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四章 王城の女性文官
33話 オルレイン導師の話
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パレットはようやくオルレイン導師の研究室へとたどり着いた。
ここに来るのはパレットが初めて王都に来た時以来だが、やけにここまでの道のりが遠かった気がする。
――妙なのに絡まれたし
精神的に疲れてしまったが、オルレイン導師に会わずに帰るわけにはいかない。
王子様に余計なことを吹き込んだとして、罰せられるのは嫌だ。
「失礼します」
パレットがノックの返事を聞いて研究室に入ると、オルレイン導師は相変わらず薄暗い室内でなにやら作業をしていた。
「お前か、何用だ」
オルレイン導師はパレットをちらりと見て、また手元の作業に集中する。
「あの、出直した方がいいでしょうか?」
忙しい時に来てしまったのだろうかとパレットが不安になると。
「そこで待て、もうじき終わる」
オルレイン導師にそう言われたので、パレットはとりあえずお茶を入れながら待つことにした。
二人分のお茶を容姿している間、何かをすり潰すような音が室内に響く。
魔法の研究というよりも、薬を作っているように思える。
「よし、これでいい」
オルレイン導師の作業が終わったらしいので、パレットはお茶を差し出した。
「それで、なんの話だ」
オルレイン導師がパレットが出したお茶に口をつけながら、話を振ってきた。
「実は、王子殿下の件で……」
パレットはここでも王子様との一件について詳しく語った。
オルレイン導師は相槌を打つでもなく、黙って聞いている。
「それで私は、ひょっとして警護の妨げになるようなことを言ったのでは、と不安になりまして。
もしミィと遊びたいがために、勝手に警護を遠ざけたりしたら本末転倒です」
王子様は可哀そうだが安全には代えられないだろう。
そんなパレットの心配事を、オルレイン導師は笑い飛ばした。
「なに、あの王子殿下は強かだ。
そんな馬鹿をやって己を不利にしたりはしない。
少し様子を見ているがいい」
「そうなの、でしょうか」
パレットの脳裏に浮かぶのは、ミィと遊べないとむくれている王子様の姿だ。
強かという言葉と結びつかない。
むっつりとした顔をするパレットに、オルレイン導師は「ふん」と鼻を鳴らす。
「王子殿下も敏い方だ。
危険を自ら犯すようなことをせずとも、自分の意見を通すくらいはする。
お前が新しい知恵を授けたのだろう?
殿下ならそれでうまくやることだろう」
オルレイン導師にそう言い切られては、パレットにこれ以上言えることはない。
とりあえず現状は伝えたので、パレットが関わるのはこれまでとしよう。
「心配いらないと仰られるのならば、ひとまず安心することにします」
案外早くことが片付いたのでホッとしたパレットは、カップに残ったお茶を飲み干す。
そして退室しようとしたのだが。
「話はそれだけか」
パレットはオルレイン導師に促され、聞いてみたいと思っていたことがあるのを思い出した。
「そういえばもう一つ、気になることがありました」
パレットがここ最近不思議に思っていること。
それはミィとジーンの関係である。
「ミィが何故かジーンの食事を奪おうとするんですよ。
食事の度にいつも。
なにかミィの種族にそういう習性があるんですかね?」
オルレイン導師がパレットの話を聞いて、楽しそうに口元を歪めた。
「ガレースの子供は父親から餌をもらう。
その習性に従っているのではないか?」
「……はい?」
オルレイン導師がなにを言っているのか、パレットは理解できなかった。
驚くパレットに、オルレインが続けて説明する。
「ガレースに限らず、動物は雌が子を守り育て、雄が狩りをする種族が多い。
そう驚くことではないだろう。
だがやはり魔獣の子は月の魔力を感じ取っているのだろうな。
お前の次に月の魔力を浴びたのが、ジーンであるのは間違いない」
「え、え、ちょっと、待ってください」
パレットは混乱して頭を抱える。
オルレイン導師の話を信じるならば、ミィは父親が狩りをして帰ってきたと思って、自分の取り分をもらおうとしていたということか。
――って、え、ジーンが父親!?
なにがどうして、ミィの中でそういうことになっているのだろうか。
呆けた顔をするパレットに、オルレイン導師がくつくつと笑いを漏らす。
「そこまで魔獣に懐かれるとは、二人とも光栄に思うことだ。
あの魔獣の子が大きくなれば、ジーンを助ける強い力となるだろう」
「確かにそうでしょうけど……」
パレットの頭がついて行けない。
今日王子様に会ってしまったことよりも衝撃の事実である。
オルレイン導師に言われた内容は驚くべきことだが、そう言われると納得できることも多々あったりする。
――妙に懐くと思ってたけど、ミィはジーンを親だと思ってたの!?
