青少年に対するゲームの影響

蓮實長治

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青少年に対するゲームの影響

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「何をもって魅力的とするかは議論の余地は有りますが……まぁ、ここで言う『魅力的』は、その実験の参加者の大半が『魅力的』だと思う外見だと考えて下さい」
 大学のサークルの先輩パイセンが所属しているゼミの先生は、そう説明した。
「ある心理学の実験で……参加者にオンラインゲームをやってもらい、その半分に魅力的な外見のキャラクターを使ってもらった。そして、残りの半分には、その逆のキャラクターを使ってもらった。やがて、前者のグループの人達は現実でも自信のある言動をする傾向が出て、後者は現実でも自信を喪失したかに見える言動をする傾向が出るようになった、と……」
「でも……先生……。これ、どう考えても、そんな生易しい状況じゃないと思いますよ」
 先輩パイセンは、痩せ衰え、顔色は悪くなり、体から悪臭を放っている俺を指差して、そう言った。
「ところで、どんなオンラインゲームなんですか?」
「それが……そのゲームについて調べようとしても、ネット上から情報が消えてるんです」
「そんな馬鹿な……」
「ただ『呪われたゲーム』の噂だけが有って……その手の噂が載ってるサイトの画像を見てみたら……」
「その『呪われたゲーム』と彼がプレイしたゲームの画面がよく似ていた、と」
 俺と先輩パイセンは同時に首を縦に振った。
「あぁ……すいませんね……。霊能者とか、その手の人には……心当りが無いんで……」
 話は数日前に遡る。

『モンスターは死ぬ間際に貴方達に呪いをかけました。貴方達は、能力低下の呪いを受けました』
 ここ数ヶ月ハマってるオープンワールド型のMMORPGで、かなり強いモンスターに遭遇し、なんとか倒したその瞬間、画面にとんでもないメッセージが表示された。
 そして、筋力・耐久力・知能・魅力・精神力……ともかく全能力が四分の三~三分の二に下っていた。
「嘘だろ~!!」
 慌てて最も近い町に戻ろうとしたが……パーティー全員が能力値が下ってるせいで、途中で遭遇した雑魚モンスターにも苦戦し、5人のパーティーの内、町に戻れたのは3人だけだった。
 しかも、町に戻って判ったのは、呪いを解く方法は有るが、とんでもない金(と言っても現実の金ではなくゲーム内での)が必要だと云う事だった。
 生き残ったパーティーのメンバーと、どうするか話しても結論は出ず、結局、その晩は一端ログアウトした……。

「お……重い……」
 翌日の朝、ノートPCを入れた鞄を背負って、大学への道を歩いている途中に、思わず、そう言ってしまった。
 俺は、自宅でゲームする為のノートPCを大学でも使っていた。そのノートPCは、1~2世代前のだけど、まだ十分に使えるゲーム用のノートPC……つまり、重さは普通のノートPCよりも重い。……しかし、こんなにも重かったか?
 大学に着くまで、1km足らずなのに、何度も立ち止まって小休止をする必要が有った。
 そのせいか、講義を聞いても、半分も理解出来なかった。
 そして、夜は夜で、アパートの階段を昇るのも一苦労。部屋に帰り着いた瞬間、泥のように眠ってしまった。

 流石に数日後には、何かおかしいと気付いた。
 俺の手足は……こんなに細かったっけ?
 鏡を見ると……写っているのは、かつての俺に良く似た……顔色も人相も悪い男。
 大学へ行く気力どころか、近所のコンビニへ行くのさえ……何だったらトイレや風呂さえも億劫になっている。
 そんな状態なのに、何故、PCを立ち上げて、あのゲームをしようと思ったのか、俺自身にも判らない……。
 でも、画面にまず表示されたのは……。
「警告!!:呪いの効果により、日に日に能力値は下っていきます。どれか1つでも能力値が0になった時点で貴方は死にます」
 どう云う事だ?……まさか……。
 能力値を見ると、たしかにほんの少しだが、この前より下っている能力がいくつか有った。

