国家機密漏洩容疑

蓮實長治

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国家機密漏洩容疑

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「では、検察側は起訴状を読み上げて下さい」
 この年、その国で行なわれた国家機密保護法改正後としては初の国家機密漏洩罪容疑の裁判が開始されようとしていた。
「警告」
「あの……起訴状を読めと言ったのですが……」
「裁判長、御質問が有れば、最後まで読んでからにして下さい。では、改めて、起訴状を読み上げます。警告。本裁判の裁判官・検事・被告・弁護人・傍聴者・裁判所および検察職員は、この裁判の内容を見聞きした事により、国家機密保護法違反の当事者となる虞れが有る。もし、これらに該当するいずれかの者が国家機密保護法違反の容疑者または参考人・証人となった場合には、その者は黙秘権を有する。また、逮捕・取調べにおける証言は裁判で不利な証拠となる場合が有る。その者には弁護士の立ち会いを求める権利が有り、経済的理由などで、弁護士を雇う事が出来なければ、公選弁護人を付ける権利が有る。ただし、自分の弁護士に本裁判で見聞きした情報を提供した場合、弁護に必要なものであっても、更に国家機密漏洩罪に問われる可能性が有る」
「それ……裁判がマトモに行なえるんですか?」
「はい。検察としては裁判の実施は無理と判断しました。と云う訳で起訴を取下げます」
「……やれやれ……」
「あと、逮捕状の請求をお願いしたいのですが」
「はぁ?……まぁ、いいですけど……あの、何で、を出す必要が有るんですか?」
「この裁判の準備の為に、国家機密に指定された情報にアクセスする必要が有りましたので……これから自分達の身柄を警察に引き渡す事になりました」
「……そもそも、何で首相の汚職に関する情報が国家機密に指定されたんだ?」
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