パレットは、ふらりと立ち上がる。
「……帰ります」
「呆けて迷うなよ」
こうしてパレットは、よろよろとした足取りでオルレイン導師の研究室を後にした。
ここに来るのはパレットが初めて王都に来た時以来だが、やけにここまでの道のりが遠かった気がする。
――妙なのに絡まれたし
精神的に疲れてしまったが、オルレイン導師に会わずに帰るわけにはいかない。
王子様に余計なことを吹き込んだとして、罰せられるのは嫌だ。
「失礼します」
パレットがノックの返事を聞いて研究室に入ると、オルレイン導師は相変わらず薄暗い室内でなにやら作業をしていた。
「お前か、何用だ」
オルレイン導師はパレットをちらりと見て、また手元の作業に集中する。
「あの、出直した方がいいでしょうか?」
忙しい時に来てしまったのだろうかとパレットが不安になると。
「そこで待て、もうじき終わる」
オルレイン導師にそう言われたので、パレットはとりあえずお茶を入れながら待つことにした。
二人分のお茶を容姿している間、何かをすり潰すような音が室内に響く。
魔法の研究というよりも、薬を作っているように思える。
「よし、これでいい」
オルレイン導師の作業が終わったらしいので、パレットはお茶を差し出した。
「それで、なんの話だ」
オルレイン導師がパレットが出したお茶に口をつけながら、話を振ってきた。
「実は、王子殿下の件で……」
パレットはここでも王子様との一件について詳しく語った。
オルレイン導師は相槌を打つでもなく、黙って聞いている。
「それで私は、ひょっとして警護の妨げになるようなことを言ったのでは、と不安になりまして。
もしミィと遊びたいがために、勝手に警護を遠ざけたりしたら本末転倒です」
王子様は可哀そうだが安全には代えられないだろう。
そんなパレットの心配事を、オルレイン導師は笑い飛ばした。
「なに、あの王子殿下は強かだ。
そんな馬鹿をやって己を不利にしたりはしない。
少し様子を見ているがいい」
「そうなの、でしょうか」
パレットの脳裏に浮かぶのは、ミィと遊べないとむくれている王子様の姿だ。
強かという言葉と結びつかない。
むっつりとした顔をするパレットに、オルレイン導師は「ふん」と鼻を鳴らす。
「王子殿下も敏い方だ。
危険を自ら犯すようなことをせずとも、自分の意見を通すくらいはする。
お前が新しい知恵を授けたのだろう?
殿下ならそれでうまくやることだろう」
オルレイン導師にそう言い切られては、パレットにこれ以上言えることはない。
とりあえず現状は伝えたので、パレットが関わるのはこれまでとしよう。
「心配いらないと仰られるのならば、ひとまず安心することにします」
案外早くことが片付いたのでホッとしたパレットは、カップに残ったお茶を飲み干す。
そして退室しようとしたのだが。
「話はそれだけか」
パレットはオルレイン導師に促され、聞いてみたいと思っていたことがあるのを思い出した。
「そういえばもう一つ、気になることがありました」
パレットがここ最近不思議に思っていること。
それはミィとジーンの関係である。
「ミィが何故かジーンの食事を奪おうとするんですよ。
食事の度にいつも。
なにかミィの種族にそういう習性があるんですかね?」
オルレイン導師がパレットの話を聞いて、楽しそうに口元を歪めた。
「ガレースの子供は父親から餌をもらう。
その習性に従っているのではないか?」
「……はい?」
オルレイン導師がなにを言っているのか、パレットは理解できなかった。
驚くパレットに、オルレインが続けて説明する。
「ガレースに限らず、動物は雌が子を守り育て、雄が狩りをする種族が多い。
そう驚くことではないだろう。
だがやはり魔獣の子は月の魔力を感じ取っているのだろうな。
お前の次に月の魔力を浴びたのが、ジーンであるのは間違いない」
「え、え、ちょっと、待ってください」
パレットは混乱して頭を抱える。
オルレイン導師の話を信じるならば、ミィは父親が狩りをして帰ってきたと思って、自分の取り分をもらおうとしていたということか。
――って、え、ジーンが父親!?
なにがどうして、ミィの中でそういうことになっているのだろうか。
呆けた顔をするパレットに、オルレイン導師がくつくつと笑いを漏らす。
「そこまで魔獣に懐かれるとは、二人とも光栄に思うことだ。
あの魔獣の子が大きくなれば、ジーンを助ける強い力となるだろう」
「確かにそうでしょうけど……」
パレットの頭がついて行けない。
今日王子様に会ってしまったことよりも衝撃の事実である。
オルレイン導師に言われた内容は驚くべきことだが、そう言われると納得できることも多々あったりする。
――妙に懐くと思ってたけど、ミィはジーンを親だと思ってたの!?
パレットは、ふらりと立ち上がる。
「……帰ります」
「呆けて迷うなよ」
こうしてパレットは、よろよろとした足取りでオルレイン導師の研究室を後にした。
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