「おい、どうなってんだ、こりゃ?」
 翌朝、車を持ってる知り合いの1人であるテニスサークルと称する事実上のゲームサークルの先輩パイセンに助けを求める羽目になった。
「すいません……車で、病院に連れてって下さい……ロクに……動けないんです……」
 俺の体は傷だらけになっていた。傷1つ1つは浅い。しかし、たった一晩で……素人目にも化膿してるとしか思えない状態になった上に……体温を測ると40度近く……どうも、この化膿が原因らしい。
 傷の原因は、自分でも信じられないモノだった。
 例のゲームをプレイしていると、モンスターからダメージを受ける度に……現実でも、体中に傷が出来ていったのだ。
「ところで……これ……何の臭いだ?」
 傷の化膿のせいなのか、他に理由が有るのかは不明だが……これ以降、俺の体は、他人を不快にさせる強い体臭を放つようになった。
 とりあえず、病院では抗生物質を処方してもらい……この心霊現象にしか思えない高熱と化膿にも、何故か抗生物質は効き目は有ったようだった。

「そんな名前のゲーム、聞いた事も無いぞ。ググっても引っ掛からない」
 病院からアパートに戻ってから先輩パイセンは俺にそう聞いた。
「えっ?」
「大体、そのゲーム、どうして始めたんだ」
「そ……それは……」
 嘘だ……思い出せない。このゲームをどこで知り、いつ始めたか、全く思い出せない……。
「そう言や、ウチのゼミの先生から似たような話を聞いた事が有ったな……」
 だが、結局、その先生が言ってたのは、心理学の実験の話で……心霊現象の話では無かった。

「もう、このゲームのアカウントそのものを消すしか無いだろ」
 先輩パイセンは俺にそう助言した。
「それしか無いですかね?」
「駄目元だ。やってみるか……」
 そして、アカウント削除の最終確認ダイアログが出た。
「お……おい……これ……」
「OK押したら……どうなるんですか?」
「キャンセルだ、キャンセル!! もし、この通りの事になったら……俺は責任持てねぇ!!」
 確認ダイアログには、こう表示されていた。
『本当に貴方を殺しますか?』

 結局、俺は大学を休学し、実家で療養する事になった。
 ゲーム内での筋力が落ちると、現実でも筋力が落ちる。
 ゲーム内での知能が落ちると、現実でも大学の講義の内容が理解出来なくなる。
 ゲーム内での耐久力が落ちると、現実でも疲れやすくなったり、病気に罹りやすくなる。
 ゲーム内での魅力が落ちると、現実でも人相が悪くなり体から悪臭が出るようになる。
 では……だめだ……本当に現実でも知能が落ちてるみたいだ……難しい事を考えられなくなりつつある……。

 自分を取り戻した時には、数ヶ月の時間が過ぎていた。
 どうやら、俺は、助かりたい一心でカルト宗教にすがって洗脳され、親の金を、そのカルト宗教に貢いでしまったらしい。何とか奪還され、逆洗脳をされたらしいが、家族は一人残らず完全に厄介者を見る目で俺を見るようになっていた。
 なるほど、ゲーム内で精神力が下がったら、現実では洗脳されやすくなる訳か。
 PCを起動し……例のゲームを開始すると……まずい……俺に残された時間は……もう……ほとんど無い。

「鬱状態みたいなんで、抗鬱剤を処方しときますね」
「はぁ……」
 自殺を試みた俺は、精神科に連れて来られて、そう言われた。そして、精神科の医者に処方された薬を飲んだ後……再び記憶が途絶えた。

「な……なんだよ……ここは……一体?」
「うわぁあああああっ!!」
 次に意識を取り戻したのは……棺桶の中だった。葬儀屋の作業員らしき誰かが、恐怖の叫びを上げた。
 俺は「生き返った」と云う前代未聞の理由で病院に担ぎ込まれる事になった。……って、そもそも生き返ったヤツの診断をやった事の有る医者って居るのか? ってか、これ医者の仕事なのか?

「死んでますね」
「えっ?」
「心臓も動いてません。体組織も腐敗が始まってます」
 病院の医者は、そう説明した。
「どうすれば良いか、さっぱり判りません……。こんなケースは私も初めてなので……」
 それは、そうだろう。でも、どうすりゃいいんだ、これから……。

 どうやら、俺は精神科の医者に処方された抗鬱剤が効き過ぎて躁状態になり、弱った体で外をほっつき歩き、野垂れ死んだらしい。
 なら……どうして生き返った……と言えるかは不明だけど、今のこの謎の状態になったんだ?
 俺は、もう一度、ゲームを立ち上げた。
『貴方は死にましたが、その死体は死霊使いネクロマンサーによってゾンビに変えられました。貴方の使用キャラは、このゲーム内にまだ存在していますが、貴方が自分のキャラを操作する事は出来ません』
 たのむ……誰か……俺を……かつて俺だったゾンビを……殺してくれ……。
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