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死の淵で輝く
20 三色の正義
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―――――
――――
―――
第一圏の中央域。複数圏域に跨る反ヴァンプール戦線を展開し、人類の敵たるヴァンプールの研究から情報集積、実践を行うことによる排斥活動を主軸として存在する対ヴァンプールを掲げた人間組織《イーネ》の総本山。発足以来、第一圏に生息していたヴァンプールの六割を捕捉し、三割を捕縛するに至る莫大な功績を誇る人類の知られざる砦たるその本部が位置するのは、全ての圏域において認知されるまでの異京《イル・バージスタ》と呼ばれている。
イル・バージスタにおける主要な基幹を構成しているものは三つ。
ヴァンプールの情報集積から捜査を展開し、下級から上位に至るまでのほぼ全てのヴァンプールの登録と抹消を試みる《黒き監視塔》。特殊な事例を除いたヴァンプールに個体の動きを捕捉し、可能な限りを実践させるための重要なブレーンの役割を持った研究職の強い集団であり、必要に応じて下級ヴァンプールの研究運用を試みるプロジェクトなどで悪名を知らしめている腹黒い人間たちの巣窟として知られている。
また、捕縛したヴァンプールの中で特に人間の力で御することが極めて困難を期し、なおかつ殺処分を齎すには圧倒的な存在としての力の差が存在する捕縛対象を半永久的に封印することを目的として存在している機関こそが、第二の軸とされる《白き監獄塔》。中でも上位個体とされるカテゴリー5相当のヴァンプールの動きを封じるには白い監獄の名の由来である太陽光を利用した超圧縮型の光の空間が必要不可欠であり、この監獄塔こそが人類の砦であるという意見も多く寄せられている。
そして、最後にして最強の基幹とされているのは通称《赤い冠征塔》とされるヴァンプールの駆逐を主軸にした実戦集団。いずれ来たるとされるヴァンプールの大王の出現に備えた抑止力としての命題を背負った超人集団であり、恵能と呼ばれるヴァンプール由来の特殊な力を持つことから、対ヴァンプールの遊撃任務や地方領主的な権威を各人が持ち合わせている。ヴァンプール戦線においては自ら率先して監視塔の支援なく戦いを繰り広げることも少なくなく、成果が見合えば人間への被害も認可される領域外な権限行使を本文としている。下級個体ならまだしも、上位個体となれば恵能を有した赤の勢力の協賛が不可欠であり、イーネに完全に従属していない人間の中でも協力的に冠征塔に身を置く者も多い。
冠征塔のメンバーは基本的に自由意志の自由指針を推奨されており、各判断での明確なヴァンプールの戦闘行動が許されている。そのため、強力な恵能を持つ人間は第一圏から圏域を隔てた地域に侵略を開始し、発足以来の至上命題である大王の出現に対する予防処置として積極的にヴァンプールを駆逐する者らも存在する。彼らの活躍の影響もあって第一圏に流入するヴァンプールの八割が抑制されているとし、第一圏での人類の安全保障的な観点からも圏域外の恵能者は一目置かれる存在であった。
だが、冠征塔は複数の圏域に跨って拠点を展開しているものの、その地域展開を度外視してでもイル・バージスタへの結集を果たす場面も存在する。それは決まって大王に関係する預言や儀式に何か動きや兆候が見られた際であり、招集を待たずして彼らはその少数の有力者たちで議事を開始することがある。
これを《逆円卓》と呼ぶ。
円卓とはそも対面する者らの平等や参画関係の公平さを示すシンボルとして名高い機構だが、この逆円卓と呼ばれる合議にはとある意味合いが含有されている。元を辿れば分権的なイル・バージスタの権力構図に起因した険悪さが尾を引いている実に人間らしいものではあるが、お互いがドーナツ状に繰りぬかれた巨大な円卓の内側に座席を拵えて背を向け合って行うこの合議の形態は、自我が強く衝突を起こしやすい彼らが少しでも腹を割って話し合うための顔色を窺わない忌憚なき意見をぶつけ合うために合理的な構図でもあった。
