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四章 王城の女性文官
30話 王子様のお願い
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パレットは、ここで自分が出しゃばらなくてもいいんだと言い聞かせようとしたが、どうやら無理なようだ。
――自分の子供の頃が思い出されるわ
パレットの両親は決して愛情が薄いわけではなかったが、仕事が忙しくてあまり構ってもらえていなかった。
一人っ子であるパレットは、結果一人で静かに遊ぶ幼少時代を過ごした。
だが後に、その生活も平和だったのだと思い知らされたのだが。
思い惑うパレットに、ミィが甘えてくる。
パレットはミィを両手で抱えて、王子様の前に膝をついた。
「殿下、そう思い悩まずともミィと遊べますよ」
「本当か!?」
王子様はパッと顔を上げると嬉しそうな顔をした。
――知らぬ振りができない時点で、負けなのよね
パレットはとたんに笑顔になった王子様に、その方法を教えてやる。
「ミィは賢い子で、人の言葉を理解しているとオルレイン導師がいっていました。
だから殿下がミィにお願いすればいいんです、一緒に遊んでくださいって」
だがここで、問題が発生した。
「お願いとは、なんだ」
そう言って王子様が首を傾げたのだ。
――王子様の教育係はなにをしているの!
「命令」を教えて「お願い」を教えないとは何事か。
王子様の教育がどういったものなのか知らないが、このままだと王子様が将来歪まないか心配だ。
パレットは基本人嫌いだ。
しかし他の人間が不幸になればいいと思うほど、人間捨てていないつもりだ。
――この方は気持ちを伝える方法を教わっていない
獣の子と遊びたい。
たったこれだけの願望を叶えるためのやり方を、王子様は知らないのだ。
王子様の年頃としては、丁度パレットが家出する頃のジェームスくらいだろう。
そう考えたら、このままだとこの王子もああなってしまうのかと思えた。
パレットは極力しかめっ面にならないように気を付けて、王子様と視線を合わせる。
「お願いとは、欲しいものを得るために、相手に頭を下げて頼むことです」
パレットの説明に、王子様はむっとした顔をした。
「頭を下げるなど、身分の低い者がすることだ!」
王子様の立場からすると、確かにそうである。
将来はともかく、今の時点で王子様が頭を下げる必要のある相手は、自分の両親くらいだろう。
「ですが殿下も、陛下には頭を下げて頼むことがあるでしょう?」
「それは、父上だからな!」
「それが、お願いですよ」
ここでようなく、王子様はお願いの意味がわかったようだ。
「なるほど、あれがお願いというものか」
王子様に理解してもらったところで、パレットは続けた。
「確かにお願いは、殿下にとってあまり頻繁にできることではないのでしょうね」
一国の王子様が、あまり頭を下げることは褒められたことではないのかもしれない。
「でもお願いには、命令と違ういいこともあるんですよ?」
「いいこと?」
不思議そうな顔をする王子様に、パレットは続けた。
「相手と仲良くなれることです」
しばらく考えていた王子様が眉を寄せた。
「でも、命令の方がいい。
絶対に手に入るではないか」
これは思えば悲しい言葉だ。
この王子様は、仲良くすることを諦めると言っているのだ。
――仲良くしたい友達がいないのかも
王城がパレットが聞かされたような微妙な情勢であるのなら、王子様の遊び相手も厳選されるのだろう。
