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番外編 ルドルファン王国訪問記
その1
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王城を騒がせたキリング公爵の反乱から月日が経ち、いまだ忙しい日々には変わりないものの、パレットたちの周囲はすっかり平穏を取り戻していた。
ジーンの屋敷にも、新たな住人が増えた。
貧民街から取り立てられた文官の成人したての若者がいて、彼の家族ごと屋敷の維持の人員として雇うことになったのだ。
彼は小遣い稼ぎに近隣の村へ荷運びをしながら、そこで行われる教会学校に月に一度程度通って勉強していたそうだ。
それが王城の改革と共に王都でも教会学校が開かれることとなり、喜んだ彼は毎週通い詰めたらしい。
その勉強熱心さが目に留まり、今回の起用となった。
今まで王城では、家である程度の手ほどきを受けた子息を雇う形であったが、それが原因で汚職にまみれたわけなので、その体制を見直すこととなる。
その一環で、新人を一から育てることを試す目論見であった。
彼以外にも商人の子などが数人採用されたが、その誰もが成人まもない若者だ。
商人の子はともかく貧民街出身で問題になるのは、ジーンも直面した住まいの点だ。
庶民出の騎士であれば宿舎が用意されるので問題ないが、文官はいまだ数が少ないのでそうはいかない。
そして突然の出世はやっかみを受けやすいのである。
だが今の貴族街にはジーンの屋敷がある。
彼を雇う部署から「彼を住まわせることはできないか」との打診を受けて、本人と家族を面接したのだ。
結果一家そろっての引っ越しとあいなったわけである。
こうして屋敷の人手不足問題も一応の解決を迎え、屋敷の女主としての立場にもそろそろ慣れてきた気がするパレットに、その話をもたらしたのは室長だった。
「ルドルファン王国へ、ですか?」
「そう、今度使節団をおくることになったから、君ら夫婦もその人員に含まれているよ」
秋の大祭が終わってしばらくした頃に、ルドルファン王国へ使者を送るらしい。
その使者にパレットとジーンが入っているというのだ。
「うちの国で、ちょっとごたごたしただろう?
それで周辺国からの目が集まっていてね。
それで外に向けて問題ないことを強く訴えるのが目的だよ」
国の方針を聞かされても、まだパレットにはピンと来ない。
「どうして私たちが?」
そういうのは、身分の高い方々の役割ではないだろうか。
パレットとジーンは王城で働いていても庶民でしかない。
首を傾げるパレットに、室長が苦笑する。
「君らというより、ジーンがいるのさ。
丁度あの国で催される行事にジーンを参加させて、軍事に問題ないことを見せつけたいんだよ」
「……なるほど」
この国の王城の騎士の駄目さ加減は他国でも有名らしく、以前ルドルファン王国の騎士からも噂を聞かされた。
隣国のルドルファン王国が戦争をする気がないからいいようなものの、ちょっとその気になったら王都は簡単に落ちる。
この現状をなんとかするために、まずは軍事に弱いという噂を払拭したいのだろう。
騎士からは、ジーンの他ガーランドが同行するという。
まだ兵士から騎士になりたての者たちは剣の腕は確かだとしても、教育が追い付いていないはず。
他国で王族に会うことになるため、人員を厳選したと見える。
「使節団の代表はオルレイン導師だよ。
彼はかの国の宰相殿と交流があってね、国の代表としての身分もある」
見知った相手が代表と聞いて、パレットはちょっと気持ちが楽になった。
「ミィも一緒で構いませんか?」
パレットとジーンが出かけて、独りぼっちで留守番というのもかわいそうだ。
それになんだかんだで、ミィと長期間離れたことがない。
「むしろ、魔獣ガレースを是非連れてきて欲しいと先方に言われている。
なんでも聖女様が興味津々なのだそうだ」
室長の言葉に、パレットは目を丸くする。
「聖女様が、ですか」
以前から噂だけは聞こえてくる聖女様の名前に、パレットはどんな人物だろうかと想像する。
今回会う機会があるかもしれないので、楽しみにしておこう。
