4 / 42
第一話 いかにして私が「男子」になったのか
2 第一学園関係者発見
しおりを挟む
「勘弁してよぉ……」
私は思わずそうこぼし、駐車場のアスファルトに膝をついた。
いつになったら学校の建物を拝めるのだ。
そしてこの駐車場の規模からして、ここへ来る人は移動がほとんど車なのだろう。
徒歩で来た私がおかしいのかもしれない。
「もう疲れた、歩きたくない、お家に帰りたい」
そんな愚痴が口から突いて出る私は、都会へ出て初日にして、もうホームシックになりかけていた。
そんな時。
「そこの君」
突然男の声がした。
しかし周囲を見回しても誰もいない。
……空耳かな?
駐車場には私しかいないんだから、声なんか聞こえるわけないじゃないか。
やっぱり慣れない移動続きで疲れているんだろう。
でも疲れた、帰りたいと愚痴っていても、帰るための移動費もない。
それにこんなところで夜を明かすなんて冗談じゃない。
学園の敷地には入ったんだから、もうひと頑張りだ。
そう考えて奮起すると、よいしょっと立ち上がったのだが。
「安城明日香君ですか?」
また同じ声の空耳、しかも名前を言われた。
何故空耳のくせに私の名前を知っているのか。
そしてこの空耳、どうも上から聞こえている気がするのだが。
高い建物なんてない駐車場で、上から聞こえる声ってなんだ。
もしや、幽霊とか……。
そういえば時間もちょうど夕暮れ時に差し掛かっているし、幽霊が出るにはもってこいなシチュエーションと言えるかもしれない。
そこまで考えた私は、ブルりと頭を振る。
ダメダメ、そんなこと考えたら!
だいたい私って幽霊とかオカルト系はダメなんだって!
けれど暗くなってくる駐車場に長居するのが怖くなり、早歩きで校舎が見える方へ向かおうとした。
すると――
「もし安城明日香君なら、寮へ向かうには全く見当違い。
というかここから見て校舎の真裏ですよ」
「はぁ⁉ なにそれ、まだ歩けって言うの⁉」
衝撃の真実を告げられた私は、幽霊への恐怖も忘れて思わず声が聞こえる上を仰いだ。
そうしたら、なんか人が空に浮いていた。
年齢は私よりも上だろう、清潔に整えられた髪が風になびき、切れ長の目がこちらを見下ろしている。
身体つきは痩せてもおらず太ってもおらず、そこそこ鍛えているようだ。
そして、浮いている。
大事なことなので二度言いました。
なにこの人、リアル鳥人間?
突然のことに目を見開いてポカンと見上げる私の前に、その鳥人間はスウッと音も立てずに降りて来る。
「もう一度確認しますが、安城明日香君ですか?」
「あっハイそうです」
またまた名前を確認された私は、鳥人間が衝撃的過ぎて「怪しい人なのでは」とかいう警戒心が吹き飛び、素直に頷いてしまう。
というか相手が私服なので確信が持てないけれど、この人は学園の生徒なのだろうか?
鳥人間の能力者とか?
初めて見る自分以外の能力者を前にしてボーっとする私に、相手は「大丈夫かコイツ」という顔をした。
「安城君、ずいぶん到着が遅かったですね。
到着予定時間を大幅に過ぎているというのになかなか来ないから、なにか事件に巻き込まれたのかと上の人たちが心配していたというのに」
彼はそこで言葉を切ると、私の装備を確認してため息を漏らした。
「まさかここへ徒歩で移動してくると思いませんでした。
学園側から車を回されなかったのですか?」
そんな指摘を受け、私はスウッと視線を横に反らす。
確かに「移動が大変でしょうから、車を用意します」と言われた。
けれどそれを断ったのは、他でもない私だ。
ならばと代わりに電車と新幹線の切符を貰ったのだが。
だって自宅まで迎えが来て学園直行だったら、都会の街並みを楽しめない。
せっかく都会へ出るんだったら、駅とか見たいじゃないか。
そんなミーハー心で迎えの車を断った私は、バス停を探してさすらう間に当然後悔したとも。
田舎者の都会デビューは、案内役が必須なんだってね。
そしてまさか、学園がこんな僻地にあるとは予想外だった。
都会は田舎よりも便がいいという思い込みって、よくないと学習した私である。
だがそんな私の事情なんぞ、相手にとってはどうでもいいらしい。
「まあそんなことはとにかく、学園長も高等部校長も待ってますから。
さっさと行きますよ」
そう告げた彼につかつかと歩み寄られ、やおら小脇に荷物のように抱えられた。
「ちょっ、なに⁉」
「乙女に対してなんという抱え方をするのだ」と文句を言おうかと思ったら。
フワッ
なんと彼の身体ごと、地面から浮いた。
「うぎゃ、なに、なに⁉」
「暴れると危ないですよ。
君に合わせて道を歩いていたら、寮の閉門時間になってしまいますからね。
最短距離を行きます」
ジタバタと手足を動かす私に、彼はそう宣言するとギュインと上空へ舞い上がった。
「うぎゃぁぁあ‼」
この時の感情を、どう言えば理解してもらえるだろうか?
人の腕一本を命綱に、空をカッ飛ばされることの恐怖を。
だって考えても見てよ、初対面の人に抱えられているだけなんだよ?
怖くないわけないじゃないのさ!
「怖い!
小学校の頃に流行った崖の上から滝つぼダイブよりも怖い!
