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第46話

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「このガキがぁ! 舐めんなぁっ! 【ディスキル】」

 ハライノスは目を見開き、気合いで【ディスキル】を発動した。対象は目の前の少女であり、封印するスキルは所持しているであろう【剣適性】。

 少女の体に濃い青色の魔力オーラが纏わりつく。
 これを見たハライノスは、にやりと笑った。そのオーラは、【ディスキル】が正常に発動したことを表しているからだ。
 そして、数秒にも満たない速度で、【剣適性】を封印していく。

「これで、なんとかっ!」

 相手の武術を奪ってしまえば、まだやりようがあると余裕の笑みを浮かべた時だった。

「……!?」

 ハライノスの体中から、一気に血液が噴出し始める。辺り一面に水しぶきのようにあふれ出していく。一瞬で体中に切り傷が生まれ、そこから勢いよく血が流れたのだ。1つ1つの傷から出る血は少量だが、それがハライノスの正面全体から噴射されたので、かなりの血液量に見える。

 痛みによる悲鳴を上げる暇もないほど、彼の体は攻撃されたのだ。

「……ぁあ、な、なんで……」

 ハライノスの脳は攻撃に耐えきれず、シャットダウンを始めていく。ハライノスはすぐに理解できなかった。何故、攻撃を自分が喰らったのか。

 しかし、答えは単純明快なものだった。

 確かに【ディスキル】は発動をした。だが魔力のオーラが対象に纏わりつくのは、あくまで始動の合図。そこから相手のスキルを封印するまで、僅かだが時間がある。

 その間に、少女はスキルを発動し、先に効果を発動し終えたのだ。

「【居合い・神速斬撃〈乱〉】」

 居合いによる超速斬撃の乱舞。何度も居合切りを行うのではなく、初動の居合切りの勢いを利用して相手に高速斬撃をぶつける。

 威力も十分だが、その素早さは数あるスキルの中でも上位に位置する。

 相手の視界に自らを入らせない、そして【ディスキル】が発動し終える前に先にスキルを発動してしまう。
 少女は、ハライノスにとって最適解の相手だったのだ。

 そして、スキルの早打ち対決に、彼女は堂々の勝利を収めた。

「……ぐ! ……」

 意識を失うハライノス。立っていられなくなったその体は、枝から脚を滑らせ、真っ逆さまに地面へと落ちていく。

「……死んじゃうかな」

 少女は落ちていくハライノスの姿を、虚ろな目で追っていく。追撃することも可能だったが、勝利はしたと確信し、その場で待機することにした。

 ズタボロのハライノスが地面にぶつかりそうになる瞬間、そこに1人の冒険者が現れた。地面と彼の間に入り込み、上手く彼の体をキャッチした。先程、女戦士マベラをララクが抱きかかえた時に酷似している。

 が、今回それを行ったのはもちろんララクではない。
 不格好な態勢でハライノスをキャッチしたのは、彼と同じパーティーに所属する闇使いシットニンだった。

「いったいし、重」

 シットニンはキャッチする際に、ハライノスの体で自分の体を強く打ちつけた。その衝撃で尻餅をつきそうになるも、なんとか耐えきって立ちあがる。
 魔人ハライノスの角が、自分の顔に刺さりそうで嫌そうな顔をしている。

「逃げられちゃうな。でも、この感じ……」

 それを上から見下ろしていた少女は、一瞬だけ戦闘を続けようかと思った。しかし、彼女の体から禍々しい色をした魔力が放出し始め、やはり戦闘を終了させる。

 少女は自分の中のさらに深い部分から、魔力が流れ出している気がした。おそらくこれが、【ディスキル】使用者の意識消失による封印効果の解除、なのではないかと推察した。
 つまり、ララクの力が元に戻ったという事だ。

「……」

 闇使いシットニンは、少女と少しだけ視線を合わせた。そして彼女に戦闘意欲がないことを感じると、短く頭を下げた。
 そしてハライノスを抱え込みながら、慣れない動きで走っていく。
 戦線離脱し、もう1人の仲間である女戦士マベラが眠る樹木の元へと移動していく。

「……これで私の仕事は終わり。
 ララク、元にもど……」

 少女はそそくさと【デュアルシフト】を発動してララクに交代しようとした。【デュアルシフト】は対象の異なる人物間では、会話はすることが出来ない。しかし、自分が内に潜んでいる間の状況は、五感を通して共有できる。さらに第六感的な部分でそれぞれの思いをくみ取ることもできる場合もあるという。

 少女がスキルを発動しなかったのは、近くに一応少女の仲間であるゼマの存在を感じ取ったからだ。
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