2 / 32
一年目 三月下旬 医療検査技師・荻野貴子
しおりを挟む
C県K市のJ医大病院のCT担当の検査技師である荻野貴子は、マイクを通して、これから撮像を行なう患者に説明を行なっていた。
この患者は、数日前の朝、通勤中に駅のホームで倒れて緊急入院した四〇代男性だった。
一次性脳虚血――早い話が脳梗塞の一歩手前――または狭心症と、ストレスによるパニック障害の両方の可能性が有り、緊急入院直後に行なったCTおよびMRの検査では脳や心臓には、それらしい異常は発見出来ず、後者の可能性が高かった。
しかし、その患者は、糖尿病と高血圧を併発しており、脳梗塞や心筋梗塞を発症した場合、通常よりリスクが高くなり、一定期間の経過観察が必要と判断された。
そして、症状が落ち着いた後、もう一度念の為、脳と心臓の撮像を行なう事になった。今回は、造影剤を投与して、より鮮明な血管の画像を撮像する事になっている。
「では、撮像を開始します」
だが、撮像が半分ほど終った時、CT本体が置かれている部屋から様々な音かした。
悲鳴。いや苦鳴と呼ぶべきかも知れない。まるで動物が絞め殺されているような声。もちろん荻野は、絞め殺される動物の声など聞いた事は無いが、あえて喩えるなら、そんな声だ。
誰かが暴れているような音。
何かが壊されているような音。
頭が真っ白になっていたのは、多分、数秒程度の間だった。
撮像を中止し、医師や看護師に連絡。
そして、CT本体が格納されている部屋に入り、患者の状態を確認する。
「な……何よ、これ?」
確かに、患者は「人間」だった筈だ。
しかし、半壊した装置の中に転がっている「モノ」は……人には見えなかった。
この患者は、数日前の朝、通勤中に駅のホームで倒れて緊急入院した四〇代男性だった。
一次性脳虚血――早い話が脳梗塞の一歩手前――または狭心症と、ストレスによるパニック障害の両方の可能性が有り、緊急入院直後に行なったCTおよびMRの検査では脳や心臓には、それらしい異常は発見出来ず、後者の可能性が高かった。
しかし、その患者は、糖尿病と高血圧を併発しており、脳梗塞や心筋梗塞を発症した場合、通常よりリスクが高くなり、一定期間の経過観察が必要と判断された。
そして、症状が落ち着いた後、もう一度念の為、脳と心臓の撮像を行なう事になった。今回は、造影剤を投与して、より鮮明な血管の画像を撮像する事になっている。
「では、撮像を開始します」
だが、撮像が半分ほど終った時、CT本体が置かれている部屋から様々な音かした。
悲鳴。いや苦鳴と呼ぶべきかも知れない。まるで動物が絞め殺されているような声。もちろん荻野は、絞め殺される動物の声など聞いた事は無いが、あえて喩えるなら、そんな声だ。
誰かが暴れているような音。
何かが壊されているような音。
頭が真っ白になっていたのは、多分、数秒程度の間だった。
撮像を中止し、医師や看護師に連絡。
そして、CT本体が格納されている部屋に入り、患者の状態を確認する。
「な……何よ、これ?」
確かに、患者は「人間」だった筈だ。
しかし、半壊した装置の中に転がっている「モノ」は……人には見えなかった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる