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六章 王子様の誕生パーティー
77話 陰謀の結末
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今日は、新たな歴史の幕開けの日となるはずだった。
さんざん邪魔ばかりされた、庶民出の二人を遠くへ追いやった。
上手い具合にガーランドも付いて行ったので、例の男に命じている通り、まとめて始末しているはず。
残って王族を守るのはアレイヤードとラリーボルトだけ。
他に王城に残る戦力と言えるのは、飾り立てることばかりに意識がいく、無力な騎士しかない。
この日のために整えた戦力で会場を包囲し、今こそ脆弱な王から王位を奪い取る。
そのために、民意も味方につけてきた。
であるのに、現在のキリング公爵は、非常に機嫌が悪かった。
――何故我が騎士は現れない?
王城の守りを壊すに十分な魔法具を与えたはずだ。
そのはずであるのに、何故会場に現れないのだろう。
次第に焦りを見せ始めたキリング公爵の目に、ジーンの姿が映った。
――何故、あいつがここにいる!?
例の男の手で始末されたはずのジーンが、何食わぬ顔で王族の側に侍っている。
それに加えて、いつまでたっても王子が倒れる気配がない。
上手く配下の者を厨房に紛れさせた。
王妃を陥れた毒で、今度こそ王子を仕留めてやろうというのに。
――どいつもこいつも、なにをしているのだ!
じりじりとした思いで時を待つキリング公爵に、そっと近づいた者がいた。
「……旦那様、失敗でございます」
その者は、キリング公爵の耳元に囁いた。
「我が領の騎士たちは、兵士によって捕らえられました」
――兵士だと!?
王城の騎士などとは比べ物にならない、国内でも生え抜きの騎士たちが、所詮烏合の衆である兵士に負けたというのか。
あの兵士上がりの騎士の仲間などに。
――なんと憎らしい!
キリング公爵は王族がいる場所を見た。
笑顔で客との会話を楽しむ国王の姿がある。
――あの場所に、もう少しで手が届いたというのに!
こうなっては、もはやキリング公爵がこの場にいる意味はない。
「帰る」
キリング公爵は小さく言うと、足早に会場から出た。
――憎い、憎い、憎い!
キリング公爵は怒りを足音に込めるように、床を蹴りながら歩いて行く。
だが、まだこれで終わりではない。
――この会場に潜ませた魔法具で、会場もろとも木っ端微塵にしてやる!
いっそ城ごと吹き飛ばし、自分に相応しい城を建て直すもよいかもしれない。
城に残っている貴族は、いなくなってもどうということはない連中だ。
キリング公爵は最後の手段をとるべく、予め仕掛けさせておいた攻撃用魔法具を起動させる魔法具を、懐から取り出した。
――私を受け入れぬ王城など、破壊してしまえ!
キリング公爵が暗い笑みを浮かべて、攻撃用魔法具を全て起動させた。
夜闇の中パーティー会場を取り囲むように、無数の巨大な光る文様が輝く。
そして、次の瞬間。
ドォーン……!
天に向かっていくつもの大きな花火が打ち上げられた。
「なにっ!」
あの光る文様からは、周囲に甚大な被害をもたらす破壊の魔法が放たれるはず。
――どういうことだ、何故花火などが出る!?
あっけにとられたキリング公爵に、近づく影があった。
「全く、無駄に多くの魔法具を仕掛けおって。
これをアリサと共に書き換えるには骨が折れた」
そう告げて姿を現したのは、青の衣を着た長い黒髪に細い銀縁眼鏡をかけている、筆頭宮廷魔導士の男だった。
「きさま、オルレイン! 魔法具をどうした!?」
――あれには財産の大半をつぎ込んだのだぞ!
魔法具が王族に奪われてしまったのかと、歯ぎしりをして悔しがるキリング公爵に、オルレインは答える。
「言ったろう、書き換えるのに骨が折れたと。
ご自慢の魔法具は、全て花火に変えさせてもらった。
おかげで派手な演出となっただろう?」
このオルレインの仕業により、魔法具は全て演出の花火に変わったというのだ。
「魔法具の、書き換えだと?」
初めて聞く言葉に、キリング公爵は驚愕する。
「おや、知らなかったか?
