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禁断の惑星
04 群集体系ヴァンプール
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――――――
「ヴァンプール。それは、まだプラグ・Sが大西洋のど真ん中に突如顕現してから間もない頃につけられた先住民族に対しての呼称であり、通念として存在するその名称は今なお使われているものだ。地球の法則に外れたこのパラレルワールドに存在する彼らもまた、君のようなまっとうな地球人から見れば異能と超常をその身に宿した怪物として大いに恐れられた」
風を切るオープンカー。タイヤもボディも決して世界的に流通している何らかの会社によるものではない。形状も材質も不明かつ見慣れない装飾と形状で構成された不穏な物体が時速100kmほどの速度で狭いアスファルトらしき街道を駆け抜けていた。
「既に話したように、プラグ・Sは島ではなく惑星体系のツギハギな集合体だ。所見では第一圏から第二圏に渡ることも困難なまでに感覚神経の外側を行く厳かな体系においてはただ存在するだけでも魂が抉られるような恐ろしい空間すら存在する。…で、そもそもその空間を所持しているのは先住民的な立場にあるそのヴァンプールたちであり、彼らもまた世代交代を繰り返しながら少しずつ数を増やしたり減らしたりしているわけだ」
フーシの淡々たる口調が続く。
「しかし、人間と同じく遺伝子や血縁を介した地上の征服というのは、彼らの用いる存在証明の手法とは根本的に大きく異なる。まず、第一に地球の生命というものはそれが生まれた瞬間からまさに増え続けるための宿業を背負う。多種生物とは一線を画した理性と技術を獲得した人間であっても、その命の使い道は繁栄と繁殖に尽きる。子孫繁栄は種の存続という呪いを原初の生命体たちから引き継いだことによる悲しき運命といっても過言ではない。つまり、人間もまたそこらへんの雑草やら家畜やらと根本的には変わらない。自らが生きるため、自らと同じものを残すために知恵とその生涯を捧げて尽くすわけだよ。幸福かどうかは結局そこに行く付く」
「…………………………」
「今ある命は過去、現在、未来の命を繋ぎとめるための触媒に過ぎず、そのために同種同士で殺し合うという矛盾すら正当化してしまう。しかし、彼らは違う。ヴァンプールは人間が恐怖し、同時に畏敬した仮想生命ヴァンパイアに由来する呼称だ。意味合いとしては血だまりに近い」
「血だまり……?」
「そう。血だまりだ。といっても彼らに人間と同じような血液は存在しないんだけどね。ま、その辺は別に彼らを解剖して知り得た情報でもなければ、確証ある論文が書かれているわけでもない。所謂憶測の域を出ない全仮定の人智未踏の生命こそが彼らヴァンプールだ。彼らは世代交代を必要としない増殖を行うことが可能であり、それが全てといっても良い。プラグ・Sを構成する惑星群が禁断の惑星と呼ばれる所以はこの通常世界の理と積み重なった生命史への叛逆を期せずしてヴァンプールたちが成し得ているからさ」
空は雲もないのに薄暗く、遠くの空ではオーロラが浮かんでいた。太陽も月も見当たらず、あるのは妙に輪郭のはっきりとして何か大きな光の塊のようなものくらいだ。しかし、その大きな光の塊も決して眩しいわけではなく、どちらかといえば暗い部屋に静かに燃えている蝋燭の灯りのようなものであった。
「不老不死とかそういう話です?」
「いや。彼らは不老不死じゃない。殴りまくれば死ぬし、斬り続ければ死ぬ。ただ彼らを取り巻く特質がかなり殺しずらい拠りすぎているために殺害は簡単なことじゃない。それに老化といっても経年劣化こそすれ、彼らはわざわざ自分が老いて腐れ落ちるような空間に身を置いたりはしない。第一圏は比較的外界との時間の差異は少ないが、それでも流れている時間は曖昧だ。時間は人間が作り出した概念だから、それも仕方のないことなのかもしれないけどね」
