不機嫌な乙女と王都の騎士

黒辺あゆみ

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四章 王城の女性文官

27話 初出勤

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パレットが王城で働くことになったとはいえ、「では明日からよろしく」というわけにはいかない。
 現在のパレットの身分は、アカレアの領主館の文官であるのだ。
そちらでの仕事を辞めるための手紙を送り、了承の返事をもらわなくてはならない。
でないと二重契約になってしまう。
そしてアカレアで借りていた部屋の処分である。
こちらにもお金をしたためた手紙を出して、部屋の中身は全て捨てるか売るかしてほしいと、大家にお願いした。
 この手続きに時間がかかるかと思いきや、返事はすぐに届いた。
どうやら王城側からもアカレア領主館に通達が行ったらしい。

「今後こちらとの便宜を図るように」

という領主様からの言付けがあった。

 ――私にとっていい上司と領主様ではなかったけど、まともな領地経営だったことは認めるわ

 王城の現実を知ってからは特に思う。
あそこはまともな職場だったのだと。
パレットは今後少しくらいなら、便宜を図ってもらえるように上司に頼んでもいいかな、という気持ちになっていた。
いろいろあって心が広くなったのかもしれない。
 あれからパレットは、結局ジーンの屋敷に下宿することになった。
これにあたり、パレットは今後を考えて契約書を作成することをジーンに進めた。
下宿を望む者にどんな人物がいるのかわからない。
なので最低限守るべき決まり事を作って、それを違反すると退去するという約束を交わすことになった。

「下宿人第一号が、パレットさんでよかったわ」

とエミリが喜んでいた。
 そうして手続きが済んで、いよいよパレットは王城の文官の制服を身に付けて出勤することになった。

「行ってらっしゃい!」
「きぞくなんかに負けないで!」

エミリとアニタに見送られ、パレットは屋敷を出立した。
 王城でも女性の文官というのはいないらしい。
パレットが廊下を歩いていると、いろいろな人にじろじろ見られた。
パレットは様々な視線を集めながら、以前面接に来た財務管理室にたどり着いた。
ノックの後返事があったので、パレットはドアを開けた。

「失礼します」

部屋の中にいたのは室長の他五人の文官だった。

「ようこそ、管理室へ」

そう言って歓迎してくれたのはいいが、みんな顔色が悪い。
そしてパレットにはもっと気になることがある。

「あの、これだけ、ですか?」

管理室とは、財務へ送られる請求書などの書類を管理するところであるそうだ。
ここで様々な方面の書類により分け、計算をして支払いをする部署へと持っていくのだとか。
財務の一部署とはいえ、領主館の財務よりも人数が少ないなんてありえないだろう。
顔が引きつりそうになるパレットに、みんな微妙な笑顔を浮かべた。

「本来ならもっといるよ?この部屋に入らないくらいの人数が。
けれど仕事を任せられる人数が、この五人だってことだよ」

パレットよりも少し年上であろう男性が、肩をすくめて説明した。

 ――聞かなければよかった

 パレットは早速後悔した。

「じゃあ、他の人はなにをしてるんですか?」

サボりで給料泥棒ではあるまいな、とパレットが眉を顰めていると。

「彼らにとっての仕事をしているさ。
懇意にしているところから請求書をもらってくるという、大事な仕事をね」

そう聞いた直後、部屋の奥から声を掛けられる。

「待っていたぞ、パレット・ドーヴァンス」

室長がパレットを手招きして、隣の机を示した。
机の上には、大量の紙束が置いてある。

「これは全て予算請求だ。
これに目を通して、まともな奴だけを振るい分けろ。
まともでないものは全て処分だ」

計算業務ですらない、ただの書類のより分け作業だ。
新人に任せられる仕事は、それくらいだということなのだろう。
そうパレットが納得していると。

「それさえ終わってくれれば、私たちの仕事が進む」
「ありがたい、今日は早く帰れるかもしれない」

喜びの声が五人から聞こえてきた。
どうやら重要な仕事のようである。
彼らにとって面倒かつ疲れる仕事なのだろう。
思えば以前見せられた、冗談のような請求書があるのだ。
あんなものをいちいち確認する労力がもったいないに違いない。

「処分かどうか、私が決めていいんですか?」
「君が今まで働いていた、アカレアの領主館での基準でかまわん」

室長の許可が下りたところで、パレットは早速仕事にとりかかった。
 作業に時間がかかるかと思いきや、初見でダメだと判断できるものがほとんどだったので、振るい分けよりもむしろ大量の紙束の処分の方が時間がかかった。
 パレットの作業を横目で見守っていた文官たちがため息を漏らす。

「私たちも毒されてきてるんですね。
このくらいはいいだろうと考えてしまうんです」
「苦情が面倒ですからね」

ほんの少しになった請求書の処理をする文官たちが、しみじみと語り合っている。
どうやら彼らはつい温情をかけてしまうようである。
だがこれだけ無駄書類があれば、数枚の書類に温情を掛けたところで、苦情の件数は減らないだろうとパレットは思う。
きっと彼らは疲れているのだ。
 パレットが文官たちに憐みの視線を向けていると、室長がため息をついた。

「王城の貴族どもは、予算というものは言い値がもらえると勘違いしている節がある」

相手は予算が下りるのは決定事項と考えているため、書類は形式的なものだと思って手抜きするのだとか。

 ――ダメじゃないそれ、予算を下ろすかどうかを最後に決めるのは王様なのに

 世襲が長く続いた家の権力はそれほど大きいのだろうか。
パレットは貴族に注意するように言われたというジーンの言葉を思い出した。

「それを断った苦情に対応していると、下手するとそれだけで一日の業務が終わるんだよ」

それで他の部署が帰った後、残業して通常業務を行うのだとか。
みんな顔色が悪いわけである。
 こうしてパレットの王城勤め一日目が過ぎて行った。
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