魔導兇犬録:Deliver Us from Evil

蓮實長治

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第一章:アンダードッグ

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「お……おい、待て、どこ行く気だ?」
 どうやらメスガキの履いてた靴は、いわゆるエンジニア・ブーツ……早い話が「靴紐が無いブーツタイプの安全靴」だ。
 ひょっとしたら、その中でも俗に言う「ヒーロー・ブーツ」……爪先に防護具が入ってて、歩き易さ走り易さ重視の設計になってるブーツかも知れない。
 メスガキは、で腹を蹴られて、悶え苦しんでる俺に背を向けて、歩き始めていた。
「逃げるに決ってるだろ、このとうきょうから。ここに来た目的のが果たせなくなった上に、ここの『自警団』を敵に回したんだ」
「逃げるって言っても……多分、あんたの顔は『自警団』に割れてるぞ」
 一応は、俺は「『悪の組織』に零落おちぶれた元『自警団』」の幹部だ。
 「魔法使い」としての力をほぼ失なってる上に、武器も無い以上、正面から、このメスガキと戦っても瞬殺されるだろう。
 だが……さっきの自白剤の件で判った。
 知識だけなら、俺が上だ。特に「魔法」以外の……「悪の組織」の幹部をやるのに必要な知識は。
 俺の元所属組織は……ある理由から、日本各地……どころか、韓国・中国・台湾などからも、大量の「呪具」を集めていた。
 それも……かなり強引な手で……。
 多分、このメスガキは……そうして奪われた「呪具」の持ち主か、その縁者で、奪われた何かを取り戻しに来たのだろう。
 ひょっとしたら……俺が忘れてるだけで、俺が指揮したチームのせいで、このメスガキの親か師匠が死ぬか怪我したのかも知れない。
「あたしの顔が割れてる? なら、それこそ、さっさと逃げ出すに限る」
「あのな……顔が割れてるって事は……顔認識アプリ用の識別データが作られて、ここの『自警団』の顔認識サーバーに……」
「⁇」
 ……おい、ベタ過ぎるぞ、この展開。「魔法使い」が科学技術関係の用語を理解出来ないって、ありがちな漫画かラノベか?
「大概の『自警団』は顔認識アプリが動いてる高性能コンピューターを持ってて、それに防犯カメラの映像を常時監視させてる。そのコンピューターに、あんたの顔のデータが登録されるのも時間の問題だって事だよ」
「え……と……ん? ああ、何となく判った。じゃ……待て……」
「今から『港』に行ったら……防犯カメラにあんたの顔が写った瞬間にアウトになる可能性が高い」
 さて、問題です。ヤンキー・ヤクザ・半グレ・自警団などの超体育会系の組織で「上」に昇るのに必要なモノは何でしょう?
 ヒントは……一九五〇年代のヤクザの安藤昇。十年前の富士の噴火で連載が中断してる某格闘漫画の素手喧嘩スデゴロヤクザのモデルの更に親分だった奴だ。
 答は「演技力」。安藤昇はヤクザを廃業した後に俳優になってる。
 虚勢を張るってのは、簡単な事じゃない。他人に恐れられるように振る舞うにも、才能かスキルが要る。
 でも、それが出来なけりゃ、体育会系の「文化」の組織では上に行けない。
 顔認識アプリ用の認識データを作るには……結構な枚数の「一定以上の解像度の顔写真」が必要になる。
 多分だが、このメスガキの顔が写ってる防犯カメラの映像を集めても、まだ足りない。
 有ったとしても「鶏が先か、卵が先か」問題だ。
 「寛永寺僧伽」と「入谷七福神」が、このメスガキを危険人物と見做し、顔認識サーバにこのメスガキを探させたくても、顔認識データが無い以上、それを作る必要が有る。
 その為には、まずはは「このメスガキが写ってる映像」を抽出する必要が有る。ただし、それなりに時間がかかる人間サマによる手作業で。
 しかし、このメスガキは……多分、その事を知らないし理解してもいない。
 もし、メスガキが疑念を抱いて俺に何か適切な質問すれば……俺は、うっかり自白ゲロっちまうかも知れない。
 でも……このメスガキが、辿、自白剤がまだ効いてても、騙す事は不可能じゃない。
「おい、おっちゃん。じゃあ、どうしろってんだよ?」
「ほとぼりが冷めるまで地下に潜る」
「はぁ?」
「『地下に潜る』ってのは
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