いきなり始まってから止まない無敵の怪物スピーチに対して、セノフォンテは黙って耳を貸していた。
疲れた頭と体ではもう闘志も湧かず、敵意を見せない彼らに対して立ち向かうだけの余力はどこにもなかった。
「話を戻そう。時間やら殺しずらい特質やらはあくまでおまけだ。問題は彼らの持つ何より強大な性質、我々はこれを《群集体系》と呼ぶ。群集体系は彼らの持つ世代交代を介さない増殖機能と機構そのものを指す言葉であり、君もその一旦を身をもって体験した筈だ」
「まさか、あの木造帆船が…?」
「そうだね。君の輸送機を襲撃したのは紛いものでない正真正銘のヴァンプールにして六体しかいないカテゴリー6の一翼…個体名はアブー・アル・アッバース。司る能力は《撃墜》。齎す群集は《無敵艦隊》。ノーモーションで代償もなく無限に湧き出る海賊船はその尽きない砲撃を以て一切玉砕と滅却、負け知らずの撃墜性能を誇るわけだ」
「無限に湧き出る無限艦隊?」
「そう。まさに最強の物量と継続火力を持ったヴァンプールだ。異能だらけのヴァンプールにおいても頭一つとびぬけた大怪物であり、もし外界に湧いて出れば環境破壊も文明焼却も朝飯前だろう」
フラッシュバックする悍ましい光景。空を覆いつくす弾幕と海を覆いつくす艦隊の群れ。確かにあんなものが文明社会に姿を現せば、無限の砲撃に耐えきれる町も国もおそらくは存在しないだろう。どれほど高性能の爆撃機やミサイルを投入して応戦しても、無限が相手では栓なき抵抗と言える。
「我々の目的はヴァンプールという種族を絶滅させることにあるが、アブーは現状我々と利害をともにする関係にある。ここは説明が難しいわけだけど、まぁ順を追って説明するとも」
「絶滅させるって…今言ってたヴァンプールを!?……無理に決まってる」
「だろ?まぁ、カテゴリー6に該当する血だまりさんたちは人類無双の神性みたいなものだからその気持ちもわかるけど、大抵のヴァンプールはそこまで強大な力は持っていない。能力だってまちまち、戦いに向いていない子供のうちに殺してしまえば問題はない。ヴァンプールはプラグ・S内に不定期で子供の姿で出現するが、彼らは成長する程に攻略難易度が跳ね上がるからね」
「……はぁ」
そこで黙ってオープンカーの助手席に乗っていたエリゼが振り返る。かけたサングラスを少し上げ、エメラルドの瞳でセノフォンテを見据えた。
「んー。君が世界を守るヒーローってのならわかると思うんだけど。我々人間がこれからも仲良く生きていくためにはヴァンプールはあからさまな脅威なわけ。だからそれを摘む役目が必要ってところまでは理解できると思う。でも、不定期に出現してしまうのなら種を断ち切ることなんて不可能だって思うよね。そこで古い預言ってやつが大事になってくる」
「……預言とは」
「第一にヴァンプールたちは人間にそこまで敵対意識や嫌悪感があるわけじゃないんだ。まぁ個体によっては喜び勇んで虐殺しに来るけど、その影響が外界に出ることはないし、被害が出る前にアブーが撃墜させるから外界にヴァンプールが飛び出すことはない」
「意味が分かりません」
「また待てやい。預言ってのはこの禁断の惑星群に人間が初めて立った時から伝承されてる終末論でね、人間はおろか既存の文明も未来への希望もその悉くを滅ぼすのは《ヒトとヴァンプールのハーフ》だとされてる。事実、人間がヴァンプールの子供を懐妊したという例はかなり初期から存在するからこれは笑い飛ばせる冗談とかじゃない。……それは伝承の中で《大王》と呼ばれる究極の生命であり、全界を統べる王として君臨するらしい。大王は曰く、五つの試練を突破した末に成長して選別されるとされていて、その試練に対しての研究と推測も盛んに行われているわけ」