子飼いの部下はアリサが開発したこの魔法を、ソルディアの街で見て知っていたはずだと聞いているが」
庶民二人の始末を頼んだはずの男の姿が、キリング公爵の脳裏に浮かんだ。
――あやつめ、裏切ったな!
恐らくキリング公爵の旗色が悪いと知って、すぐに逃げに転じたのだろう。
使える男と思って雇ったが、所詮隣国から逃げて来た負け犬だったというわけだ。
「キリング公爵は長い時をかけて王位簒奪を仕掛けたのだろう。
しかし、陛下とて同じくらい、長い時をかけて対策をたてた」
「くそぅ、くそぅ、くそおおぅ!!」
こうしてキリング公爵は、王城に攻撃用魔法具を持ち込み、大量虐殺を目論んだ罪で拘束された。
夜の喧騒に包まれた王都の片隅に、ジーンから逃れた男がいる。
「上手くいかないもんだな」
王城の給仕の恰好から庶民の恰好に着替えた彼は、そう呟くと一人でフラフラと街中を歩いていた。
――キリング公爵も、もう駄目だな。
面白そうだから公爵に手を貸してやったが、最初は小さな計画のずれが、どんどん大きな歪みとなった。
これは、彼の前の主の時と同じ流れだ。
キリング公爵はあの庶民出の騎士と文官の処分に躍起になっていたようだが、それが間違いの元であるように彼には思えた。
――どいつもこいつも、庶民に振り回されてまぁ。
最終的に彼はキリング公爵から、あの二人の処分を任された。
しかし彼は自分の手は汚さない主義だ。
あくまで他人を甘い言葉で動かして繰り広げられる、狂乱の踊りを楽しむのが好きなのだ。
「公爵は金払いが良かったが、そろそろ潮時か」
彼がそうぼやくと。
「そうか、ならば一緒に来てもらって問題ないな」
どこからか応じた声がした。
「誰だ!?」
驚いて足を止めた彼に、声の主が正面からゆっくりと歩いてきた。
「アンタは……」
彼の前に立ったのは、夜闇に溶け込む黒髪に秀麗な面持ちの男だった。
パレットがこの場にいれば、国境で顔を合わせた騎士だと気付いただろう。
そして彼も、男が誰なのか知っていた。
「シルヴィオ、この国にいたのか!?」
彼が驚愕を露わにすると、シルヴィオは涼し気な顔で言った。
「気取られぬよう、メルティスとは別行動で来たからな」
シルヴィオは剣をすらりと抜き、彼に突きつける。
「主人だった女は罪に服したというのに、お前はこのような場所で陰謀ごっこか」
シルヴィオの言葉に彼は表情を歪めたが、すぐに態度を取り繕った。
「我が主人だったかのお方は、あなた様の姉上様ではございませんか!」
慇懃な言葉使いで挑発する彼の態度に、しかしシルヴィオは揺らがない。
「こざかしいことを言ってくれる。
その主人を真っ先に裏切り、さっさと逃げた奴が」
彼はルドルファン王国で起こった謀反の首謀者の、側近だった。
首謀者に加担し、事を大きくしたのが彼だ。
それが首謀者が捕まる頃にはすでに、ルドルファン王国内から姿を消していた。
そしてその首謀者とは、他でもないシルヴィオの姉だ。
「あの己の妄想に耽っているのが幸せな女が、攻撃用魔法具を手に入れるなど、大それたことをする才覚があるはずがない。
大方あの女の名前でお前が武器や魔法具を仕入れ、それを近隣の国に売り捌いて私腹を肥やしていたのだろう」
シルヴィオが冷ややかに男を睨む。
「先日国境で会ったこの国の騎士から、現場で取り逃がした人物の話を聞いてすぐにピンと来た。
この国でも同じことをするとは、お前も芸のない男だ」
シルヴィオ一人ならばどうとでもなると思い、彼は己の優位を誇示しようと笑みを浮かべる。
「さて、果たして捕まえられるかな?」
「お前を捕まえるのは、私ではない」
そう告げてシルヴィオが手を上げると、現れたガーランドが率いる兵士たちが男を取り囲んだ。
「なに!?」
いつの間にか囲まれていたことに、彼は動揺する。
「愚かな、きさまは王城からずっと、兵士に包囲されていた」
驚く男にガーランドが告げた。
「何故兵士がいる?
