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番外版
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「しまった……」
学生の頃に買ってた筈なのに、何故か、どうしても見付からなかった西京創源社の「ヘイトクラフト全集」の3巻が偶然にも本棚の奥から出て来た。
今、書いている小説に、この巻に収録されている「サイクロプス家の双子の3人目の4度目の復活」の一節を引用しようとしたが、どうしても見付からず、通販サイトで古本を購入し……そして、発送したと云う連絡が有った直後の事だった。
翌日、ポストに宅配のメール便が入っていた。
中には……。
「あれ?」
俺が持っている「ヘイトクラフト全集」は文庫だったが、古本屋から送られて来たのはハードカバー版だった。
奥付を見ると、文庫版の一〇年ほど前に出版されていた。
『西京創源社の「ヘイトクラフト全集」のハードカバー版なんて有りましたっけ?』
国会図書館の蔵書を調べても、それらしいモノは無い。
訳者からして文庫版と違う。
中身も……文庫版と微妙に違う……気がする。
結局、俺は、どうしても気になって仕方が無いハードカバー版についてSNSで情報を集める事にした。
『回収されたハードカバー版が有るって都市伝説は有るけど……』
だが、発行年月日からすると、当時の出版社の社員は既に定年退職しているだろう。
『資料として使うんなら、もっと新しい訳の方がいいですよ』
そうコメントを付けたのは、首都圏の大学の講師だった。
『どう云う事ですか?』
『西京創源社版は底本が良く判んないんですよ』
『底本?』
『要するに、作者が何回か書き直してる作品だと、どのバージョンを元に翻訳したか、今となっては良く判んないんですよ。特に3巻収録の「ガジガジラの笑い声」なんかは、複数のバージョンを繋ぎ合せて1つの話にしたか……さもなくば、今では失なわれたバージョンを元に翻訳してるとしか思えなくて……』
読み直してみると、たしかにそうだった。
「ガジガジラの笑い声」は、文庫版とハードカバー版で結末が全く違う。
それともう1つ……。
終盤に主人公が「ガジガジラ」と云う名の邪神だか魔物だかを呼び出す際に唱える呪文が全然違う。
「ムカシム、カシア、ルトコ、ロ、ニウ、サク、ント、タヌコ、ウガス、ンデイ、マシタ……」
俺は、ハードカバー版に記載されていた呪文を口に出して唱えてしまい……。
♪ぴんぽ~ん。
呪文を唱え終った直後、夜も遅いのに、玄関のベルが鳴った。
「えっと……どちら様ですか?」
玄関のドアアイから外を見ると……お……おい、何だこれは?
「どちら様も何も、あんたがウチを呼んだとやろ。一体全体、こんな時間に何の用ね?」
およそ一〇分後。
正体不明の邪神を怒らせたせいで……俺は命を失ない……ついでに、その余波で地球は粉々になった。
学生の頃に買ってた筈なのに、何故か、どうしても見付からなかった西京創源社の「ヘイトクラフト全集」の3巻が偶然にも本棚の奥から出て来た。
今、書いている小説に、この巻に収録されている「サイクロプス家の双子の3人目の4度目の復活」の一節を引用しようとしたが、どうしても見付からず、通販サイトで古本を購入し……そして、発送したと云う連絡が有った直後の事だった。
翌日、ポストに宅配のメール便が入っていた。
中には……。
「あれ?」
俺が持っている「ヘイトクラフト全集」は文庫だったが、古本屋から送られて来たのはハードカバー版だった。
奥付を見ると、文庫版の一〇年ほど前に出版されていた。
『西京創源社の「ヘイトクラフト全集」のハードカバー版なんて有りましたっけ?』
国会図書館の蔵書を調べても、それらしいモノは無い。
訳者からして文庫版と違う。
中身も……文庫版と微妙に違う……気がする。
結局、俺は、どうしても気になって仕方が無いハードカバー版についてSNSで情報を集める事にした。
『回収されたハードカバー版が有るって都市伝説は有るけど……』
だが、発行年月日からすると、当時の出版社の社員は既に定年退職しているだろう。
『資料として使うんなら、もっと新しい訳の方がいいですよ』
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『どう云う事ですか?』
『西京創源社版は底本が良く判んないんですよ』
『底本?』
『要するに、作者が何回か書き直してる作品だと、どのバージョンを元に翻訳したか、今となっては良く判んないんですよ。特に3巻収録の「ガジガジラの笑い声」なんかは、複数のバージョンを繋ぎ合せて1つの話にしたか……さもなくば、今では失なわれたバージョンを元に翻訳してるとしか思えなくて……』
読み直してみると、たしかにそうだった。
「ガジガジラの笑い声」は、文庫版とハードカバー版で結末が全く違う。
それともう1つ……。
終盤に主人公が「ガジガジラ」と云う名の邪神だか魔物だかを呼び出す際に唱える呪文が全然違う。
「ムカシム、カシア、ルトコ、ロ、ニウ、サク、ント、タヌコ、ウガス、ンデイ、マシタ……」
俺は、ハードカバー版に記載されていた呪文を口に出して唱えてしまい……。
♪ぴんぽ~ん。
呪文を唱え終った直後、夜も遅いのに、玄関のベルが鳴った。
「えっと……どちら様ですか?」
玄関のドアアイから外を見ると……お……おい、何だこれは?
「どちら様も何も、あんたがウチを呼んだとやろ。一体全体、こんな時間に何の用ね?」
およそ一〇分後。
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