エリゼがサングラスを掛け直して続ける。
「仕組みはわからないけど、いざヴァンプールの子を懐妊してしまった場合でも出生例は四件くらいしかないからね。我々や我々の先輩方が急いで殺し潰すから成長例はゼロだけど、雑種強勢なのか生まれてくる子供は生まれながらにちょっとヤバめ。少なくとも大王の芽を潰しつつ、既存に存在するヴァンプールを減らし続けるしか人類存亡の望みがないわけ」
拍子抜けするくらい突飛な話だが、これまでセノフォンテが体験したすべての事柄は外界世界と呼ばれる彼が元いた世界とはどうしてもかけ離れたものだ。常識も物理も時の流れさえもが彼の持つ全ての感覚とは異なり、それがこちらの世界の常識として立ちはだかっている。
「さっき言っていた、アブーというヴァンプールが外界に出ようとするヴァンプールを撃墜させるっていうのはどういう意図があるんです?…大王なんて待たずとも、有力なヴァンプールが海を渡って人間社会を攻撃すれば世界征服も或いは無理な話じゃないと思うんですがね」
「アブーは熱狂的な大王第一主義だからね。大王が未だ存在しないカテゴリー7の怪物だと仮定すれば、アブーは自分より弱いヴァンプールが外界に出るのは筋違いだと捉えて彼自身が粛清機構としてプラグ・Sの外周を守り続けているんだ。だからアブーがその役目に飽きたり、まかり間違って彼を殺そうものなら好戦的な無数のヴァンプールが世界を滅ぼしにピクニックを始める可能性が極めて高いわけ」
「しかし同種のヴァンプールを殺しては大王が誕生する契機も失うことになるのでは?そもそも外界の方がよほど人間に溢れているのだから、相対的に大王の出生率も上がるはず」
「いいや。ヴァンプール同士は人間のように社会的な絆を形成すること自体珍しいんだ。だって、人間が徒党を組むのはより自分らにとって住み良い環境を作るためであったり、より強大な敵を打ち負かすためだからね。孤にして軍という言葉が人間にあるように、ヴァンプールは個にして群だ。自分で群集体系を構築できる以上、同種同士で仲良くする必要も無為に関心を寄せあうこともない。とはいえ、ヴァンプール同士が本気でやり合った場合、それなりに被害が人間側にも及ぶからあまり望ましいことではないんだけどね」
そこでセノフォンテが顔を顰める。
「そのアブーというヴァンプールが外界に他のヴァンプールを出したっていう事例はありますか?」
「…いや。今のところ一度も確認されてないけど……どうして?」
「俺に関しての情報がある程度仕入れられているのなご存知とは思いますが、先日外界の超大国アメリカにて人智未踏の怪物による惨劇が発生しました。その被害は甚大であり、襲撃者は軍隊を打ち負かすまでの圧倒的な実力差を体現しました。…今の話を聞く限り、そんな芸当ができるのはヴァンプールと呼ばれる例外勢力より他にないと思うのですが…どうでしょう?」
「外界に何らかのイレギュラーが発生してヴァンプールの幼体が出現した可能性はゼロではない。…としか言えないかな」
フーシが冴えない笑みを浮かべた。
「だが、そちらの世界も科学という最強の武器を持ってる。かつて人智が挑めなかった領域を克服してきたのは紛れもない科学の功績さ。であれば、外界の人間が何らかの手法でヴァンプールに届く生命体を作り出したとしても不思議じゃない。……なんにせよ、我々には外界の騒ぎを気にしている余裕なんてないからね。そっちの事情は君においおいと手を付けて貰おうかな」
「俺の目的は始めからコード・LUNAと呼ばれるその怪物に関する手掛かりを掴むことです。……そろそろ教えて貰ってもいいでしょうか?我々は一体どこに向かってるんです?」
