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四章 王城の女性文官
32話 奇妙な出会い
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パレットはその日は管理室での仕事を少し早く終えさせてもらい、オルレイン導師に会いに行くことになった。
――こういうことって、後回しにすると面倒になったりするのよね
ややこしいことは早く終わらせるに限る。
パレットがオルレイン導師の研究室へと歩いて向かっていると、すれ違う者たちからひそひそと噂をされているのがわかる。
――女の文官は私だけだし、目立つのは仕方ないけどね
だが室長が言っていたような危険な目に会うのだけは避けねばならない。
パレットができる限りの速足で廊下を歩いていると。
「……どこに行かれたのだ、まったく」
「我々の苦労も考えていただきたい」
パレットの前方から、そのように大声で話しながら歩いてくる男性の集団があった。
彼らはみんなきらびやかな服を身に着け、廊下を塞ぐように横並びに歩いていた。
パレットは邪魔だなと思ったが、妙な因縁をつけられてはたまらない。
慌てて廊下を横道に逸れて、その集団が通り過ぎるのを待った。
――早く行ってよね
内心で愚痴りつつもパレットがじっと待っていると。
集団がパレットとすれ違う瞬間、一人が立ち止まった。
「おい女!」
彼はそう言ってパレットを見ると、眉をひそめた。
「女のくせに文官ぶっているとは、身の程知らずな」
彼の見下げるような言い方にムッとしたが、パレットは苛立ちを飲み込むように頭を下げた。
王城で出会う相手は十中八九貴族だ。
下手に出なければなにを言われるかわからない。
それにしても、パレットが王城で働きだしてもう一カ月が経過しており、それなりに王城で働く者の中では女性文官のことは、良くも悪くも浸透している。
それなのにパレットのことを知らないとは。
――普段あまり王城に出入りしない人なのかしら
パレットが疑問に思っている間に、彼は気を取り直したようで、再び話しかけてくる。
「まあいい。
女、このあたりで……、若い男性を見かけなかったか」
彼は途中言葉を濁しつつも、そう尋ねてくる。
しかしパレットはこの質問に困惑するしかない。
「若い男性ならば、大勢いますが」
今もパレットたちをちらちら見ながら、文官らしい男性が通り過ぎて行くところだ。
だがこの答えでは、彼は不満だったようである。
「そうではない! まったく使えぬ奴め、もうよい!」
彼はそう怒鳴り散らすと、速足で通り過ぎた集団を追いかけていった。
その集団が見えなくなって、パレットはようやく横道から出てきた。
「なんなのかしら」
パレットにはなんの落ち度もないことで、八つ当たりを受けたようだ。
第一今の彼の説明で、的確なことが言える人の方が珍しいに違いない。
パレットが軽くため息をついていると。
「迷惑な連中だな、本当に」
「ひっ!」
背後から声がして、パレットは飛び上がらんばかりに驚いた。
慌てて数歩距離をとり、背後を注視する。
するといつの間にかパレットの後ろに、男性が立っていた。
「ああすまん、驚かせたか」
そう言って笑っているのは、年の頃はジーンと同じくらいか、背の高い赤毛の男性だった。
こちらもまたきらびやかな服を着ており、貴族であることをうかがわせる。
一方の赤毛の男も、パレットをまじまじと観察している。
「おぬし、文官か。
女性とは珍しい」
赤毛の男は嫌味ではなく、興味半分の様子でそう言ってくる。
「一月ほど前から、王城で働いております」
パレットが貴族相手に失礼にならないように頭を下げると、赤毛の男が感心した様子で覗き込んでくる。
「ほう、貴族にもそのような気概のある女がいたのだな」
――いや、庶民なんだけど
先ほどの集団といい、本当にパレットのことを知らないようだ。
貴族と言っても王城の役職持ちの家ではなく、王城にあまりいないのかもしれない。
だがここで、正直に己の身の上を語ってやる義理はない。
「あの、もう行ってよろしいですか?
