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第一話 いかにして私が「男子」になったのか
10 ようやく落ち着く
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室内に入ると、まずあるのはリビングだった。
「ここの設備は共用です、僕の部屋はあちらですから」
そんな簡単な説明だけして、神高君はさっさと自分の寝室に入っていく。
やっと、やっと休める場所にたどり着いた。実に長くて濃い一日だったよ。
「あー疲れた、本当に疲れた」
実家から送り出した段ボール箱が無造作に置かれている寝室に入った私は、そうぼやきつつ急いで荷物を開ける。
もう遅い時間なこともあり、洗面用具とパジャマに、明日必要になるものだけを引っ張り出して、後は明日以降にボチボチやることにした。
ちなみにやっぱりと言うか、部屋に置いてあったのは男子の制服だった。
ちょっとここの女子の制服可愛いなって思っていたんだけど、いつか着る機会はあるのだろうか?
そんな風なことを考えながら荷物を広げていると、開けっ放しのドアにいつの間にか、神高君がもたれかかっていた。
なにか言い忘れかな? と思っていると。
「そう言えば、結局ここになったのですか?」
神高君がそう尋ねてくる。
そうか、ゴタゴタのせいでまだ神高君と、事の成り行きを話せていなかった。
常盤さんも他の人の耳を気にしてか、説明しなかったし。
「そういうことになった。なんかね、女子寮は向いてないんだってさ」
簡潔にそれだけを伝える私に、「でしょうね」と神高が頷く。
「現在のあそこは、一種宗教じみていますから。
新入りには辛いことになるでしょうね」
なんと、宗教とは不穏だな。
「都会で変な宗教に引っかかるなって親から何度も注意されてるから、そういうのは断固拒否したい」
「それが賢明な判断だと思いますよ」
私の意見を、神高君も肯定してくれる。
しかしなんつーか、学園長の話といい、どんなところなんだ女子寮って。
いっそ興味がわいてきたんだけれども。
そんな会話をしていると、私はもう一つあったケーキの箱の存在を思い出す。
実は寮の責任者に渡す用のと別に、同室者に渡す用のがあったのだ。
私は同室者の女の子と、キャッキャウフフと話に花を咲かせつつ食べようと用意していたケーキを、こうなっては仕方ないので、同室者である彼に提供しようとする。
「あのこれ、神高君もバタークリームケーキをどうぞ。手土産です」
「同級生なので神高で結構。あいにく、僕は甘いものが嫌いなんです」
断られたし。
盛り上がれない男だな。
そして話はそれだけだったのか、神高君……神高は立ち去って自分の部屋へ入っていった。
残されたのは行き場を失くしたケーキだが、これは私のおやつに決定でいいよね、冷蔵庫に入れておこうっと。
そうそう、部屋はエアコンとミニ冷蔵庫完備だったんだよね。
なんという天国!
こうしていそいそとケーキの箱を冷蔵庫に入れた後は、もう色々とする気力がないため、散らかっているのは諦めて早く寝てしまうことにする。
寝る前に風呂に入るのだが、なんとここはトイレ・洗面台・風呂がセットのユニットバスが寝室ごとについているのだ。
いわゆるワンルームマンションとかに見られるような、小さな風呂釜のモノだが、私にはありがたい限りだ。
事前にパンフレットで読んだところによると、学園が全寮制だから、余計に個人のプライバシーを優先させているのだとか。
トイレとお風呂って超個人的時間だし、家族でもない他人と共有って、確かに落ち着かないかも。
でも広い風呂に入りたい人は、寮内に大浴場があるらしい。
私は当然行けないけどね。
ともあれ、小さいながらも自分専用の風呂場で一日の疲れを癒し、パジャマを着たところで、ベッドに寝転がる。
このベッドも備え付けで、布団も一緒に用意してあった。
おおっ、布団がフカフカ!
きっと高級なんだろうな、いい夢見そう。
そんな風にはしゃぎつつ、早速布団を敷いてフカフカ具合を満喫する私は、ふと思う。
それにしても神高って、一体なんの能力なんだろう?