それにはずっと運転していたバーソロミュー・ガラデックスが答えた。
「アブーのところだ」
「え??」
「そもそもお前が乗っていた輸送機がアブーの艦隊に襲われる所からまずイレギュラーだった。奴は基本的に人間が第一圏から外界に出ようとしても止める奴じゃないし、反対に入ってくる人間の輸送機を撃ち落とすなんてまずあり得ない。…おまけにお前は奴の恵能者だからな。諸々説明してもらわにゃならんわけだ」
「けいのうしゃ…とは?」
「血だまり野郎共にはその脅威のレベルに応じたカテゴライズがされてやがる。カテゴリー1を最低ラインとしてカテゴリー6が現在の最高ランク。そんでその上の7は大王の出現と共に更新されると言われてら。……カテゴリー6に当てはまるヴァンプールはアブーの糞野郎みたく異次元の強さと殺戮性能を常に保有していつでも行使できる奴らを指すが、稀に奴らカテゴリー6の群集体系の力が人間に影響を及ぼすことってのがある。これを人間に与えられたギフトと捉え、ヒトながらにヴァンプールの強大な力の一端を使える人間のことを恵能者と呼ぶわけだ」
「それが、俺だと」
「お前だけじゃねぇ。アブーは第一圏の実質的な支配者だから第一圏には少なくない奴の恵能者がいる。俺もそうさ。奴の司る《撃墜》という概念そのものが形や威力を成してテメェの体に刻まれるわけよ。撃墜の恵能でもなければお前ごときが棒振り下ろした程度で床が落ちるわけねぇだろ?」
そういわれれば、エリゼと死闘を繰り広げていた彼には底知れない力が一瞬だが宿った。そのことを想起したセノフォンテは一抹の不安に駆られた。
「え…じゃあ…俺も怪物に」
狼狽えるセノフォンテを他所にオープンカーはアスファルトを焦がしながら急停止した。目を白黒させているセノフォンテとは違い、他の三人は至って冷静だった。
「悪ぃが、ちと別件だな。厄介な奴に会っちまった」
「な、なんなんですか!?」
「敵だよ」
「ヴァンプール。それは、まだプラグ・Sが大西洋のど真ん中に突如顕現してから間もない頃につけられた先住民族に対しての呼称であり、通念として存在するその名称は今なお使われているものだ。地球の法則に外れたこのパラレルワールドに存在する彼らもまた、君のようなまっとうな地球人から見れば異能と超常をその身に宿した怪物として大いに恐れられた」
風を切るオープンカー。タイヤもボディも決して世界的に流通している何らかの会社によるものではない。形状も材質も不明かつ見慣れない装飾と形状で構成された不穏な物体が時速100kmほどの速度で狭いアスファルトらしき街道を駆け抜けていた。
「既に話したように、プラグ・Sは島ではなく惑星体系のツギハギな集合体だ。所見では第一圏から第二圏に渡ることも困難なまでに感覚神経の外側を行く厳かな体系においてはただ存在するだけでも魂が抉られるような恐ろしい空間すら存在する。…で、そもそもその空間を所持しているのは先住民的な立場にあるそのヴァンプールたちであり、彼らもまた世代交代を繰り返しながら少しずつ数を増やしたり減らしたりしているわけだ」
フーシの淡々たる口調が続く。
「しかし、人間と同じく遺伝子や血縁を介した地上の征服というのは、彼らの用いる存在証明の手法とは根本的に大きく異なる。まず、第一に地球の生命というものはそれが生まれた瞬間からまさに増え続けるための宿業を背負う。多種生物とは一線を画した理性と技術を獲得した人間であっても、その命の使い道は繁栄と繁殖に尽きる。子孫繁栄は種の存続という呪いを原初の生命体たちから引き継いだことによる悲しき運命といっても過言ではない。つまり、人間もまたそこらへんの雑草やら家畜やらと根本的には変わらない。自らが生きるため、自らと同じものを残すために知恵とその生涯を捧げて尽くすわけだよ。幸福かどうかは結局そこに行く付く」