公爵が連れて来た騎士はどうした!?」
これほどに戦力が残っていたことに驚く彼に、ガーランドがにやりと笑う。
「キリング公爵の騎士らは、全て王都に入る前に捕らえさせてもらった。
いくら王城の騎士より強くとも、しょせんあれらも貴族。
日々実践で鍛えられている兵士に敵うべくもない。
王城の守りも兵士に任せてあるので、万が一逃れた騎士がいてもなにもできまい」
「……あの公爵め、なにが我が最強の騎士団だ!」
彼は当てにしていた戦力の末路を聞いて、雇い主に毒づく。
「きさまらはずいぶんとジーンを警戒していたようだが、それを逆に利用させてもらった。
つまり扇動に引っかかったのはきさまらの方だというわけだ」
アレイヤードは敵の注意をジーン一人に引き付けることで、王城に潜ませていた兵士の存在を隠していたのだ。
用意周到さは、キリング公爵よりもアレイヤードの方が上だったわけだ。
「キリング公爵が拘束されれば、きさまの存在も明るみに出る。
もう口先だけで逃げられない」
シルヴィオが淡々と告げた。
「くそぅ!」
進退窮まった彼は、黒い筒を取り出す。
ジーンに使って見せた魔法具である。
しかし、彼の行動は相手にも予測済みだった。
「魔法具を使って逃げようとしても無駄だ、アリサ!」
「はぁい、全く最近忙しいったらないよね!」
シルヴィオの合図で兵士の後ろから飛び出した小柄な影が、片手を振り上げた。
『炎よ従え』
そうアリサが唱えると、夜空に大きな光る文様が描かれる。
それは彼の持っている魔法具から出現した小さな光る文様と重なり、一際輝いた後消えた。
「なんだ!?」
彼が魔法具を振ると、猫のような形の炎が出ただけだった。
「うん、無害で可愛い!」
魔法の出来栄えに、アリサが満足そうに頷いた。
「捕らえよ!」
ガーランドが兵士に命じる。
こうして国内外を騒がせた彼は、シルヴィオらに捕まった。
王都の住人は、そんな捕物が起こっていることなど気付きもせずに、王城から上がる花火を見上げて歓声を上げていた。
さんざん邪魔ばかりされた、庶民出の二人を遠くへ追いやった。
上手い具合にガーランドも付いて行ったので、例の男に命じている通り、まとめて始末しているはず。
残って王族を守るのはアレイヤードとラリーボルトだけ。
他に王城に残る戦力と言えるのは、飾り立てることばかりに意識がいく、無力な騎士しかない。
この日のために整えた戦力で会場を包囲し、今こそ脆弱な王から王位を奪い取る。
そのために、民意も味方につけてきた。
であるのに、現在のキリング公爵は、非常に機嫌が悪かった。
――何故我が騎士は現れない?
王城の守りを壊すに十分な魔法具を与えたはずだ。
そのはずであるのに、何故会場に現れないのだろう。
次第に焦りを見せ始めたキリング公爵の目に、ジーンの姿が映った。
――何故、あいつがここにいる!?
例の男の手で始末されたはずのジーンが、何食わぬ顔で王族の側に侍っている。
それに加えて、いつまでたっても王子が倒れる気配がない。
上手く配下の者を厨房に紛れさせた。
王妃を陥れた毒で、今度こそ王子を仕留めてやろうというのに。
――どいつもこいつも、なにをしているのだ!
じりじりとした思いで時を待つキリング公爵に、そっと近づいた者がいた。
「……旦那様、失敗でございます」
その者は、キリング公爵の耳元に囁いた。
「我が領の騎士たちは、兵士によって捕らえられました」
――兵士だと!?
王城の騎士などとは比べ物にならない、国内でも生え抜きの騎士たちが、所詮烏合の衆である兵士に負けたというのか。
あの兵士上がりの騎士の仲間などに。
――なんと憎らしい!
キリング公爵は王族がいる場所を見た。
笑顔で客との会話を楽しむ国王の姿がある。
――あの場所に、もう少しで手が届いたというのに!
こうなっては、もはやキリング公爵がこの場にいる意味はない。
「帰る」
キリング公爵は小さく言うと、足早に会場から出た。
――憎い、憎い、憎い!