それにしても、パレットの老後の夢だったルドルファン王国行きが、こんなに早く実現しようとしている。
かの国の王城で、噂の聖獣様の姿を見ることができるだろうかと、パレットは期待に胸を膨らませるのだった。
その日屋敷に帰ると、ジーンも同じ話を持ち帰っていた。
夜寝る前に、リビングで酒を交わしながら話をする。
「なんでもルドルファン王国ではこの時期、騎士の日頃の訓練の成果を競わせる行事があるらしい。
それに出るつもりで訓練しろと、今日団長に言われた」
ジーンの言う団長とは、前副団長のアレイヤードのことだ。
前団長が懲戒免職となったので、アレイヤードが持ち上がりで団長職へと就任した。
「その行事、聖女様の発案で始まったそうだぜ」
「聖女様って……」
またもや出てきた聖女様の人物像が、だんだんと謎になってきた。
――ルドルファン王国の話って、だいたい聖女様絡みなのよね。
パレットの好奇心は膨らむ一方だ。
「アンタ、なんか楽しそうだな」
使者という重い仕事の話であるのに、いつになくウキウキしているパレットを、ジーンが訝しむ。
他人から見てもそうなのか、とパレットは自分のことに苦笑する。
「私昔から、お金を貯めたらルドルファン王国まで聖獣様を見に行ってみたいと思っていたの」
パレットの告白に、ジーンは眉を上げる。
「……アンタにも、そんな可愛らしい夢があったんだな」
ジーンの驚きももっともで、パレットも自分が現実思考で頭の堅い人間であることは自覚している。
似合わない夢だと笑われると思ったから、今まで誰にも言わずにいたのだ。
「……変かしら?」
ちょっと顔を伏せてそう言ったパレットに、ジーンは小さく笑った。
「いや、いいんじゃないか?
一日くらい観光する時間があるさ」
ジーンの返事にホッとしたパレットは、この話に関してもう一つ言われたことを思い出した。
「ミィも一緒にってあちらに言われているそうなの。
魔獣のミィと聖獣様って、喧嘩にならないかしら?」
床にゴロゴロと寝転んでいるミィを見て、パレットは気がかりなことを告げる。
「あっちが呼んでいるんだから、大丈夫なんじゃないか?」
同じくミィを見つめるジーンも、疑問形でしか答えられない。
なにせ聖獣という生き物を見たことないからだ。
「みゃ?」
二人の視線を集め、ミィは呑気に尻尾を揺らした。
ジーンの屋敷にも、新たな住人が増えた。
貧民街から取り立てられた文官の成人したての若者がいて、彼の家族ごと屋敷の維持の人員として雇うことになったのだ。
彼は小遣い稼ぎに近隣の村へ荷運びをしながら、そこで行われる教会学校に月に一度程度通って勉強していたそうだ。
それが王城の改革と共に王都でも教会学校が開かれることとなり、喜んだ彼は毎週通い詰めたらしい。
その勉強熱心さが目に留まり、今回の起用となった。
今まで王城では、家である程度の手ほどきを受けた子息を雇う形であったが、それが原因で汚職にまみれたわけなので、その体制を見直すこととなる。
その一環で、新人を一から育てることを試す目論見であった。
彼以外にも商人の子などが数人採用されたが、その誰もが成人まもない若者だ。
商人の子はともかく貧民街出身で問題になるのは、ジーンも直面した住まいの点だ。
庶民出の騎士であれば宿舎が用意されるので問題ないが、文官はいまだ数が少ないのでそうはいかない。
そして突然の出世はやっかみを受けやすいのである。
だが今の貴族街にはジーンの屋敷がある。
彼を雇う部署から「彼を住まわせることはできないか」との打診を受けて、本人と家族を面接したのだ。
結果一家そろっての引っ越しとあいなったわけである。
こうして屋敷の人手不足問題も一応の解決を迎え、屋敷の女主としての立場にもそろそろ慣れてきた気がするパレットに、その話をもたらしたのは室長だった。
「ルドルファン王国へ、ですか?」
「そう、今度使節団をおくることになったから、君ら夫婦もその人員に含まれているよ」
秋の大祭が終わってしばらくした頃に、ルドルファン王国へ使者を送るらしい。
その使者にパレットとジーンが入っているというのだ。
「うちの国で、ちょっとごたごたしただろう?