イーネはこの外界とは別次元のルールで存在しているプラグ・Sの世界においては人間の明確な意思と信念を象徴するために必要な組織であり、侵略者としての使命、開拓者としての使命、治安維持のための使命を内包した統括的なシンボルなのだ。
―――――――
――――――
―――――
イル・バージスタ。黒い監視塔。――――逆円卓
「逃がした?」
風通しの良い明るい議事堂。十五席の特別な意匠を凝らした椅子に腰かけた十五人の有力者たち。巨大な絵画、巨大なシャンデリア、無駄に揃った多くの上等な酒や食事。きびきびとしたシャベナラたちの給仕を横目にある者はワインを啜り、あるものは珈琲で己の鼻腔を擽っている。
各々が自分の望む持て成しを受けているという奇妙な光景。人が違えば衣装から食事の内容も異なり、またある者は本を片手に頬杖をついている。しかし、何より異様なのはその十五人全員が互いに背を向け合って座しているという点だった。
声が良く反響するドーム状の議事堂なだけに会話の不自由こそないが、互いの貌が見えないこの合議の場で全員が背を向け合うという光景の奇妙さは、給仕に徹するシャベナラですら何かと感じ取れる不穏さがにじみ出ていた。
「逃がしたんじゃねぇ。逃げられたって言ったんだ」
珈琲カップ片手に足を組んで煙を見つめる男。白い監獄塔/特別運用顧問バーソロミュー・ガラデックス。悪態をつく年若い彼の眉は歪んでおり、手にしていたカップをそっと目の前の逆円卓に置き直す。
「財団の襲撃者は異邦人と身元の割れている人間だ。罷り間違ってもお前と対面して逃げる技量があるはずもなし、おまけに関係性の割れたアミヤナと首を突っ込んできた王種の小娘に逃げられるなど努力しても難しいだろう。お前ほどの男ならわかっているだろう、特別運用顧問。我々が聞きたいのは釈明ではない、現状の仔細に及ぶまでの経緯と原因だ」
「さぁて、奴らが酔狂なのは間違いねぇが……財団のビルを壊したのは意図せずといった具合だったな。その純朴さに目が眩んで逃げられた、とでも言えば言い訳になるのかねぇ。なぁ?統括局長さんよ」
それを聞き、黒い監視塔/第一圏統括局長兼最高指導者であるイーネの頭目たるランドソット・パリバイが激昂する。円卓に激しく拳を叩きつけ、その衝撃は滑らかな弧を描く逆円卓を揺らした。
「特別運用顧問。この第一圏にこれまでに見られない勢いでのマキナ・ヴェッラの侵入が認められた以上、イーネの惰性的な行動は許されない。最終圏の剣とまで言われる魔人たちは皆、最終圏のアンドリュー・ストローの眷属だ。奴がこうも目に見える形で動く以上、我々は大王に纏わる預言に関して改めて意見を統合した認識の共有が必要なのだ!!」
初老のランドソットが自らの怒号に息を上げている様子を尻目に、その右横に位置する円卓のウン・スタヤが口を挟んだ。
「赤い冠征塔/第二圏コンキスタドールとして一言。第二圏ではマキナ・ヴェッラの大移動の確認や魔人級の活動報告は挙がっていない。この様子では他の圏域でも同様だろう。魔人級マキナ・ヴェッラであるアーカス・レイ・ワダクの交戦の末の辛勝は非常に喜ばしいことだが……同様の魔人級の流入にはやはり早急な処置と対策が必要だ。特別運用顧問には是非とも保有する情報を快く提示して頂きたい」
そこに黒い監視塔/総合情報支援部部長アンジェリカ・ドンソンが追随する。
「現状イーネが保有する総合的な戦力を以てしても魔人級のマキナ・ヴェッラの討伐は多く見積もっても五体。いえ、四体が限界でしょう。今のイーネに大規模なマキナ・ヴェッラとの交戦を可能とするだけの余裕と戦力がない以上、今なによりも優先すべきは速やかな根本原因の摘出処置です。我々が貴重な時間を削ってこの場に参列した以上、求められるのは呵責ではなく情報の共有であるのは明白です」
「それを言うなら根本原因はアンドリュー・ストローだろうがジャンキー共。あいつを消さない限りはこの悪夢みたいなお宅訪問は終わらねぇ。だが、誰が出来る?カテゴリー6の中でも最も遠く、吐き気がする悪趣味な魔人をいくらでも従えてる怪物に今すぐ挑んで勝てるなら………俺もそうしてぇよ」
そう言うとガラデックスは再びカップを手に取った。今度はすぐに珈琲を口に含める。
