死んだ君が目の前に現れた

ぼの

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4 回想②

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高校三年生の夏。僕はサッカー部を、さくらは文芸部を卒業後、夏休みに二人で東京の大学のオープンキャンパスに参加していた。

僕らの住む土地とはまるで違う景色。人の量。空気の悪さ。そして見上げるくらい大きな建物が立ち並ぶ。

僕らは東京を知った。

大学に着くまで電車に約半日揺られた。色とりどりの電車が行き来していて、僕らが頼れるのはこのスマホのみだった。最寄り駅についてからも道に迷ったくらいだ。

「これが大学か......」

「広すぎるな......」

やっとこさ着いた広い大学の敷地内。そして美しい建物、テレビで見る教授とその生徒。僕らはすっかり魅了されて、来年二人でこの大学に通っている未来を想像した。

帰りの電車の中でも、僕たちはもらったパンフレットや説明書を何度も見返していた。

受験科目や手続き、過去の倍率など色々。

気づくと横に座っているさくらはは寝息を立てて僕の肩に頭を乗せてきた。

片手でさくらの頭を撫でながら、パンフレットを片手に僕はその時心に決めた。


「将来は教師になりたい。 」


その日から夏休み、放課後、冬休みも、ずっと二人で勉強していた。

分からない問題はなるべく二人で解決して、それでも分からなかったら二人で先生に聞きに行くことが当たり前になっていた。

机の隅には積み上げられた使用済みのノートの山。
そして付箋だらけの単語帳。

勉強することに挫けそうになることが何度もあった。

模試や過去問に挑戦しても、帰って来るのはE評価ばかり。

自分の実力に納得いかなくて、回答をぐしゃぐしゃにして投げたこともあった。

そんな僕でも、さくらはいつも横にいてくれた。お互いが挫けそうになったらお互いを励まそうと協力した。

僕らの目標はその大学のみ。
でもその選択に両親は賛成するはずもなく、いくつか他の大学を滑り止めとして候補に入れた。

年末年始は特に、家には勉強を妨げる誘惑で充ちている。

僕らは必ずどちらかの家に行き、テレビやスマホなど耳に入る誘惑を全て遮り、時には夜が遅くなりすぎてどちらかの家に泊まることもあった。

その中の一日だけ、クリスマスイブの日に勉強を早めに切り上げ、僕らは電車に乗って水族館に来ていた。

僕らが勉強している姿をいつも見ている両親は、「むしろ行ってきなさい」と言わんばかりの口調だった。

せっかくの気分転換のために来たはずなのに、さくらの口からは勉強の話が途絶えず、僕らは久しぶりに喧嘩してしまった。

僕らはお互い意地を張ってしまい、駅に着くまで一言も喋らなかった。昔ならどちらかが謝れば済む話なのに、何故かその時は躊躇っている自分がいた。

この空気に耐えられなくて、僕は震えて声を出した。

「さくら......悪かった。ごめん。」

前を歩いていたさくらは突然立ちどまり、僕の方を向く。

ゆっくりと僕の方に歩み寄るその目は、涙でいっぱいだった。

僕らは駅前で人目も気にせず、
お互いを抱きしめた。

それからしばらくはお互いの口から「ごめんね」が絶えなかった。

喧嘩するほど仲がいいとは言うけれど、喧嘩することでお互いを知ることが出来て、確かに二人の絆はさらに深まっているとわかった。

年が明けてすぐ、共通テストが行われる。

今年から共通テストの内容が変わり、特に数学、英語ともに過去問で慣れた内容とは少し違ったものだった。

共通テストの終えた帰り道は二人でテストのことについて話し、笑いあった。

「数学の問題結構いやらしくなかった? 英語も長かったしさー......」

「俺は整数問題得意だから結構解けたよ。英語時間足りなかったな......」

しかし、今日の反省をしている時間は僕らにはない。

家に帰り、息を着く暇もなく机に向かう。今日の復習と、参考書を開きその類題を解く。

そして一ヶ月も経たないうちに、入試が始まる。

オープンキャンパスに行った時と僕らの気持ちの入れ方は180度違っていた。

両親に貰ったお守りをポケットに入れて、僕らは再びあの場所へ向かう。

入試会場では周りにいる生徒を見てしまうと、余計に緊張が走り、本来の力を発揮できなくなると言う担任の先生の助言を聞き、僕らは会場の席に座るまで、一言も話さず集中していた。

始まるまでは目を閉じて精神統一したり、正面にあるであろう時計の中心を見るといいらしい。

試験監督の「始め!」の合図で問題用紙をめくる。

何度も解いた解放の問題。二人で悩んで導き出した問題。

僕の脳と指は止まることなく、解答時間を少し残し、ペンを置いた。

試験を受けている時の一番大事な時間は、この時終わったあとの見直しだ。

試験が全て終わったのは午後3時。

僕らは出入口で待ち合わせし、共に足を揃えて大学を後にした。

その時二人の間には何故か沈黙が流れていて、なんと声をかけようかと言葉を探していた。

その沈黙を切り裂いたのはさくらだった。

「で......どうだった?」

「数学は結構良かった自信ある。
さくらは? 」

「私は英語は良かったと思う!」

僕らは帰り道、やりきった気持ちと、それでもまだ落ち着かない気持ちで溢れていた。



3週間ほどして、スマホで合格通知を確認した。


結果は合格。


合格したことを両親、担任の先生、友達、もちろんさくらにも伝えた。

さくらも合格したと言ってくれた。

本当に嬉しかった。僕はその時嬉しさのあまりさくらを抱きしめていた。

僕は東京で安くて駅に近い同棲できる部屋を探していた。

それがここだ。

さくらにこの話を提案した時、泣きながら喜んでくれたのを覚えている。

でもさくらは引越しの準備をする僕に「先に向こうで待ってて」と言ってきた。

卒業式を終えた二日後に経つことになって、一日中一緒に遊んだ。
家を出て、新幹線に乗るその時まで、さくらと一緒にいた。

最後に二人で交わしたハグ。

また会えるはずなのに、何故かさくらは悲しい顔を何度も見せた。


僕は新しい家に着き、荷物の整理をしながら、さくらがここに来るのを待っていた矢先。

母からメールが届いた。

さくらが死んだ。

自殺だった。



僕はその知らせを聞いてから、すぐ地元に戻った。

しかし、家族も警察も、さくらの両親も、さくらの事について詳しく教えてくれなかった。


僕は涙が枯れるまで、ずっと泣いていた。


その時の僕は何も知らなかった。
さくらの自殺をした理由など。



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