だがこのままでは王子様が、新しい遊び相手とケンカする未来しか見えない気がする。
パレットは王子様の目をじっと見据えた。
「殿下、例えば目の前に子供がいて、その子が持っているおもちゃを殿下が欲しくなったとします」
「私が欲しがるのだから、きっとすごいおもちゃなのだろうな」
王子様は、パレットのたとえ話に素直に乗ってくれた。
「お願いして、その子が嫌だと言ったら、殿下はそれで諦めますか?」
「……それが、お願いだろう」
王子様はそう言ってむくれた。
王様にお願いをして、断られたことがあるのだろう。
だがパレットは首を横に振った。
「私なら諦めません。
どうすればもらえるのかその子に尋ねて、もう一度お願いし直します。
もしかすると、おもちゃをあげられない理由があるかもしれません。
そのおもちゃはひょっとしたら、その子の亡くなった親の形見なのかもしれません」
「私は親の形見を取り上げるほど、ひどいことはしない!」
ムッとした表情で叫ぶ王子様に、パレットはホッとする。
「……殿下は、お優しいですね」
どうやら王子様は、やり方を「命令」しか知らなかっただけで、心根は優しい少年のようだ。
パレットはかすかに微笑んだ。
「だから、その子に尋ねるのです。
もう一度お願いすると、その子は貸すならいいよと言うかもしれません。
それとも今持っているものはあげられないけれど、同じものをもう一つ買ってきてくれると言うかもしれません」
「うむ、おもちゃで遊べるのであれば、私はそれでいいぞ」
おもちゃで遊べる答えがわかり、王子様は満足そうな顔をする。
「その後王子様は、その子とおもちゃで一緒に遊べるかもしれません。
それがお願いのいいところです。
命令でおもちゃを一方的に取り上げると、その子と一緒に遊ぶのは難しいですよ」
一緒に遊ぶという言葉に、王子様は身体をピクリを震わせた。
「……なるほど、お願いとは、なにがしたいのかをちゃんと言うことなのか」
新しい発見をした王子様に、パレットは頷いた。
「そうです。
命令は無理矢理ですが、お願いは気持ちを通じ合わせることです」
パレットは、話の成り行きを見守るように大人しくお座りしていたミィを、持ち上げて王子様の目の前に持ってきた。
「だから殿下も、ミィにお願いしてみましょう」
「うみゃ!」
プラプラと尻尾を揺らすミィに、王子様はそろりと手を伸ばす。
「そなた、私と一緒に遊んでくれるか?」
「みぃ!」
ミィが王子様の手をペロンと舐めた。
「遊んでくれるようですよ」
「そうか!」
パレットが告げると王子様は、とても子供らしい表情を浮かべていた。
――自分の子供の頃が思い出されるわ
パレットの両親は決して愛情が薄いわけではなかったが、仕事が忙しくてあまり構ってもらえていなかった。
一人っ子であるパレットは、結果一人で静かに遊ぶ幼少時代を過ごした。
だが後に、その生活も平和だったのだと思い知らされたのだが。
思い惑うパレットに、ミィが甘えてくる。
パレットはミィを両手で抱えて、王子様の前に膝をついた。
「殿下、そう思い悩まずともミィと遊べますよ」
「本当か!?」
王子様はパッと顔を上げると嬉しそうな顔をした。
――知らぬ振りができない時点で、負けなのよね
パレットはとたんに笑顔になった王子様に、その方法を教えてやる。
「ミィは賢い子で、人の言葉を理解しているとオルレイン導師がいっていました。
だから殿下がミィにお願いすればいいんです、一緒に遊んでくださいって」
だがここで、問題が発生した。
「お願いとは、なんだ」
そう言って王子様が首を傾げたのだ。
――王子様の教育係はなにをしているの!