聞きそびれてしまったけど、明日聞けばいいか。
「ここの設備は共用です、僕の部屋はあちらですから」
そんな簡単な説明だけして、神高君はさっさと自分の寝室に入っていく。
やっと、やっと休める場所にたどり着いた。実に長くて濃い一日だったよ。
「あー疲れた、本当に疲れた」
実家から送り出した段ボール箱が無造作に置かれている寝室に入った私は、そうぼやきつつ急いで荷物を開ける。
もう遅い時間なこともあり、洗面用具とパジャマに、明日必要になるものだけを引っ張り出して、後は明日以降にボチボチやることにした。
ちなみにやっぱりと言うか、部屋に置いてあったのは男子の制服だった。
ちょっとここの女子の制服可愛いなって思っていたんだけど、いつか着る機会はあるのだろうか?
そんな風なことを考えながら荷物を広げていると、開けっ放しのドアにいつの間にか、神高君がもたれかかっていた。
なにか言い忘れかな? と思っていると。
「そう言えば、結局ここになったのですか?」
神高君がそう尋ねてくる。
そうか、ゴタゴタのせいでまだ神高君と、事の成り行きを話せていなかった。
常盤さんも他の人の耳を気にしてか、説明しなかったし。
「そういうことになった。なんかね、女子寮は向いてないんだってさ」
簡潔にそれだけを伝える私に、「でしょうね」と神高が頷く。
「現在のあそこは、一種宗教じみていますから。
新入りには辛いことになるでしょうね」
なんと、宗教とは不穏だな。
「都会で変な宗教に引っかかるなって親から何度も注意されてるから、そういうのは断固拒否したい」
「それが賢明な判断だと思いますよ」
私の意見を、神高君も肯定してくれる。
しかしなんつーか、学園長の話といい、どんなところなんだ女子寮って。
いっそ興味がわいてきたんだけれども。
そんな会話をしていると、私はもう一つあったケーキの箱の存在を思い出す。
実は寮の責任者に渡す用のと別に、同室者に渡す用のがあったのだ。
私は同室者の女の子と、キャッキャウフフと話に花を咲かせつつ食べようと用意していたケーキを、こうなっては仕方ないので、同室者である彼に提供しようとする。
「あのこれ、神高君もバタークリームケーキをどうぞ。手土産です」
「同級生なので神高で結構。あいにく、僕は甘いものが嫌いなんです」
断られたし。
盛り上がれない男だな。
そして話はそれだけだったのか、神高君……神高は立ち去って自分の部屋へ入っていった。
残されたのは行き場を失くしたケーキだが、これは私のおやつに決定でいいよね、冷蔵庫に入れておこうっと。
そうそう、部屋はエアコンとミニ冷蔵庫完備だったんだよね。
なんという天国!
こうしていそいそとケーキの箱を冷蔵庫に入れた後は、もう色々とする気力がないため、散らかっているのは諦めて早く寝てしまうことにする。
寝る前に風呂に入るのだが、なんとここはトイレ・洗面台・風呂がセットのユニットバスが寝室ごとについているのだ。
いわゆるワンルームマンションとかに見られるような、小さな風呂釜のモノだが、私にはありがたい限りだ。
事前にパンフレットで読んだところによると、学園が全寮制だから、余計に個人のプライバシーを優先させているのだとか。
トイレとお風呂って超個人的時間だし、家族でもない他人と共有って、確かに落ち着かないかも。
でも広い風呂に入りたい人は、寮内に大浴場があるらしい。
私は当然行けないけどね。
ともあれ、小さいながらも自分専用の風呂場で一日の疲れを癒し、パジャマを着たところで、ベッドに寝転がる。
このベッドも備え付けで、布団も一緒に用意してあった。
おおっ、布団がフカフカ!
きっと高級なんだろうな、いい夢見そう。
そんな風にはしゃぎつつ、早速布団を敷いてフカフカ具合を満喫する私は、ふと思う。
それにしても神高って、一体なんの能力なんだろう?
聞きそびれてしまったけど、明日聞けばいいか。
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