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おい、総理大臣は、いつ帰国するんだ?

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「で、国内ではニュースになってるんだろうな?」
 私は、秘書官にそう訊いた。
 我が国では、閣僚が外遊する際は、国会の承認が必要になる。
 だが、これは、あくまで外遊の帰りに立ち寄っただけだ。
 私はある国への外遊の帰りに、別の国に立ち寄り……そして、その国の大統領と緊急対談を行なう事にした。
 そう……現在、更に別の国からの侵略に果敢に立ち向かってる例の国だ。
 まぁ、支持率回復の為のコスい手ではあるが……残念ながら、我が政権の支持層は、この程度のコスい手に他愛もなく引っ掛かる阿呆どもだ。
「それが……」
 秘書官は、私にタブレットPCの画面を向ける。
「何だ、これは?」
 表示されているのは、よくある政治スキャンダルだ。
 私が若い頃……インターネット普及前だったら、政権の2つや3つ軽く吹き飛ぶクラスの不祥事だったが、今は時代が違う。
 ネット上に、どんな事が有っても……それこそ、私がそいつの家族や恋人を目の前で殺したとしても、我が政権を支持してくれる阿呆どもが山程居る。
 あの頃とは逆に、こんなスキャンダルの十個や二十個、ニュースになったとしても我が政権は倒れる事は有るまい。
「与党の非主流派がリークしたようでして……」
「それがどうした? 誰がリークしたか判らないなら、帰国してからゆっくり調べればいい。リークした阿呆は、次の選挙で、見せしめに痛い目に遭わせればいいだろう?」
「はぁ……もちろん、誰がリークしたか、まだ不明ですが……」
「だから……何が問題なんだ?」
「総理が××国へ向かってる事は……野党に騒ぐ隙を与えない為に正式発表ではなくリークで報道機関に流す予定でしたので……」
「何か、手筈通りに行ってない事が有るのか?」
「いえ、手筈通りに……総理の派閥の重鎮がリークする事になっていまして……」
「おい、手筈通りに行かなかったのか?」
「いえ、手筈通り、報道機関にリークしました」
「じゃあ、何も問題は無いのか?」
「いえ、問題が大有りです」
「どうなってんだ?」
「報道機関がリーク情報を報道してくれません」
「はぁ? 何でだ?」
「ネット上の与党の応援団のせいです」
「おい、ちょっと待て、どうなってる?」
「ですから……このスキャンダルがリークされた直後に……与党の応援団が……、と炎上騒動を起こしてくれまして」
「結構な事じゃないか」
「いえ、ですから、マスコミの方は……この炎上騒動を受けて、××
『あの……総理、こちら操縦席ですが……近隣の国の戦闘機が接近してきて警告を……』
「おい、どうなってる?」
『当機の国籍・所属・目的を明かせと……5分以内にを言わなければ領空侵犯を行なった不審機として撃墜すると言っています』
「いや、△△国の総理大臣の専用機で××国に向かっている途中だと言ってやれ」
『言いましたが……、と……』
「い……いや、ちょ……ちょっと待て……おい……」

『次のニュースです。外遊からの帰国中に行方不明になった△△国の総理大臣の専用機の消息は、一週間経った今でも全くつかめておりません』
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