「…………………………」
「今ある命は過去、現在、未来の命を繋ぎとめるための触媒に過ぎず、そのために同種同士で殺し合うという矛盾すら正当化してしまう。しかし、彼らは違う。ヴァンプールは人間が恐怖し、同時に畏敬した仮想生命ヴァンパイアに由来する呼称だ。意味合いとしては血だまりに近い」
「血だまり……?」
「そう。血だまりだ。といっても彼らに人間と同じような血液は存在しないんだけどね。ま、その辺は別に彼らを解剖して知り得た情報でもなければ、確証ある論文が書かれているわけでもない。所謂憶測の域を出ない全仮定の人智未踏の生命こそが彼らヴァンプールだ。彼らは世代交代を必要としない増殖を行うことが可能であり、それが全てといっても良い。プラグ・Sを構成する惑星群が禁断の惑星と呼ばれる所以はこの通常世界の理と積み重なった生命史への叛逆を期せずしてヴァンプールたちが成し得ているからさ」
空は雲もないのに薄暗く、遠くの空ではオーロラが浮かんでいた。太陽も月も見当たらず、あるのは妙に輪郭のはっきりとして何か大きな光の塊のようなものくらいだ。しかし、その大きな光の塊も決して眩しいわけではなく、どちらかといえば暗い部屋に静かに燃えている蝋燭の灯りのようなものであった。
「不老不死とかそういう話です?」
「いや。彼らは不老不死じゃない。殴りまくれば死ぬし、斬り続ければ死ぬ。ただ彼らを取り巻く特質がかなり殺しずらい拠りすぎているために殺害は簡単なことじゃない。それに老化といっても経年劣化こそすれ、彼らはわざわざ自分が老いて腐れ落ちるような空間に身を置いたりはしない。第一圏は比較的外界との時間の差異は少ないが、それでも流れている時間は曖昧だ。時間は人間が作り出した概念だから、それも仕方のないことなのかもしれないけどね」
いきなり始まってから止まない無敵の怪物スピーチに対して、セノフォンテは黙って耳を貸していた。
疲れた頭と体ではもう闘志も湧かず、敵意を見せない彼らに対して立ち向かうだけの余力はどこにもなかった。
「話を戻そう。時間やら殺しずらい特質やらはあくまでおまけだ。問題は彼らの持つ何より強大な性質、我々はこれを《群集体系》と呼ぶ。群集体系は彼らの持つ世代交代を介さない増殖機能と機構そのものを指す言葉であり、君もその一旦を身をもって体験した筈だ」
「まさか、あの木造帆船が…?」
「そうだね。君の輸送機を襲撃したのは紛いものでない正真正銘のヴァンプールにして六体しかいないカテゴリー6の一翼…個体名はアブー・アル・アッバース。司る能力は《撃墜》。齎す群集は《無敵艦隊》。ノーモーションで代償もなく無限に湧き出る海賊船はその尽きない砲撃を以て一切玉砕と滅却、負け知らずの撃墜性能を誇るわけだ」
「無限に湧き出る無限艦隊?」
「そう。まさに最強の物量と継続火力を持ったヴァンプールだ。異能だらけのヴァンプールにおいても頭一つとびぬけた大怪物であり、もし外界に湧いて出れば環境破壊も文明焼却も朝飯前だろう」
フラッシュバックする悍ましい光景。空を覆いつくす弾幕と海を覆いつくす艦隊の群れ。確かにあんなものが文明社会に姿を現せば、無限の砲撃に耐えきれる町も国もおそらくは存在しないだろう。どれほど高性能の爆撃機やミサイルを投入して応戦しても、無限が相手では栓なき抵抗と言える。
「我々の目的はヴァンプールという種族を絶滅させることにあるが、アブーは現状我々と利害をともにする関係にある。ここは説明が難しいわけだけど、まぁ順を追って説明するとも」
「絶滅させるって…今言ってたヴァンプールを!?……無理に決まってる」
