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人類滅亡は、どか〜んとではなく、まったりと……でも確実にやって来る
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「どうも~、生協の配達です」
「いつも、ご苦労様」
玄関のドアを開けると……そこに居たのは、聞きなれた配達員さんの声の……見慣れないモノだった。
「えっと……」
「すいません、例の伝染病のせいで、これを遠隔操作して配達をする事になったんです」
「ああ……そう、ご苦労様……」
「いやぁ……でも、生身でやってた頃より体力なんかは要らないんで、あんまり『ご苦労様』じゃないんですよね」
配達員の代りに居たのは、例の伝染病による不要不急の外出禁止の政府通達が有った頃に、TVのニュースで見たロボットだった。確か、一〇年ほど前からユニークな家電製品を次々と開発してきたヨーロッパのメーカーが作ったロボットだ。
「あなた……少しは運動したら?」
「でもなぁ……」
夫が定年退職して5年目。そして、例の伝染病が国内で爆発的流行を始めて約半年。
仕事と親戚以外の友人・知人が居なかった夫は、家の中でゴロゴロし続け、でっぷりと太っていった。
「駅前の映画館に映画でも観に行かない?」
「新作が減ってるらしいし、開くのは昼近くで、閉まるのは夕方ごろだ」
「買い物とか……」
「宅配で何とか成るだろ」
「散歩とか……」
「もう、外に出ても、ゆっくり出来る場所が無い。喫茶店も図書館もパチンコ屋もネットカフェも閉まってる」
その年の一〇月末。
「え~、今夜も自宅より失礼します。本日のニュースです」
夜のニュース番組。司会者が居るのは、TV局のスタジオではなく、自宅の書斎らしき部屋。
素人目にも、照明やカメラ写りなんかは、TV局のスタジオでやっていた頃の方がマシに見えたが、もう慣れた。
そして、TVのニュースで東京の渋谷のハロウインの様子が映し出された。
そこに映っていたのは……人間三〇%に対して……あのロボット達が七〇%ぐらい。
ロボット達は表面に思い思いのペイントがされており、様々な仮装をしている。
よく見ると、微妙に形が違うモノが複数種類居るようだ。
続いてアナウンサーは、あのロボット達についての国際規格が制定された事を告げていたが……どうやら、既に、あのロボット達を作っているメーカーが複数有る以外は良く判らず、これから何がどう変るかは、さっぱり不明だった。
翌年の新春のTVの特番では、出演者の半分以上がロボット達になっていた。
そして、松の内が明けて、国会が始まると……大臣も国会議員も官僚も、生身では国会に来なくなり……ロボット達を代りに出席させていた。
「どうも~、生協の配達です」
聞き慣れた声がした。今年最初の配達だった。
「いつも、ご苦労様」
「いつも……? ああ、そう云う事か……。えっと……前任者は……死にました。例の伝染病で……」
「えっ?」
「もう、私には『中の人』は居ません」
「でも……どうやって……動いてるの?」
「前任者がやってきた事を学習する機能が付いてたので、これまでの『学習』を元に動いてます」
ロボット配達員の動きや仕草や声は……異様に人間臭かった。下手をすると、これまで以上に……。
その年の内に、「中の人」が居ないロボットが世界で初めて大企業の社長になったと云うニュースが流れ……次の年には、最早、ロボット達無しには社会が維持出来なくなっていた。
工場も、農家も、発電所も……全て従業員・労働者の半分以上は「『中の人』が居ないロボット」になっていた。
たまに町中に出ると歩いてるのはロボットばかり。
通販で買えないモノや、通販で買うと送料の方が高くなるようなモノを買う為に買い物に行けば、店員さんもロボットばかり。
しかし、相変らず、政府は、伝染病による外出禁止を呼びかけ続けていた。
更に次の年、夫が死んだ。
死因は例の伝染病ではなく、持病の悪化だった。
葬儀屋さんの車に乗って、火葬場で夫と最後の別れをした。
ちなみに、葬儀屋さんも、火葬場の職員もロボットだった。
親類も知人も居ない私1人だけの「最後の別れ」。
そして、葬儀屋さんの車に乗って、火葬場から自宅に帰る途中、反対車線を奇妙なモノが何台も走っているのを見た。
「あれ……何?」
「どうかしましたか?」
車の運転をしているロボットの葬儀屋さんが問い返す。
「いえ、さっき、あっちの車線を通ったトラック……運転席が無かったような……」
「ああ、自動操縦車ですよ。貨物運送専用のヤツだと、人やロボットが乗るスペースは要りませんから……」
「……そうなの……」
「ええ、私達、人間型と違って、四方八方を同時に見たり出来るので……もうすでに、人間の皆さんや、私達人間型ロボットより、巧くて安全な運転が出来るみたいですね」
そして、私は八〇を超えた齢になっていた。
いつしか、TVから子供向けの番組が消えていた。どうやら、ネット上からも子供向けの動画は……少なくなっているらしい。
「子供向け」のモノの減少速度は……人間向けのモノ全体の減少速度に比べても、著しいらしい。
私達は、老人ホームならぬ人間ホームで「保護」されていた……。
TVの国会中継では……ロボットの閣僚と、同じくロボットの野党議員が……「絶滅危惧種」と化しつつある「人間」を如何にして救うかについて、激しい論戦を繰り広げていた。
と言っても、国会議事堂は既に単なるシンボルと化しているらしい……。仕事や趣味やライフスタイルに合わせて、様々な大きさや姿に「進化」していったロボット達を一同に集めるのは無理で、ロボットの議員が多数派になった頃から、国会はオンラインで行なわれるようになっていた。