ちょっとチビりそう!」
「うるさいですねぇ……おや?」
なにか叫んでいないと気絶しそうな私が、ぎゃあぎゃ騒ぐのに嘆息した彼が、一瞬かすかに眉をひそめる。
けれどそんなことに、私が気付く余裕なんてあるはずがない。
私は思わずそうこぼし、駐車場のアスファルトに膝をついた。
いつになったら学校の建物を拝めるのだ。
そしてこの駐車場の規模からして、ここへ来る人は移動がほとんど車なのだろう。
徒歩で来た私がおかしいのかもしれない。
「もう疲れた、歩きたくない、お家に帰りたい」
そんな愚痴が口から突いて出る私は、都会へ出て初日にして、もうホームシックになりかけていた。
そんな時。
「そこの君」
突然男の声がした。
しかし周囲を見回しても誰もいない。
……空耳かな?
駐車場には私しかいないんだから、声なんか聞こえるわけないじゃないか。
やっぱり慣れない移動続きで疲れているんだろう。
でも疲れた、帰りたいと愚痴っていても、帰るための移動費もない。
それにこんなところで夜を明かすなんて冗談じゃない。
学園の敷地には入ったんだから、もうひと頑張りだ。
そう考えて奮起すると、よいしょっと立ち上がったのだが。
「安城明日香君ですか?」
また同じ声の空耳、しかも名前を言われた。
何故空耳のくせに私の名前を知っているのか。
そしてこの空耳、どうも上から聞こえている気がするのだが。
高い建物なんてない駐車場で、上から聞こえる声ってなんだ。
もしや、幽霊とか……。
そういえば時間もちょうど夕暮れ時に差し掛かっているし、幽霊が出るにはもってこいなシチュエーションと言えるかもしれない。
そこまで考えた私は、ブルりと頭を振る。
ダメダメ、そんなこと考えたら!
だいたい私って幽霊とかオカルト系はダメなんだって!
けれど暗くなってくる駐車場に長居するのが怖くなり、早歩きで校舎が見える方へ向かおうとした。
すると――
「もし安城明日香君なら、寮へ向かうには全く見当違い。
というかここから見て校舎の真裏ですよ」
「はぁ⁉ なにそれ、まだ歩けって言うの⁉」
衝撃の真実を告げられた私は、幽霊への恐怖も忘れて思わず声が聞こえる上を仰いだ。
そうしたら、なんか人が空に浮いていた。
年齢は私よりも上だろう、清潔に整えられた髪が風になびき、切れ長の目がこちらを見下ろしている。
身体つきは痩せてもおらず太ってもおらず、そこそこ鍛えているようだ。
そして、浮いている。
大事なことなので二度言いました。
なにこの人、リアル鳥人間?
突然のことに目を見開いてポカンと見上げる私の前に、その鳥人間はスウッと音も立てずに降りて来る。
「もう一度確認しますが、安城明日香君ですか?」
「あっハイそうです」
またまた名前を確認された私は、鳥人間が衝撃的過ぎて「怪しい人なのでは」とかいう警戒心が吹き飛び、素直に頷いてしまう。
というか相手が私服なので確信が持てないけれど、この人は学園の生徒なのだろうか?
鳥人間の能力者とか?
初めて見る自分以外の能力者を前にしてボーっとする私に、相手は「大丈夫かコイツ」という顔をした。
「安城君、ずいぶん到着が遅かったですね。
到着予定時間を大幅に過ぎているというのになかなか来ないから、なにか事件に巻き込まれたのかと上の人たちが心配していたというのに」
彼はそこで言葉を切ると、私の装備を確認してため息を漏らした。
「まさかここへ徒歩で移動してくると思いませんでした。
学園側から車を回されなかったのですか?」
そんな指摘を受け、私はスウッと視線を横に反らす。
確かに「移動が大変でしょうから、車を用意します」と言われた。
けれどそれを断ったのは、他でもない私だ。
ならばと代わりに電車と新幹線の切符を貰ったのだが。
だって自宅まで迎えが来て学園直行だったら、都会の街並みを楽しめない。
せっかく都会へ出るんだったら、駅とか見たいじゃないか。
そんなミーハー心で迎えの車を断った私は、バス停を探してさすらう間に当然後悔したとも。
田舎者の都会デビューは、案内役が必須なんだってね。
そしてまさか、学園がこんな僻地にあるとは予想外だった。
都会は田舎よりも便がいいという思い込みって、よくないと学習した私である。
だがそんな私の事情なんぞ、相手にとってはどうでもいいらしい。
「まあそんなことはとにかく、学園長も高等部校長も待ってますから。
さっさと行きますよ」
そう告げた彼につかつかと歩み寄られ、やおら小脇に荷物のように抱えられた。
「ちょっ、なに⁉」
「乙女に対してなんという抱え方をするのだ」と文句を言おうかと思ったら。
フワッ
なんと彼の身体ごと、地面から浮いた。
「うぎゃ、なに、なに⁉」
「暴れると危ないですよ。
君に合わせて道を歩いていたら、寮の閉門時間になってしまいますからね。
最短距離を行きます」
ジタバタと手足を動かす私に、彼はそう宣言するとギュインと上空へ舞い上がった。
「うぎゃぁぁあ‼」
この時の感情を、どう言えば理解してもらえるだろうか?
人の腕一本を命綱に、空をカッ飛ばされることの恐怖を。
だって考えても見てよ、初対面の人に抱えられているだけなんだよ?
怖くないわけないじゃないのさ!
「怖い!
小学校の頃に流行った崖の上から滝つぼダイブよりも怖い!
ちょっとチビりそう!」
「うるさいですねぇ……おや?」
なにか叫んでいないと気絶しそうな私が、ぎゃあぎゃ騒ぐのに嘆息した彼が、一瞬かすかに眉をひそめる。
けれどそんなことに、私が気付く余裕なんてあるはずがない。
0
あなたにおすすめの小説
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる