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国際会議でシカトされてる一国の首相ですが、異世界転生して以下略
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「あの……間も無く、我が国で開催される国際的スポーツ大会への賛同をいただけますと……その……」
私は、出席中の国際会議でそう発言した。
「例の伝染病に関するワクチンの配布の件ですが……」
「全世界が安全にならなければ、どの国も安全とは言えない状況ですので、途上国への供与も積極的に……」
だが他国の首脳達は、他の議題に夢中になっていた。
「あの……我が国で開催される国際的スポーツ大会……」
皮肉と嫌味が国技の国の首相が、にこやかにこちらを向いた。
「ああ、貴国で開催するのは結構だと思いますよ。貴国は隣の国だと話が違いますが……ええ、あの国は、例の伝染病について、貴国全体の死者と同じ数の死者を、たった1つの都市で出している。あんな国に自国の人間を行かせるなど、ぞっとする」
「ええ、そうですね……。その『隣国』は、最早、発展途上国だ。途上国向けのワクチン配布の対象にすべきですね……L国の大統領閣下」
他国の首脳達は、その冗談に……大爆笑した。
だが……私は……体が震え……脂汗を流した……。私はL国の大統領なんかじゃない……。となりのO国の首相だ……。そして、我がO国は、人口が半分の隣のL国よりも、例の伝染病の死者数は1桁多かったのだ……。
その国際会議は最終日を迎え……そして、最後の仕事の時間となった。
だが、この記者会見と云うヤツは苦手だ……。
どうやら、私には臨機応変な回答が出来ないらしい。
自分の国で行なう記者会見なら、記者達に事前に質問を出させている。
しかし……今回は違う……。
胃が痛くなりそうな想いを抱えて、国際会議終了後の記者会見に臨んだが……終る頃には胃の痛みの原因が変っていた。
誰1人として、私に質問をしなかったのだ。
私が、前任者と同じ程度には無能な事は認める……。
私が前任者に劣る点が有るとすれば……ヤツより頭が良い事だ。
ヤツは自分が馬鹿にされている事に気付いていなかった。
だから……振る舞いだけは鷹揚で堂々としたモノだった。
しかし……私は日に日に自信を失ない……それが態度にも現われるようになった。
暗い気持ちで帰国の為の専用機に乗り……。
「首相……しっかりして下さい」
「酷い熱だ……隔離……」
「ワクチンは打ってた筈だぞ?」
「で……でも……」
部下達の声は聞こえていたが、意識は朦朧としており、何が起きているかまでは理解出来なかった。
「新種の変異株のようです」
「あ……あの……では……」
「御家族をお呼び下さい。ただし、防護服なしでの御遺体への接触は厳禁です」
たすけてくれ……何が……起きている?
「あ~、どうやら、そなたは予定より早く死んだようじゃが……」
気付いた時に目の前に居たのは……「一般的にイメージされる西洋風の『神』」としか呼べない「何か」だった。
辺りを見回すと、地面や床の代りには雲。天井も壁もなく、ただ青空が広がっていた。
「生前にロクな事をやっておらんので、異世界に転生して罪を償って来い」
ああ、これは……知ってる……。四十過ぎの息子が好きな「異世界転生もの」とやらだ。
「『罪を償う』とは……その……」
「ある異世界で暴虐の限りを尽している悪の帝国を滅ぼすのじゃ。そなたは既に、その悪の帝国を滅ぼす能力を持っておる」
「はぁ?」
「おい、とっとと来い」
「えっ?」
気付いた時には、中世ぐらいの西洋を思わせる町に居た。
そして、薄汚れた顔と格好の屈強そうな兵隊達が私を連行し……。
「ところで、何者だ、こいつ?」
「ガタイだけは良いな……」
「ええっと……その……私は……これからどうなるんですか?」
私が当然の疑問を口にすると……。
うわああああ……っ‼
謎の兵隊達は、首相になって以降、皆が私に向け続けてきたあの表情に……。
「阿呆か、お前は……。徴兵に決ってるだろ。この御時世、いい若い者が仕事もなしにブラブラしてるなど許されると思ってるのか?」
兵隊達は馬鹿を見る目で私を見ていた。
どうやら、私は若返っていたらしかった。
しかし、兵士には向かないと判断され……雑役人夫に回された。
どうやら、この世界は……人間と「異種族」とやらが戦いを続けているようだ……。
最初から何1つ訳も判らないままだったが……やがて、朝から晩までこき使われ、周囲からいじめられる内に、疑問を浮かべる心の余裕すら無くなり……そして……。
「どうしろと……言うんだ……これ……」
多分、あれから何年も経ったのだろう……。
気付いた時には、人間の町は疫病で全滅し……私だけが生き残っていた。
私は……生きた人間を探し旅を続け……しかし……ようやく見付けた生きている者達も、餓死しかけた者か……病人だけだった。
私は……生きる目的さえ自分でも判らなくなっているのに……死ぬ事だけは恐しく……言うも憚るモノを口にして命を繋ぎ……旅を続けた。
その病気の症状に……私は覚えが有った……。元の世界で流行していた……あの病気だ……。
まさか……この病気を、この世界に持ち込んだのは……?
いつくもの町や村を通り過ぎたが……状況は……どこも同じだった……そして……。
「神が異世界より遣わした御方とお見受けいたします」
そいつらは……人間に似ていたが姿は微妙に違っていた。
ある者は、長く尖った耳に、「白目」の部分が無い目。
別の者は、髭面の小人。
別の者は、醜い小人。
また別の者は……醜い大男。
服装も……洗練されたものから……ボロ布にしか見えぬものまで様々だった。
「他種族を迫害してきた『悪の帝国』を滅ぼしていただいた事、感謝いたします。神より、貴方様を御役目から解放せよとの神託が有りました」
「えっ?」
そう言われた次の瞬間、最も屈強な「異種族」が私を羽交い締めにして……。
「痛みはございません、一瞬です。御役目、誠にご苦労様でした」
別の「異種族」は……確かに、一瞬で痛みすら感じさせずに人を殺せそうなほど鋭い短剣を抜き、私の喉元に……。
私は、出席中の国際会議でそう発言した。
「例の伝染病に関するワクチンの配布の件ですが……」
「全世界が安全にならなければ、どの国も安全とは言えない状況ですので、途上国への供与も積極的に……」
だが他国の首脳達は、他の議題に夢中になっていた。
「あの……我が国で開催される国際的スポーツ大会……」
皮肉と嫌味が国技の国の首相が、にこやかにこちらを向いた。
「ああ、貴国で開催するのは結構だと思いますよ。貴国は隣の国だと話が違いますが……ええ、あの国は、例の伝染病について、貴国全体の死者と同じ数の死者を、たった1つの都市で出している。あんな国に自国の人間を行かせるなど、ぞっとする」
「ええ、そうですね……。その『隣国』は、最早、発展途上国だ。途上国向けのワクチン配布の対象にすべきですね……L国の大統領閣下」
他国の首脳達は、その冗談に……大爆笑した。
だが……私は……体が震え……脂汗を流した……。私はL国の大統領なんかじゃない……。となりのO国の首相だ……。そして、我がO国は、人口が半分の隣のL国よりも、例の伝染病の死者数は1桁多かったのだ……。
その国際会議は最終日を迎え……そして、最後の仕事の時間となった。
だが、この記者会見と云うヤツは苦手だ……。
どうやら、私には臨機応変な回答が出来ないらしい。
自分の国で行なう記者会見なら、記者達に事前に質問を出させている。
しかし……今回は違う……。
胃が痛くなりそうな想いを抱えて、国際会議終了後の記者会見に臨んだが……終る頃には胃の痛みの原因が変っていた。
誰1人として、私に質問をしなかったのだ。
私が、前任者と同じ程度には無能な事は認める……。
私が前任者に劣る点が有るとすれば……ヤツより頭が良い事だ。
ヤツは自分が馬鹿にされている事に気付いていなかった。
だから……振る舞いだけは鷹揚で堂々としたモノだった。
しかし……私は日に日に自信を失ない……それが態度にも現われるようになった。
暗い気持ちで帰国の為の専用機に乗り……。
「首相……しっかりして下さい」
「酷い熱だ……隔離……」
「ワクチンは打ってた筈だぞ?」
「で……でも……」
部下達の声は聞こえていたが、意識は朦朧としており、何が起きているかまでは理解出来なかった。
「新種の変異株のようです」
「あ……あの……では……」
「御家族をお呼び下さい。ただし、防護服なしでの御遺体への接触は厳禁です」
たすけてくれ……何が……起きている?
「あ~、どうやら、そなたは予定より早く死んだようじゃが……」
気付いた時に目の前に居たのは……「一般的にイメージされる西洋風の『神』」としか呼べない「何か」だった。
辺りを見回すと、地面や床の代りには雲。天井も壁もなく、ただ青空が広がっていた。
「生前にロクな事をやっておらんので、異世界に転生して罪を償って来い」
ああ、これは……知ってる……。四十過ぎの息子が好きな「異世界転生もの」とやらだ。
「『罪を償う』とは……その……」
「ある異世界で暴虐の限りを尽している悪の帝国を滅ぼすのじゃ。そなたは既に、その悪の帝国を滅ぼす能力を持っておる」
「はぁ?」
「おい、とっとと来い」
「えっ?」
気付いた時には、中世ぐらいの西洋を思わせる町に居た。
そして、薄汚れた顔と格好の屈強そうな兵隊達が私を連行し……。
「ところで、何者だ、こいつ?」
「ガタイだけは良いな……」
「ええっと……その……私は……これからどうなるんですか?」
私が当然の疑問を口にすると……。
うわああああ……っ‼
謎の兵隊達は、首相になって以降、皆が私に向け続けてきたあの表情に……。
「阿呆か、お前は……。徴兵に決ってるだろ。この御時世、いい若い者が仕事もなしにブラブラしてるなど許されると思ってるのか?」
兵隊達は馬鹿を見る目で私を見ていた。
どうやら、私は若返っていたらしかった。
しかし、兵士には向かないと判断され……雑役人夫に回された。
どうやら、この世界は……人間と「異種族」とやらが戦いを続けているようだ……。
最初から何1つ訳も判らないままだったが……やがて、朝から晩までこき使われ、周囲からいじめられる内に、疑問を浮かべる心の余裕すら無くなり……そして……。
「どうしろと……言うんだ……これ……」
多分、あれから何年も経ったのだろう……。
気付いた時には、人間の町は疫病で全滅し……私だけが生き残っていた。
私は……生きた人間を探し旅を続け……しかし……ようやく見付けた生きている者達も、餓死しかけた者か……病人だけだった。
私は……生きる目的さえ自分でも判らなくなっているのに……死ぬ事だけは恐しく……言うも憚るモノを口にして命を繋ぎ……旅を続けた。
その病気の症状に……私は覚えが有った……。元の世界で流行していた……あの病気だ……。
まさか……この病気を、この世界に持ち込んだのは……?
いつくもの町や村を通り過ぎたが……状況は……どこも同じだった……そして……。
「神が異世界より遣わした御方とお見受けいたします」
そいつらは……人間に似ていたが姿は微妙に違っていた。
ある者は、長く尖った耳に、「白目」の部分が無い目。
別の者は、髭面の小人。
別の者は、醜い小人。
また別の者は……醜い大男。
服装も……洗練されたものから……ボロ布にしか見えぬものまで様々だった。
「他種族を迫害してきた『悪の帝国』を滅ぼしていただいた事、感謝いたします。神より、貴方様を御役目から解放せよとの神託が有りました」
「えっ?」
そう言われた次の瞬間、最も屈強な「異種族」が私を羽交い締めにして……。
「痛みはございません、一瞬です。御役目、誠にご苦労様でした」
別の「異種族」は……確かに、一瞬で痛みすら感じさせずに人を殺せそうなほど鋭い短剣を抜き、私の喉元に……。
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