「たっく、人類の危機もいいとこだな。ヴァンプール共の相手ならまだしも、あんな糞クラウン共と火遊びするほどの余裕はねぇってわけだ。……ま、アンドリュー・ストローは無理だわな。バーソロミューの言う通りだ。しかしよ、状況情報はある程度出揃ってるわけだろ?アーカス・レイ・ワダクとその……なんとかコルデロって奴は組んでバザールに紛れ込んだわけだ。目的不明でもよ、流石に事前にマキナ・ヴェッラとエリゼちゃんのバトル見てた人間が手を組もうなんて思うかね?…こりゃあ、普通に最終圏の回し者ってことでいいだろ。で、あの魔人をエリゼちゃんが殺してくれたお陰で今のコルデロとやらはフリーだ。何かしらの隠れ蓑があったとしても、人間一匹とっつ構えてそいつから情報を吐かせりゃいい。なーに、俺に任せてくれりゃあ一朝一夕の楽な仕事だ」
そういったのは赤い冠征塔/第四圏コンキスタドールのトライクラギ・ガラデックスだった。バーソロミュー・ガラデックスの異母兄に当たる彼だが、バーソロミューとの接触や交流は少なく、多くの場面で両者の名が挙がるもののお互いが謎多きと思われている実力者。
第四圏でのヴァンプールの大量虐殺を経て面目躍如を果たした根からの支配者気質であり、第四圏のPOP財団進出に莫大な貢献を果たした冠征塔の中でもトップクラスの実力者だった。だからこそ、彼の発言の重みは周囲の者らが一線引くレベルであり、それを聞いたガラデックスは少し押し黙った。
「総合情報支援部より訂正を希望します。特別監察及び警戒対象の異邦人セノフォンテ・コルデロですが、彼は報告書にあった通り《撃墜》の恵能者です。来訪して間もなくヴァンプールを一騎打倒した実績もあり、決して楽観視が許される存在ではありません。また、同じく特別監察及び警戒対象の通称アミヤナと呼ばれるヴァンプールのカテゴリー5であり、未登録の《空間転移》の力を扱うものとされています。上位個体とランクされる以上はこちらも楽観視が許されず、今回の騒動の最重要捕縛対象とランク付けされていることをご理解ください」
「そんなもん、俺に出させて貰えば首根っこ掴んで帰ってやるよ。それこそ、集団行動してでもいてくれりゃあ苦労が少なくすむぜ。撃墜持ちならうまく調教してこっちの手駒にして欲しかったところだが……ま、生け捕りにする以上はそっちの方向性も期待できねぇわけじゃねぇさ。俺に行かしてくれよ?なぁ。バーソロミューはあんまり下手に動き回るわけにもいかねぇだろ?」
そこで白い監獄塔/看守長のフーシ・リンカンが机を三度叩いて挙手の代わりとした。
「私からも訂正が必要な点があると考えます。財団のビルにてコルデロ君と対峙したヴァンプールは圏域境の《暴虐卿》エデの眷属です。どういう陣営構成なのかは知りませんが、奴の眷属は命令なくして行動を起こさない以上はこの一件になんらかの形であの暴れん坊が関与していると見て間違いないでしょう。さらに、バザールに出現して私の部下を食い殺した王種の小娘。かの《悪食王》の娘である奴は父と同じ《捕食》の力を継承している上、恵能として《撃墜》も持ち合わせています。おそらく行動指針として大筋はコルデロ君との接触――おそらくは、捕縛や殺害だとみるとするならば、我々と再度邂逅を果たして対峙するシチュエーションも想像できます。推定カテゴリーは4。親株としての《悪食王》を倣うならばカテゴリー5と想定しても過剰ではないでしょう」
「で?」
「……何か聞き取りずらい部分がありましたか?第四圏コンキスタドール」
「全員出てきても勝てるなら…問題なくね?」
「…………………」
そういうと、トライクラギ・ガラデックスは立ち上がる。
「議論は出尽くしたのかねぇ――――いや、どのみち俺はここで退席だ。あとは仲良くお喋りしてるといい」
それを聞いてランドロットが問う。
「どうするつもりだ?第四圏コンキスタドール」
「さっき言った。全員生け捕りにして連れてくりゃあいんだろ……てか、そうか。暴虐卿エデねぇ。圏境ならマキナ・ヴェッラもその領地を通るはずだな。じゃ、いろいろと近道になるかもしれねぇ」
「………………」
