……。
『ちょっと待って下さい……』
 そうか……。
 ちょっとか……。
 まだか……。
 まだか……。
 早くしろ。
 手短に話したいんだ。
 だから、まだか。
 早く出ろ。
『あの……代ったけど……あんた、たしか……』
「ええ、そっちの方の仕事で、よく判んない事を言われて、俺みたいな馬鹿にも判るように解説して欲しいんですが……」
『何?』
「『インターネットに中枢が無い』って、どう云う事ですか?」
『はぁ?』
「『はぁ?』って、何が『はぁ?』ですか?」
『文字通りの意味ですよ。インターネット全体を管理してる組織や大型コンピュータは無い。重要な組織やコンピュータは有るには有るけど、機能を停止してもバックアップが有る。ある経路が何かの理由で断たれても、迂回経路が1つでも残っていれば、自動的にその迂回経路を見付ける仕組みが有る。例えば、検索サイトのRampo級の世界的なサービスであれば、世界各地に、ほぼ同じ機能のデータセンターをいくつも持ってて、その全部が機能停止しない限り……検索のレスポンスの速度は落ちるけど、一応はサービスは提供し続けられる』
「何で、そう云う仕組みになってるんですか?」
『インターネットが、元々、軍用だからですよ。障害が起きたり……敵に攻撃されても、コンピュータ同士のデータ通信が可能な仕組みを研究してったら……結果的に出来たのが今のインターネットの原型です』
「えっ?」
『だから、「えっ?」って何が「えっ?」なの?』
「インターネットの原型は……軍事研究だった……?」
『そう、二〇世紀のアメリカ軍の研究』
「変じゃないですか?」
『何が?』
「軍隊って、中枢が有って指揮系統が明確なモノですよね」
『それが?』
「なのに軍事研究の結果、中枢も指揮系統や上下関係が無いシステムが出来ちゃったんですか?」
『だから、それがどうしたの?』
「い……いえ……。ちょっと、わかりました」
『わかった、って何が?』
「は……はぁ……何か勘違いしてたみたいで。すいません」
 マズい。
 変な陰謀論が頭に浮かんだ。でも、あくまでも思い付いた自分でさえ頭がおかしい陰謀論だと判る考えだ。
 二〇世紀なら……「正義の味方」など影も形も無かった頃だ。
 でも……その頃に……合理性を追及していった結果……「正義の味方」達の「」を思わせるシステムが生まれている。
 そして、それは……俺達の日常に無くてはならないモノと化している。
 モヤモヤしたまま会社の寮に戻り……Wikipediaでインターネットの歴史を調べ……。
 嘘だ……。
 どうなってる?
 俺の脳が、陰謀論に取り憑かれかけてるから……その陰謀論に沿った情報だけを無意識の内に取捨選択してるだけか?
 一般人がインターネットを使えるようになったのは、九〇年代半ば。
 そして、二〇〇一年に「特異能力者」の存在が明らかになる。
 〇〇ゼロゼロ年代後半に、日本で、最初の「正義の味方」活動を行なう者の存在が確認され……。
 妄想だ。
 妄想に決ってる。
 あまりに予想外の事が次々と起きたせいで、変な考えに取り憑かれかけてるだけだ。
 
 しかし、たまたまの筈だ。
 俺に「正義の味方」の「組織」の説明をした「誰か」も……あくまで喩えに使っただけだ。
 「鹿鹿
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