「命令」を教えて「お願い」を教えないとは何事か。
王子様の教育がどういったものなのか知らないが、このままだと王子様が将来歪まないか心配だ。
パレットは基本人嫌いだ。
しかし他の人間が不幸になればいいと思うほど、人間捨てていないつもりだ。
――この方は気持ちを伝える方法を教わっていない
獣の子と遊びたい。
たったこれだけの願望を叶えるためのやり方を、王子様は知らないのだ。
王子様の年頃としては、丁度パレットが家出する頃のジェームスくらいだろう。
そう考えたら、このままだとこの王子もああなってしまうのかと思えた。
パレットは極力しかめっ面にならないように気を付けて、王子様と視線を合わせる。
「お願いとは、欲しいものを得るために、相手に頭を下げて頼むことです」
パレットの説明に、王子様はむっとした顔をした。
「頭を下げるなど、身分の低い者がすることだ!」
王子様の立場からすると、確かにそうである。
将来はともかく、今の時点で王子様が頭を下げる必要のある相手は、自分の両親くらいだろう。
「ですが殿下も、陛下には頭を下げて頼むことがあるでしょう?」
「それは、父上だからな!」
「それが、お願いですよ」
ここでようなく、王子様はお願いの意味がわかったようだ。
「なるほど、あれがお願いというものか」
王子様に理解してもらったところで、パレットは続けた。
「確かにお願いは、殿下にとってあまり頻繁にできることではないのでしょうね」
一国の王子様が、あまり頭を下げることは褒められたことではないのかもしれない。
「でもお願いには、命令と違ういいこともあるんですよ?」
「いいこと?」
不思議そうな顔をする王子様に、パレットは続けた。
「相手と仲良くなれることです」
しばらく考えていた王子様が眉を寄せた。
「でも、命令の方がいい。
絶対に手に入るではないか」
これは思えば悲しい言葉だ。
この王子様は、仲良くすることを諦めると言っているのだ。
――仲良くしたい友達がいないのかも
王城がパレットが聞かされたような微妙な情勢であるのなら、王子様の遊び相手も厳選されるのだろう。
だがこのままでは王子様が、新しい遊び相手とケンカする未来しか見えない気がする。
パレットは王子様の目をじっと見据えた。
「殿下、例えば目の前に子供がいて、その子が持っているおもちゃを殿下が欲しくなったとします」
「私が欲しがるのだから、きっとすごいおもちゃなのだろうな」
王子様は、パレットのたとえ話に素直に乗ってくれた。
「お願いして、その子が嫌だと言ったら、殿下はそれで諦めますか?」
「……それが、お願いだろう」
王子様はそう言ってむくれた。
王様にお願いをして、断られたことがあるのだろう。
だがパレットは首を横に振った。
「私なら諦めません。
どうすればもらえるのかその子に尋ねて、もう一度お願いし直します。
もしかすると、おもちゃをあげられない理由があるかもしれません。
そのおもちゃはひょっとしたら、その子の亡くなった親の形見なのかもしれません」
「私は親の形見を取り上げるほど、ひどいことはしない!」
ムッとした表情で叫ぶ王子様に、パレットはホッとする。
「……殿下は、お優しいですね」
どうやら王子様は、やり方を「命令」しか知らなかっただけで、心根は優しい少年のようだ。
パレットはかすかに微笑んだ。
「だから、その子に尋ねるのです。
もう一度お願いすると、その子は貸すならいいよと言うかもしれません。
それとも今持っているものはあげられないけれど、同じものをもう一つ買ってきてくれると言うかもしれません」
「うむ、おもちゃで遊べるのであれば、私はそれでいいぞ」
おもちゃで遊べる答えがわかり、王子様は満足そうな顔をする。
「その後王子様は、その子とおもちゃで一緒に遊べるかもしれません。
それがお願いのいいところです。
命令でおもちゃを一方的に取り上げると、その子と一緒に遊ぶのは難しいですよ」
一緒に遊ぶという言葉に、王子様は身体をピクリを震わせた。
「……なるほど、お願いとは、なにがしたいのかをちゃんと言うことなのか」
新しい発見をした王子様に、パレットは頷いた。
「そうです。
命令は無理矢理ですが、お願いは気持ちを通じ合わせることです」
パレットは、話の成り行きを見守るように大人しくお座りしていたミィを、持ち上げて王子様の目の前に持ってきた。
「だから殿下も、ミィにお願いしてみましょう」
「うみゃ!」
プラプラと尻尾を揺らすミィに、王子様はそろりと手を伸ばす。
「そなた、私と一緒に遊んでくれるか?」
「みぃ!」
ミィが王子様の手をペロンと舐めた。
「遊んでくれるようですよ」
「そうか!」
パレットが告げると王子様は、とても子供らしい表情を浮かべていた。
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