「だろ?まぁ、カテゴリー6に該当する血だまりさんたちは人類無双の神性みたいなものだからその気持ちもわかるけど、大抵のヴァンプールはそこまで強大な力は持っていない。能力だってまちまち、戦いに向いていない子供のうちに殺してしまえば問題はない。ヴァンプールはプラグ・S内に不定期で子供の姿で出現するが、彼らは成長する程に攻略難易度が跳ね上がるからね」
「……はぁ」
そこで黙ってオープンカーの助手席に乗っていたエリゼが振り返る。かけたサングラスを少し上げ、エメラルドの瞳でセノフォンテを見据えた。
「んー。君が世界を守るヒーローってのならわかると思うんだけど。我々人間がこれからも仲良く生きていくためにはヴァンプールはあからさまな脅威なわけ。だからそれを摘む役目が必要ってところまでは理解できると思う。でも、不定期に出現してしまうのなら種を断ち切ることなんて不可能だって思うよね。そこで古い預言ってやつが大事になってくる」
「……預言とは」
「第一にヴァンプールたちは人間にそこまで敵対意識や嫌悪感があるわけじゃないんだ。まぁ個体によっては喜び勇んで虐殺しに来るけど、その影響が外界に出ることはないし、被害が出る前にアブーが撃墜させるから外界にヴァンプールが飛び出すことはない」
「意味が分かりません」
「また待てやい。預言ってのはこの禁断の惑星群に人間が初めて立った時から伝承されてる終末論でね、人間はおろか既存の文明も未来への希望もその悉くを滅ぼすのは《ヒトとヴァンプールのハーフ》だとされてる。事実、人間がヴァンプールの子供を懐妊したという例はかなり初期から存在するからこれは笑い飛ばせる冗談とかじゃない。……それは伝承の中で《大王》と呼ばれる究極の生命であり、全界を統べる王として君臨するらしい。大王は曰く、五つの試練を突破した末に成長して選別されるとされていて、その試練に対しての研究と推測も盛んに行われているわけ」
エリゼがサングラスを掛け直して続ける。
「仕組みはわからないけど、いざヴァンプールの子を懐妊してしまった場合でも出生例は四件くらいしかないからね。我々や我々の先輩方が急いで殺し潰すから成長例はゼロだけど、雑種強勢なのか生まれてくる子供は生まれながらにちょっとヤバめ。少なくとも大王の芽を潰しつつ、既存に存在するヴァンプールを減らし続けるしか人類存亡の望みがないわけ」
拍子抜けするくらい突飛な話だが、これまでセノフォンテが体験したすべての事柄は外界世界と呼ばれる彼が元いた世界とはどうしてもかけ離れたものだ。常識も物理も時の流れさえもが彼の持つ全ての感覚とは異なり、それがこちらの世界の常識として立ちはだかっている。
「さっき言っていた、アブーというヴァンプールが外界に出ようとするヴァンプールを撃墜させるっていうのはどういう意図があるんです?…大王なんて待たずとも、有力なヴァンプールが海を渡って人間社会を攻撃すれば世界征服も或いは無理な話じゃないと思うんですがね」
「アブーは熱狂的な大王第一主義だからね。大王が未だ存在しないカテゴリー7の怪物だと仮定すれば、アブーは自分より弱いヴァンプールが外界に出るのは筋違いだと捉えて彼自身が粛清機構としてプラグ・Sの外周を守り続けているんだ。だからアブーがその役目に飽きたり、まかり間違って彼を殺そうものなら好戦的な無数のヴァンプールが世界を滅ぼしにピクニックを始める可能性が極めて高いわけ」
「しかし同種のヴァンプールを殺しては大王が誕生する契機も失うことになるのでは?そもそも外界の方がよほど人間に溢れているのだから、相対的に大王の出生率も上がるはず」
「いいや。ヴァンプール同士は人間のように社会的な絆を形成すること自体珍しいんだ。だって、人間が徒党を組むのはより自分らにとって住み良い環境を作るためであったり、より強大な敵を打ち負かすためだからね。孤にして軍という言葉が人間にあるように、ヴァンプールは個にして群だ。自分で群集体系を構築できる以上、同種同士で仲良くする必要も無為に関心を寄せあうこともない。とはいえ、ヴァンプール同士が本気でやり合った場合、それなりに被害が人間側にも及ぶからあまり望ましいことではないんだけどね」