私はオルレイン導師に呼ばれているのです」
オルレイン導師に呼ばれているわけではないのだが、パレットはとっさにそう嘘をついた。
オルレイン導師はどうやらとても偉い人のようなので、その人の言いつけに横やりを入れる人は滅多にいないだろうと思ってのことだ。
パレットの言い分に、赤毛の男はあっさりと頷いた。
「オルレイン導師に、そうか。
そなたに少々興味があったのだが、仕事中ならば仕方がないな」
赤毛の男は食い下がらずにそこで話を切り上げて、横道の奥へと消えていった。
「……なんだったのかしら」
突発的災難に会ったような気分だ。
そして立ち去られた後で気づいたのだが、先ほどの集団が探していたのは、ひょっとしてあの赤毛の男だろうか。
そう考えはしたものの、パレットにとってはどうでもいいことだった。
「無駄に時間をとられたわ」
のんびりしていると遅くなる。
パレットは慌ててオルレイン導師の研究室へと向かうのだった。
――こういうことって、後回しにすると面倒になったりするのよね
ややこしいことは早く終わらせるに限る。
パレットがオルレイン導師の研究室へと歩いて向かっていると、すれ違う者たちからひそひそと噂をされているのがわかる。
――女の文官は私だけだし、目立つのは仕方ないけどね
だが室長が言っていたような危険な目に会うのだけは避けねばならない。
パレットができる限りの速足で廊下を歩いていると。
「……どこに行かれたのだ、まったく」
「我々の苦労も考えていただきたい」
パレットの前方から、そのように大声で話しながら歩いてくる男性の集団があった。
彼らはみんなきらびやかな服を身に着け、廊下を塞ぐように横並びに歩いていた。
パレットは邪魔だなと思ったが、妙な因縁をつけられてはたまらない。
慌てて廊下を横道に逸れて、その集団が通り過ぎるのを待った。
――早く行ってよね
内心で愚痴りつつもパレットがじっと待っていると。
集団がパレットとすれ違う瞬間、一人が立ち止まった。
「おい女!」
彼はそう言ってパレットを見ると、眉をひそめた。
「女のくせに文官ぶっているとは、身の程知らずな」
彼の見下げるような言い方にムッとしたが、パレットは苛立ちを飲み込むように頭を下げた。
王城で出会う相手は十中八九貴族だ。
下手に出なければなにを言われるかわからない。
それにしても、パレットが王城で働きだしてもう一カ月が経過しており、それなりに王城で働く者の中では女性文官のことは、良くも悪くも浸透している。
それなのにパレットのことを知らないとは。
――普段あまり王城に出入りしない人なのかしら
パレットが疑問に思っている間に、彼は気を取り直したようで、再び話しかけてくる。
「まあいい。
女、このあたりで……、若い男性を見かけなかったか」
彼は途中言葉を濁しつつも、そう尋ねてくる。
しかしパレットはこの質問に困惑するしかない。
「若い男性ならば、大勢いますが」
今もパレットたちをちらちら見ながら、文官らしい男性が通り過ぎて行くところだ。
だがこの答えでは、彼は不満だったようである。
「そうではない! まったく使えぬ奴め、もうよい!」
彼はそう怒鳴り散らすと、速足で通り過ぎた集団を追いかけていった。
その集団が見えなくなって、パレットはようやく横道から出てきた。
「なんなのかしら」
パレットにはなんの落ち度もないことで、八つ当たりを受けたようだ。
第一今の彼の説明で、的確なことが言える人の方が珍しいに違いない。
パレットが軽くため息をついていると。
「迷惑な連中だな、本当に」
「ひっ!」
背後から声がして、パレットは飛び上がらんばかりに驚いた。
慌てて数歩距離をとり、背後を注視する。
するといつの間にかパレットの後ろに、男性が立っていた。
「ああすまん、驚かせたか」
そう言って笑っているのは、年の頃はジーンと同じくらいか、背の高い赤毛の男性だった。
こちらもまたきらびやかな服を着ており、貴族であることをうかがわせる。
一方の赤毛の男も、パレットをまじまじと観察している。
「おぬし、文官か。
女性とは珍しい」
赤毛の男は嫌味ではなく、興味半分の様子でそう言ってくる。
「一月ほど前から、王城で働いております」
パレットが貴族相手に失礼にならないように頭を下げると、赤毛の男が感心した様子で覗き込んでくる。
「ほう、貴族にもそのような気概のある女がいたのだな」
――いや、庶民なんだけど
先ほどの集団といい、本当にパレットのことを知らないようだ。
貴族と言っても王城の役職持ちの家ではなく、王城にあまりいないのかもしれない。
だがここで、正直に己の身の上を語ってやる義理はない。
「あの、もう行ってよろしいですか?
私はオルレイン導師に呼ばれているのです」
オルレイン導師に呼ばれているわけではないのだが、パレットはとっさにそう嘘をついた。
オルレイン導師はどうやらとても偉い人のようなので、その人の言いつけに横やりを入れる人は滅多にいないだろうと思ってのことだ。
パレットの言い分に、赤毛の男はあっさりと頷いた。
「オルレイン導師に、そうか。
そなたに少々興味があったのだが、仕事中ならば仕方がないな」
赤毛の男は食い下がらずにそこで話を切り上げて、横道の奥へと消えていった。
「……なんだったのかしら」
突発的災難に会ったような気分だ。
そして立ち去られた後で気づいたのだが、先ほどの集団が探していたのは、ひょっとしてあの赤毛の男だろうか。
そう考えはしたものの、パレットにとってはどうでもいいことだった。
「無駄に時間をとられたわ」
のんびりしていると遅くなる。
パレットは慌ててオルレイン導師の研究室へと向かうのだった。
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