キリング公爵は怒りを足音に込めるように、床を蹴りながら歩いて行く。
だが、まだこれで終わりではない。
――この会場に潜ませた魔法具で、会場もろとも木っ端微塵にしてやる!
いっそ城ごと吹き飛ばし、自分に相応しい城を建て直すもよいかもしれない。
城に残っている貴族は、いなくなってもどうということはない連中だ。
キリング公爵は最後の手段をとるべく、予め仕掛けさせておいた攻撃用魔法具を起動させる魔法具を、懐から取り出した。
――私を受け入れぬ王城など、破壊してしまえ!
キリング公爵が暗い笑みを浮かべて、攻撃用魔法具を全て起動させた。
夜闇の中パーティー会場を取り囲むように、無数の巨大な光る文様が輝く。
そして、次の瞬間。
ドォーン……!
天に向かっていくつもの大きな花火が打ち上げられた。
「なにっ!」
あの光る文様からは、周囲に甚大な被害をもたらす破壊の魔法が放たれるはず。
――どういうことだ、何故花火などが出る!?
あっけにとられたキリング公爵に、近づく影があった。
「全く、無駄に多くの魔法具を仕掛けおって。
これをアリサと共に書き換えるには骨が折れた」
そう告げて姿を現したのは、青の衣を着た長い黒髪に細い銀縁眼鏡をかけている、筆頭宮廷魔導士の男だった。
「きさま、オルレイン! 魔法具をどうした!?」
――あれには財産の大半をつぎ込んだのだぞ!
魔法具が王族に奪われてしまったのかと、歯ぎしりをして悔しがるキリング公爵に、オルレインは答える。
「言ったろう、書き換えるのに骨が折れたと。
ご自慢の魔法具は、全て花火に変えさせてもらった。
おかげで派手な演出となっただろう?」
このオルレインの仕業により、魔法具は全て演出の花火に変わったというのだ。
「魔法具の、書き換えだと?」
初めて聞く言葉に、キリング公爵は驚愕する。
「おや、知らなかったか?
子飼いの部下はアリサが開発したこの魔法を、ソルディアの街で見て知っていたはずだと聞いているが」
庶民二人の始末を頼んだはずの男の姿が、キリング公爵の脳裏に浮かんだ。
――あやつめ、裏切ったな!
恐らくキリング公爵の旗色が悪いと知って、すぐに逃げに転じたのだろう。
使える男と思って雇ったが、所詮隣国から逃げて来た負け犬だったというわけだ。
「キリング公爵は長い時をかけて王位簒奪を仕掛けたのだろう。
しかし、陛下とて同じくらい、長い時をかけて対策をたてた」
「くそぅ、くそぅ、くそおおぅ!!」
こうしてキリング公爵は、王城に攻撃用魔法具を持ち込み、大量虐殺を目論んだ罪で拘束された。
夜の喧騒に包まれた王都の片隅に、ジーンから逃れた男がいる。
「上手くいかないもんだな」
王城の給仕の恰好から庶民の恰好に着替えた彼は、そう呟くと一人でフラフラと街中を歩いていた。
――キリング公爵も、もう駄目だな。
面白そうだから公爵に手を貸してやったが、最初は小さな計画のずれが、どんどん大きな歪みとなった。
これは、彼の前の主の時と同じ流れだ。
キリング公爵はあの庶民出の騎士と文官の処分に躍起になっていたようだが、それが間違いの元であるように彼には思えた。
――どいつもこいつも、庶民に振り回されてまぁ。
最終的に彼はキリング公爵から、あの二人の処分を任された。
しかし彼は自分の手は汚さない主義だ。
あくまで他人を甘い言葉で動かして繰り広げられる、狂乱の踊りを楽しむのが好きなのだ。
「公爵は金払いが良かったが、そろそろ潮時か」
彼がそうぼやくと。
「そうか、ならば一緒に来てもらって問題ないな」
どこからか応じた声がした。
「誰だ!?」
驚いて足を止めた彼に、声の主が正面からゆっくりと歩いてきた。
「アンタは……」
彼の前に立ったのは、夜闇に溶け込む黒髪に秀麗な面持ちの男だった。
パレットがこの場にいれば、国境で顔を合わせた騎士だと気付いただろう。
そして彼も、男が誰なのか知っていた。
「シルヴィオ、この国にいたのか!?」
彼が驚愕を露わにすると、シルヴィオは涼し気な顔で言った。