そこでセノフォンテが顔を顰める。
「そのアブーというヴァンプールが外界に他のヴァンプールを出したっていう事例はありますか?」
「…いや。今のところ一度も確認されてないけど……どうして?」
「俺に関しての情報がある程度仕入れられているのなご存知とは思いますが、先日外界の超大国アメリカにて人智未踏の怪物による惨劇が発生しました。その被害は甚大であり、襲撃者は軍隊を打ち負かすまでの圧倒的な実力差を体現しました。…今の話を聞く限り、そんな芸当ができるのはヴァンプールと呼ばれる例外勢力より他にないと思うのですが…どうでしょう?」
「外界に何らかのイレギュラーが発生してヴァンプールの幼体が出現した可能性はゼロではない。…としか言えないかな」
フーシが冴えない笑みを浮かべた。
「だが、そちらの世界も科学という最強の武器を持ってる。かつて人智が挑めなかった領域を克服してきたのは紛れもない科学の功績さ。であれば、外界の人間が何らかの手法でヴァンプールに届く生命体を作り出したとしても不思議じゃない。……なんにせよ、我々には外界の騒ぎを気にしている余裕なんてないからね。そっちの事情は君においおいと手を付けて貰おうかな」
「俺の目的は始めからコード・LUNAと呼ばれるその怪物に関する手掛かりを掴むことです。……そろそろ教えて貰ってもいいでしょうか?我々は一体どこに向かってるんです?」
それにはずっと運転していたバーソロミュー・ガラデックスが答えた。
「アブーのところだ」
「え??」
「そもそもお前が乗っていた輸送機がアブーの艦隊に襲われる所からまずイレギュラーだった。奴は基本的に人間が第一圏から外界に出ようとしても止める奴じゃないし、反対に入ってくる人間の輸送機を撃ち落とすなんてまずあり得ない。…おまけにお前は奴の恵能者だからな。諸々説明してもらわにゃならんわけだ」
「けいのうしゃ…とは?」
「血だまり野郎共にはその脅威のレベルに応じたカテゴライズがされてやがる。カテゴリー1を最低ラインとしてカテゴリー6が現在の最高ランク。そんでその上の7は大王の出現と共に更新されると言われてら。……カテゴリー6に当てはまるヴァンプールはアブーの糞野郎みたく異次元の強さと殺戮性能を常に保有していつでも行使できる奴らを指すが、稀に奴らカテゴリー6の群集体系の力が人間に影響を及ぼすことってのがある。これを人間に与えられたギフトと捉え、ヒトながらにヴァンプールの強大な力の一端を使える人間のことを恵能者と呼ぶわけだ」
「それが、俺だと」
「お前だけじゃねぇ。アブーは第一圏の実質的な支配者だから第一圏には少なくない奴の恵能者がいる。俺もそうさ。奴の司る《撃墜》という概念そのものが形や威力を成してテメェの体に刻まれるわけよ。撃墜の恵能でもなければお前ごときが棒振り下ろした程度で床が落ちるわけねぇだろ?」
そういわれれば、エリゼと死闘を繰り広げていた彼には底知れない力が一瞬だが宿った。そのことを想起したセノフォンテは一抹の不安に駆られた。
「え…じゃあ…俺も怪物に」
狼狽えるセノフォンテを他所にオープンカーはアスファルトを焦がしながら急停止した。目を白黒させているセノフォンテとは違い、他の三人は至って冷静だった。
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「な、なんなんですか!?」
「敵だよ」
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