「はっ。そりゃ見送ってくれねぇよな。全員そっぽ向いてりゃ多少の我儘も目を瞑って貰えらぁ」
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第一圏の中央域。複数圏域に跨る反ヴァンプール戦線を展開し、人類の敵たるヴァンプールの研究から情報集積、実践を行うことによる排斥活動を主軸として存在する対ヴァンプールを掲げた人間組織《イーネ》の総本山。発足以来、第一圏に生息していたヴァンプールの六割を捕捉し、三割を捕縛するに至る莫大な功績を誇る人類の知られざる砦たるその本部が位置するのは、全ての圏域において認知されるまでの異京《イル・バージスタ》と呼ばれている。
イル・バージスタにおける主要な基幹を構成しているものは三つ。
ヴァンプールの情報集積から捜査を展開し、下級から上位に至るまでのほぼ全てのヴァンプールの登録と抹消を試みる《黒き監視塔》。特殊な事例を除いたヴァンプールに個体の動きを捕捉し、可能な限りを実践させるための重要なブレーンの役割を持った研究職の強い集団であり、必要に応じて下級ヴァンプールの研究運用を試みるプロジェクトなどで悪名を知らしめている腹黒い人間たちの巣窟として知られている。
また、捕縛したヴァンプールの中で特に人間の力で御することが極めて困難を期し、なおかつ殺処分を齎すには圧倒的な存在としての力の差が存在する捕縛対象を半永久的に封印することを目的として存在している機関こそが、第二の軸とされる《白き監獄塔》。中でも上位個体とされるカテゴリー5相当のヴァンプールの動きを封じるには白い監獄の名の由来である太陽光を利用した超圧縮型の光の空間が必要不可欠であり、この監獄塔こそが人類の砦であるという意見も多く寄せられている。
そして、最後にして最強の基幹とされているのは通称《赤い冠征塔》とされるヴァンプールの駆逐を主軸にした実戦集団。いずれ来たるとされるヴァンプールの大王の出現に備えた抑止力としての命題を背負った超人集団であり、恵能と呼ばれるヴァンプール由来の特殊な力を持つことから、対ヴァンプールの遊撃任務や地方領主的な権威を各人が持ち合わせている。ヴァンプール戦線においては自ら率先して監視塔の支援なく戦いを繰り広げることも少なくなく、成果が見合えば人間への被害も認可される領域外な権限行使を本文としている。下級個体ならまだしも、上位個体となれば恵能を有した赤の勢力の協賛が不可欠であり、イーネに完全に従属していない人間の中でも協力的に冠征塔に身を置く者も多い。
冠征塔のメンバーは基本的に自由意志の自由指針を推奨されており、各判断での明確なヴァンプールの戦闘行動が許されている。そのため、強力な恵能を持つ人間は第一圏から圏域を隔てた地域に侵略を開始し、発足以来の至上命題である大王の出現に対する予防処置として積極的にヴァンプールを駆逐する者らも存在する。彼らの活躍の影響もあって第一圏に流入するヴァンプールの八割が抑制されているとし、第一圏での人類の安全保障的な観点からも圏域外の恵能者は一目置かれる存在であった。
だが、冠征塔は複数の圏域に跨って拠点を展開しているものの、その地域展開を度外視してでもイル・バージスタへの結集を果たす場面も存在する。それは決まって大王に関係する預言や儀式に何か動きや兆候が見られた際であり、招集を待たずして彼らはその少数の有力者たちで議事を開始することがある。
これを《逆円卓》と呼ぶ。
円卓とはそも対面する者らの平等や参画関係の公平さを示すシンボルとして名高い機構だが、この逆円卓と呼ばれる合議にはとある意味合いが含有されている。元を辿れば分権的なイル・バージスタの権力構図に起因した険悪さが尾を引いている実に人間らしいものではあるが、お互いがドーナツ状に繰りぬかれた巨大な円卓の内側に座席を拵えて背を向け合って行うこの合議の形態は、自我が強く衝突を起こしやすい彼らが少しでも腹を割って話し合うための顔色を窺わない忌憚なき意見をぶつけ合うために合理的な構図でもあった。
イーネはこの外界とは別次元のルールで存在しているプラグ・Sの世界においては人間の明確な意思と信念を象徴するために必要な組織であり、侵略者としての使命、開拓者としての使命、治安維持のための使命を内包した統括的なシンボルなのだ。