それで周辺国からの目が集まっていてね。
それで外に向けて問題ないことを強く訴えるのが目的だよ」
国の方針を聞かされても、まだパレットにはピンと来ない。
「どうして私たちが?」
そういうのは、身分の高い方々の役割ではないだろうか。
パレットとジーンは王城で働いていても庶民でしかない。
首を傾げるパレットに、室長が苦笑する。
「君らというより、ジーンがいるのさ。
丁度あの国で催される行事にジーンを参加させて、軍事に問題ないことを見せつけたいんだよ」
「……なるほど」
この国の王城の騎士の駄目さ加減は他国でも有名らしく、以前ルドルファン王国の騎士からも噂を聞かされた。
隣国のルドルファン王国が戦争をする気がないからいいようなものの、ちょっとその気になったら王都は簡単に落ちる。
この現状をなんとかするために、まずは軍事に弱いという噂を払拭したいのだろう。
騎士からは、ジーンの他ガーランドが同行するという。
まだ兵士から騎士になりたての者たちは剣の腕は確かだとしても、教育が追い付いていないはず。
他国で王族に会うことになるため、人員を厳選したと見える。
「使節団の代表はオルレイン導師だよ。
彼はかの国の宰相殿と交流があってね、国の代表としての身分もある」
見知った相手が代表と聞いて、パレットはちょっと気持ちが楽になった。
「ミィも一緒で構いませんか?」
パレットとジーンが出かけて、独りぼっちで留守番というのもかわいそうだ。
それになんだかんだで、ミィと長期間離れたことがない。
「むしろ、魔獣ガレースを是非連れてきて欲しいと先方に言われている。
なんでも聖女様が興味津々なのだそうだ」
室長の言葉に、パレットは目を丸くする。
「聖女様が、ですか」
以前から噂だけは聞こえてくる聖女様の名前に、パレットはどんな人物だろうかと想像する。
今回会う機会があるかもしれないので、楽しみにしておこう。
それにしても、パレットの老後の夢だったルドルファン王国行きが、こんなに早く実現しようとしている。
かの国の王城で、噂の聖獣様の姿を見ることができるだろうかと、パレットは期待に胸を膨らませるのだった。
その日屋敷に帰ると、ジーンも同じ話を持ち帰っていた。
夜寝る前に、リビングで酒を交わしながら話をする。
「なんでもルドルファン王国ではこの時期、騎士の日頃の訓練の成果を競わせる行事があるらしい。
それに出るつもりで訓練しろと、今日団長に言われた」
ジーンの言う団長とは、前副団長のアレイヤードのことだ。
前団長が懲戒免職となったので、アレイヤードが持ち上がりで団長職へと就任した。
「その行事、聖女様の発案で始まったそうだぜ」
「聖女様って……」
またもや出てきた聖女様の人物像が、だんだんと謎になってきた。
――ルドルファン王国の話って、だいたい聖女様絡みなのよね。
パレットの好奇心は膨らむ一方だ。
「アンタ、なんか楽しそうだな」
使者という重い仕事の話であるのに、いつになくウキウキしているパレットを、ジーンが訝しむ。
他人から見てもそうなのか、とパレットは自分のことに苦笑する。
「私昔から、お金を貯めたらルドルファン王国まで聖獣様を見に行ってみたいと思っていたの」
パレットの告白に、ジーンは眉を上げる。
「……アンタにも、そんな可愛らしい夢があったんだな」
ジーンの驚きももっともで、パレットも自分が現実思考で頭の堅い人間であることは自覚している。
似合わない夢だと笑われると思ったから、今まで誰にも言わずにいたのだ。
「……変かしら?」
ちょっと顔を伏せてそう言ったパレットに、ジーンは小さく笑った。
「いや、いいんじゃないか?
一日くらい観光する時間があるさ」
ジーンの返事にホッとしたパレットは、この話に関してもう一つ言われたことを思い出した。
「ミィも一緒にってあちらに言われているそうなの。
魔獣のミィと聖獣様って、喧嘩にならないかしら?」
床にゴロゴロと寝転んでいるミィを見て、パレットは気がかりなことを告げる。
「あっちが呼んでいるんだから、大丈夫なんじゃないか?」
同じくミィを見つめるジーンも、疑問形でしか答えられない。
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