「いつも、ご苦労様」
玄関のドアを開けると……そこに居たのは、聞きなれた配達員さんの声の……見慣れないモノだった。
「えっと……」
「すいません、例の伝染病のせいで、これを遠隔操作して配達をする事になったんです」
「ああ……そう、ご苦労様……」
「いやぁ……でも、生身でやってた頃より体力なんかは要らないんで、あんまり『ご苦労様』じゃないんですよね」
配達員の代りに居たのは、例の伝染病による不要不急の外出禁止の政府通達が有った頃に、TVのニュースで見たロボットだった。確か、一〇年ほど前からユニークな家電製品を次々と開発してきたヨーロッパのメーカーが作ったロボットだ。
「あなた……少しは運動したら?」
「でもなぁ……」
夫が定年退職して5年目。そして、例の伝染病が国内で爆発的流行を始めて約半年。
仕事と親戚以外の友人・知人が居なかった夫は、家の中でゴロゴロし続け、でっぷりと太っていった。
「駅前の映画館に映画でも観に行かない?」
「新作が減ってるらしいし、開くのは昼近くで、閉まるのは夕方ごろだ」
「買い物とか……」
「宅配で何とか成るだろ」
「散歩とか……」
「もう、外に出ても、ゆっくり出来る場所が無い。喫茶店も図書館もパチンコ屋もネットカフェも閉まってる」
その年の一〇月末。
「え~、今夜も自宅より失礼します。本日のニュースです」
夜のニュース番組。司会者が居るのは、TV局のスタジオではなく、自宅の書斎らしき部屋。
素人目にも、照明やカメラ写りなんかは、TV局のスタジオでやっていた頃の方がマシに見えたが、もう慣れた。
そして、TVのニュースで東京の渋谷のハロウインの様子が映し出された。
そこに映っていたのは……人間三〇%に対して……あのロボット達が七〇%ぐらい。
ロボット達は表面に思い思いのペイントがされており、様々な仮装をしている。
よく見ると、微妙に形が違うモノが複数種類居るようだ。
続いてアナウンサーは、あのロボット達についての国際規格が制定された事を告げていたが……どうやら、既に、あのロボット達を作っているメーカーが複数有る以外は良く判らず、これから何がどう変るかは、さっぱり不明だった。
翌年の新春のTVの特番では、出演者の半分以上がロボット達になっていた。
そして、松の内が明けて、国会が始まると……大臣も国会議員も官僚も、生身では国会に来なくなり……ロボット達を代りに出席させていた。
「どうも~、生協の配達です」
聞き慣れた声がした。今年最初の配達だった。
「いつも、ご苦労様」
「いつも……? ああ、そう云う事か……。えっと……前任者は……死にました。例の伝染病で……」
「えっ?」
「もう、私には『中の人』は居ません」
「でも……どうやって……動いてるの?」
「前任者がやってきた事を学習する機能が付いてたので、これまでの『学習』を元に動いてます」
ロボット配達員の動きや仕草や声は……異様に人間臭かった。下手をすると、これまで以上に……。
その年の内に、「中の人」が居ないロボットが世界で初めて大企業の社長になったと云うニュースが流れ……次の年には、最早、ロボット達無しには社会が維持出来なくなっていた。
工場も、農家も、発電所も……全て従業員・労働者の半分以上は「『中の人』が居ないロボット」になっていた。
たまに町中に出ると歩いてるのはロボットばかり。
通販で買えないモノや、通販で買うと送料の方が高くなるようなモノを買う為に買い物に行けば、店員さんもロボットばかり。
しかし、相変らず、政府は、伝染病による外出禁止を呼びかけ続けていた。
更に次の年、夫が死んだ。
死因は例の伝染病ではなく、持病の悪化だった。
葬儀屋さんの車に乗って、火葬場で夫と最後の別れをした。
ちなみに、葬儀屋さんも、火葬場の職員もロボットだった。
親類も知人も居ない私1人だけの「最後の別れ」。
そして、葬儀屋さんの車に乗って、火葬場から自宅に帰る途中、反対車線を奇妙なモノが何台も走っているのを見た。
「あれ……何?」
「どうかしましたか?」
車の運転をしているロボットの葬儀屋さんが問い返す。
「いえ、さっき、あっちの車線を通ったトラック……運転席が無かったような……」
「ああ、自動操縦車ですよ。貨物運送専用のヤツだと、人やロボットが乗るスペースは要りませんから……」
「……そうなの……」
「ええ、私達、人間型と違って、四方八方を同時に見たり出来るので……もうすでに、人間の皆さんや、私達人間型ロボットより、巧くて安全な運転が出来るみたいですね」
そして、私は八〇を超えた齢になっていた。
いつしか、TVから子供向けの番組が消えていた。どうやら、ネット上からも子供向けの動画は……少なくなっているらしい。
「子供向け」のモノの減少速度は……人間向けのモノ全体の減少速度に比べても、著しいらしい。
私達は、老人ホームならぬ人間ホームで「保護」されていた……。
TVの国会中継では……ロボットの閣僚と、同じくロボットの野党議員が……「絶滅危惧種」と化しつつある「人間」を如何にして救うかについて、激しい論戦を繰り広げていた。
と言っても、国会議事堂は既に単なるシンボルと化しているらしい……。仕事や趣味やライフスタイルに合わせて、様々な大きさや姿に「進化」していったロボット達を一同に集めるのは無理で、ロボットの議員が多数派になった頃から、国会はオンラインで行なわれるようになっていた。
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