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イル・バージスタ。黒い監視塔。――――逆円卓
「逃がした?」
風通しの良い明るい議事堂。十五席の特別な意匠を凝らした椅子に腰かけた十五人の有力者たち。巨大な絵画、巨大なシャンデリア、無駄に揃った多くの上等な酒や食事。きびきびとしたシャベナラたちの給仕を横目にある者はワインを啜り、あるものは珈琲で己の鼻腔を擽っている。
各々が自分の望む持て成しを受けているという奇妙な光景。人が違えば衣装から食事の内容も異なり、またある者は本を片手に頬杖をついている。しかし、何より異様なのはその十五人全員が互いに背を向け合って座しているという点だった。
声が良く反響するドーム状の議事堂なだけに会話の不自由こそないが、互いの貌が見えないこの合議の場で全員が背を向け合うという光景の奇妙さは、給仕に徹するシャベナラですら何かと感じ取れる不穏さがにじみ出ていた。
「逃がしたんじゃねぇ。逃げられたって言ったんだ」
珈琲カップ片手に足を組んで煙を見つめる男。白い監獄塔/特別運用顧問バーソロミュー・ガラデックス。悪態をつく年若い彼の眉は歪んでおり、手にしていたカップをそっと目の前の逆円卓に置き直す。
「財団の襲撃者は異邦人と身元の割れている人間だ。罷り間違ってもお前と対面して逃げる技量があるはずもなし、おまけに関係性の割れたアミヤナと首を突っ込んできた王種の小娘に逃げられるなど努力しても難しいだろう。お前ほどの男ならわかっているだろう、特別運用顧問。我々が聞きたいのは釈明ではない、現状の仔細に及ぶまでの経緯と原因だ」
「さぁて、奴らが酔狂なのは間違いねぇが……財団のビルを壊したのは意図せずといった具合だったな。その純朴さに目が眩んで逃げられた、とでも言えば言い訳になるのかねぇ。なぁ?統括局長さんよ」
それを聞き、黒い監視塔/第一圏統括局長兼最高指導者であるイーネの頭目たるランドソット・パリバイが激昂する。円卓に激しく拳を叩きつけ、その衝撃は滑らかな弧を描く逆円卓を揺らした。
「特別運用顧問。この第一圏にこれまでに見られない勢いでのマキナ・ヴェッラの侵入が認められた以上、イーネの惰性的な行動は許されない。最終圏の剣とまで言われる魔人たちは皆、最終圏のアンドリュー・ストローの眷属だ。奴がこうも目に見える形で動く以上、我々は大王に纏わる預言に関して改めて意見を統合した認識の共有が必要なのだ!!」
初老のランドソットが自らの怒号に息を上げている様子を尻目に、その右横に位置する円卓のウン・スタヤが口を挟んだ。
「赤い冠征塔/第二圏コンキスタドールとして一言。第二圏ではマキナ・ヴェッラの大移動の確認や魔人級の活動報告は挙がっていない。この様子では他の圏域でも同様だろう。魔人級マキナ・ヴェッラであるアーカス・レイ・ワダクの交戦の末の辛勝は非常に喜ばしいことだが……同様の魔人級の流入にはやはり早急な処置と対策が必要だ。特別運用顧問には是非とも保有する情報を快く提示して頂きたい」
そこに黒い監視塔/総合情報支援部部長アンジェリカ・ドンソンが追随する。
「現状イーネが保有する総合的な戦力を以てしても魔人級のマキナ・ヴェッラの討伐は多く見積もっても五体。いえ、四体が限界でしょう。今のイーネに大規模なマキナ・ヴェッラとの交戦を可能とするだけの余裕と戦力がない以上、今なによりも優先すべきは速やかな根本原因の摘出処置です。我々が貴重な時間を削ってこの場に参列した以上、求められるのは呵責ではなく情報の共有であるのは明白です」
「それを言うなら根本原因はアンドリュー・ストローだろうがジャンキー共。あいつを消さない限りはこの悪夢みたいなお宅訪問は終わらねぇ。だが、誰が出来る?カテゴリー6の中でも最も遠く、吐き気がする悪趣味な魔人をいくらでも従えてる怪物に今すぐ挑んで勝てるなら………俺もそうしてぇよ」
そう言うとガラデックスは再びカップを手に取った。今度はすぐに珈琲を口に含める。