「気取られぬよう、メルティスとは別行動で来たからな」
シルヴィオは剣をすらりと抜き、彼に突きつける。
「主人だった女は罪に服したというのに、お前はこのような場所で陰謀ごっこか」
シルヴィオの言葉に彼は表情を歪めたが、すぐに態度を取り繕った。
「我が主人だったかのお方は、あなた様の姉上様ではございませんか!」
慇懃な言葉使いで挑発する彼の態度に、しかしシルヴィオは揺らがない。
「こざかしいことを言ってくれる。
その主人を真っ先に裏切り、さっさと逃げた奴が」
彼はルドルファン王国で起こった謀反の首謀者の、側近だった。
首謀者に加担し、事を大きくしたのが彼だ。
それが首謀者が捕まる頃にはすでに、ルドルファン王国内から姿を消していた。
そしてその首謀者とは、他でもないシルヴィオの姉だ。
「あの己の妄想に耽っているのが幸せな女が、攻撃用魔法具を手に入れるなど、大それたことをする才覚があるはずがない。
大方あの女の名前でお前が武器や魔法具を仕入れ、それを近隣の国に売り捌いて私腹を肥やしていたのだろう」
シルヴィオが冷ややかに男を睨む。
「先日国境で会ったこの国の騎士から、現場で取り逃がした人物の話を聞いてすぐにピンと来た。
この国でも同じことをするとは、お前も芸のない男だ」
シルヴィオ一人ならばどうとでもなると思い、彼は己の優位を誇示しようと笑みを浮かべる。
「さて、果たして捕まえられるかな?」
「お前を捕まえるのは、私ではない」
そう告げてシルヴィオが手を上げると、現れたガーランドが率いる兵士たちが男を取り囲んだ。
「なに!?」
いつの間にか囲まれていたことに、彼は動揺する。
「愚かな、きさまは王城からずっと、兵士に包囲されていた」
驚く男にガーランドが告げた。
「何故兵士がいる?
公爵が連れて来た騎士はどうした!?」
これほどに戦力が残っていたことに驚く彼に、ガーランドがにやりと笑う。
「キリング公爵の騎士らは、全て王都に入る前に捕らえさせてもらった。
いくら王城の騎士より強くとも、しょせんあれらも貴族。
日々実践で鍛えられている兵士に敵うべくもない。
王城の守りも兵士に任せてあるので、万が一逃れた騎士がいてもなにもできまい」
「……あの公爵め、なにが我が最強の騎士団だ!」
彼は当てにしていた戦力の末路を聞いて、雇い主に毒づく。
「きさまらはずいぶんとジーンを警戒していたようだが、それを逆に利用させてもらった。
つまり扇動に引っかかったのはきさまらの方だというわけだ」
アレイヤードは敵の注意をジーン一人に引き付けることで、王城に潜ませていた兵士の存在を隠していたのだ。
用意周到さは、キリング公爵よりもアレイヤードの方が上だったわけだ。
「キリング公爵が拘束されれば、きさまの存在も明るみに出る。
もう口先だけで逃げられない」
シルヴィオが淡々と告げた。
「くそぅ!」
進退窮まった彼は、黒い筒を取り出す。
ジーンに使って見せた魔法具である。
しかし、彼の行動は相手にも予測済みだった。
「魔法具を使って逃げようとしても無駄だ、アリサ!」
「はぁい、全く最近忙しいったらないよね!」
シルヴィオの合図で兵士の後ろから飛び出した小柄な影が、片手を振り上げた。
『炎よ従え』
そうアリサが唱えると、夜空に大きな光る文様が描かれる。
それは彼の持っている魔法具から出現した小さな光る文様と重なり、一際輝いた後消えた。
「なんだ!?」
彼が魔法具を振ると、猫のような形の炎が出ただけだった。
「うん、無害で可愛い!」
魔法の出来栄えに、アリサが満足そうに頷いた。
「捕らえよ!」
ガーランドが兵士に命じる。
こうして国内外を騒がせた彼は、シルヴィオらに捕まった。
王都の住人は、そんな捕物が起こっていることなど気付きもせずに、王城から上がる花火を見上げて歓声を上げていた。
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