死んだ君が目の前に現れた

ぼの

文字の大きさ
上 下
3 / 14

3 さくらの世界

しおりを挟む
そういえばそんなこともあったな......なんて過去の思い出に浸りながら、僕はコップに入れた水を一口。

「私は中学校の時くらいから好きだったんだぞ? 」

「ほんと? 友達としての好きから異性としての好きに変わったのをいつか思い出せないや」

本当はなんとなく気づいていた。

さくらが色んな人に告白されても、ずっと断っている姿を見ていたから。

さくらが今の状態で僕の前に現れてくれたおかげで、今まで知らなかったことがいくつもわかった。

何年も解けなかったパズルのピースを見つけたような気分がした。


ふと時計を見ると既に日付が変わっていた。

寝ようかとも考えたが、起きたらさくらの姿が見えなくなっていそうで怖かった。

もう少しでいいから、この二人の時間を楽しみたいと思った。

「優希、大丈夫? 眠そうだよ? 」

「平気だよ。 さくら......もっとお話しようよ」

一瞬顔を顰めたさくらだったが、また微笑みながら話始めた。


「そういえば、受験勉強の合間に私が好きで話してた小説のこと、覚えてる?」

「うん、もちろんだよ」

それはさくらが好きだった切ない恋愛小説。

「すごい面白いから読んでみて!」と言われて僕も読んだ。

主人公の男の子が、突然死んでしまった彼女の真実を探す物語。

確か終盤は男の子が黄泉の世界に行って彼女と会うんだっけ。

「でもあの小説、最後の終わり方少しあやふやだったよね 」

「それがいいんだよ!もしかしたら2人で今も幸せに暮らしてるかもしれないし」


確かにさくらの言う通りだと思った。

物語の結末がはっきりと書かれていても、それが本当なのか否かは書いた本人しかわからない。
適当な根拠で決めつけるのは良くないとさくらから教わった。

真実は明らかでない方が美しいこともある、とも。

その小説を読んだあの日から、僕もその世界にすっかり虜になってしまった。

「でもさ、黄泉の世界なんてどうやって行くんだろう......」

「確かその小説の中では、セミが黄泉の世界の扉を開く鍵だって書いてあったね」

そんなこと本当かどうかは分からない。行けたとしても帰る方法だって分からないし、第一に死んでいるのだから......

僕は少し口調を変え、さくらに聞いてみた。

「さくらの見た黄泉の世界はどんなだった」

少しさくらの口角が上がる。

「本当に雲の上にあった!でも、天国とか地獄とかってその人の想像によってどうとでも変わるらしくて、決められた形はないらしいよ」

嘘は言っていないさくらの表情。
僕はさくらの言うことに納得するしか無かった。

「じゃあ....なんでさくらはここにいて、なんで姿が見えるの?」

「天国に行ったら、早く生まれ変わり先を見つけないといけなくて、死んだおじいちゃんが早く生まれ変わりなさいって。自分もまだ天国にいるのに。

それで、こっちの世界に逃げてきちゃった。」

半分笑いながら話すさくら。
今すぐにこの腕で抱きしめて、数え切れない好きを伝えたいと思った。

その余韻に浸っていると、大きなあくびが一つ。

「ほら!眠そう! 今日はもう寝よう!」

眠い目を擦って僕はさくらに聞いた。

「目を覚ましても、さくらのこと見えるかな」

さくらはそれを聞いて、笑顔で頷いた。

「そっか......」

僕はリビングの電気を消し、さくらは手招くように、部屋へと入っていった。

「やっぱり暗い部屋だと少し不気味だね......」

「不気味って言わないでー。笑顔はあの時と変わらないと思うんだけどなー」

「幽霊になってもさくらは可愛いからなー」

「んなっ!?...///」

それでも僕はどこか悲しくなった。

本来顔を真っ赤にして照れるさくらの顔は、もう見れないということに、再び喪失感を感じた。

ベッドに入り、目を閉じる。

あの頃の温かさはないけど、背筋の凍るような雰囲気はひっそりと僕の背中で佇んでいる。
























「優希、寝る前にひとついい?

私がなんで東京に引っ越すのを遅らせたと思う? 」

























僕はその質問を頭の中で展開した。

あの日、二人一緒に故郷を飛び出して、この部屋で暮らすつもりだったのに。


知らぬ間に僕は深い眠りについていた。
しおりを挟む

処理中です...