「たっく、人類の危機もいいとこだな。ヴァンプール共の相手ならまだしも、あんな糞クラウン共と火遊びするほどの余裕はねぇってわけだ。……ま、アンドリュー・ストローは無理だわな。バーソロミューの言う通りだ。しかしよ、状況情報はある程度出揃ってるわけだろ?アーカス・レイ・ワダクとその……なんとかコルデロって奴は組んでバザールに紛れ込んだわけだ。目的不明でもよ、流石に事前にマキナ・ヴェッラとエリゼちゃんのバトル見てた人間が手を組もうなんて思うかね?…こりゃあ、普通に最終圏の回し者ってことでいいだろ。で、あの魔人をエリゼちゃんが殺してくれたお陰で今のコルデロとやらはフリーだ。何かしらの隠れ蓑があったとしても、人間一匹とっつ構えてそいつから情報を吐かせりゃいい。なーに、俺に任せてくれりゃあ一朝一夕の楽な仕事だ」
そういったのは赤い冠征塔/第四圏コンキスタドールのトライクラギ・ガラデックスだった。バーソロミュー・ガラデックスの異母兄に当たる彼だが、バーソロミューとの接触や交流は少なく、多くの場面で両者の名が挙がるもののお互いが謎多きと思われている実力者。
第四圏でのヴァンプールの大量虐殺を経て面目躍如を果たした根からの支配者気質であり、第四圏のPOP財団進出に莫大な貢献を果たした冠征塔の中でもトップクラスの実力者だった。だからこそ、彼の発言の重みは周囲の者らが一線引くレベルであり、それを聞いたガラデックスは少し押し黙った。
「総合情報支援部より訂正を希望します。特別監察及び警戒対象の異邦人セノフォンテ・コルデロですが、彼は報告書にあった通り《撃墜》の恵能者です。来訪して間もなくヴァンプールを一騎打倒した実績もあり、決して楽観視が許される存在ではありません。また、同じく特別監察及び警戒対象の通称アミヤナと呼ばれるヴァンプールのカテゴリー5であり、未登録の《空間転移》の力を扱うものとされています。上位個体とランクされる以上はこちらも楽観視が許されず、今回の騒動の最重要捕縛対象とランク付けされていることをご理解ください」
「そんなもん、俺に出させて貰えば首根っこ掴んで帰ってやるよ。それこそ、集団行動してでもいてくれりゃあ苦労が少なくすむぜ。撃墜持ちならうまく調教してこっちの手駒にして欲しかったところだが……ま、生け捕りにする以上はそっちの方向性も期待できねぇわけじゃねぇさ。俺に行かしてくれよ?なぁ。バーソロミューはあんまり下手に動き回るわけにもいかねぇだろ?」
そこで白い監獄塔/看守長のフーシ・リンカンが机を三度叩いて挙手の代わりとした。
「私からも訂正が必要な点があると考えます。財団のビルにてコルデロ君と対峙したヴァンプールは圏域境の《暴虐卿》エデの眷属です。どういう陣営構成なのかは知りませんが、奴の眷属は命令なくして行動を起こさない以上はこの一件になんらかの形であの暴れん坊が関与していると見て間違いないでしょう。さらに、バザールに出現して私の部下を食い殺した王種の小娘。かの《悪食王》の娘である奴は父と同じ《捕食》の力を継承している上、恵能として《撃墜》も持ち合わせています。おそらく行動指針として大筋はコルデロ君との接触――おそらくは、捕縛や殺害だとみるとするならば、我々と再度邂逅を果たして対峙するシチュエーションも想像できます。推定カテゴリーは4。親株としての《悪食王》を倣うならばカテゴリー5と想定しても過剰ではないでしょう」
「で?」
「……何か聞き取りずらい部分がありましたか?第四圏コンキスタドール」
「全員出てきても勝てるなら…問題なくね?」
「…………………」
そういうと、トライクラギ・ガラデックスは立ち上がる。
「議論は出尽くしたのかねぇ――――いや、どのみち俺はここで退席だ。あとは仲良くお喋りしてるといい」
それを聞いてランドロットが問う。
「どうするつもりだ?第四圏コンキスタドール」
「さっき言った。全員生け捕りにして連れてくりゃあいんだろ……てか、そうか。暴虐卿エデねぇ。圏境ならマキナ・ヴェッラもその領地を通るはずだな。じゃ、いろいろと近道になるかもしれねぇ」
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