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第二話 入学式は波乱の幕開け

5 特別な生徒

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私は神高や徳倉君たちとお喋りしながら、高等部の校舎へと向かう。
 と言っても神高は一歩後ろを黙ってついてきて、会話には参加しなかったが。
 その際に気が付いたのだが、昨日の私はどうやら入口を間違えていたらしい。
 あのだだっ広い駐車場は裏口で、寮から徒歩五分の所に正門があった。
 このバス停で降りれば、あんなに歩かずに済んだのに!
 がっくりとうなだれる私を、徳倉君たちが不思議そうに見ている。

「どうしたの?」

「いや、ここが正門だったんだなぁって思って」

乾いた笑みを浮かべつつそう述べる私に、徳倉君が告げた。

「ああ、この学校入口がたくさんあるもんね。
 違う入口から入ったら迷うから、バスから降りる時の『〇〇口』っていうのをよく見た方がいいよ」

「あんまり使わないとこから入ると、俺らだって迷うもんな」

徳倉君も松川君もあっけらかんと言ってくれるが、そのアドバイスを昨日の昼間のうちに聞きたかったよ。
 そうなると、やはり送迎を断った私が悪かったのか。
 「自力で行きます!」と言った時の相手の微妙な態度が、今ならわかるな。
 「お前本気か? 迷うぞ?」と思われたのだろう。
 そしてそれを、私は田舎者だと馬鹿にされていると感じていたのだが。
 そうではなく、本気で心配されていたのだ。
 それにもしかしたら、この正門側でずっと私の到着を待っていた人がいたのかもしれない。
 そう思うとますます申し訳ない限りだ。
 こっちは都会行きではしゃいでいたんだよ。
 素直に言うこと聞かなくてごめんね、あの時の電話の人。

それはともかくとして。
 今年の高等部への入学者について徳倉君と松川君に話を聞けば、ほとんどが皆例のテストを受けてからこの学園にやって来た者ばかりだという。
 つまりは初等部からの知り合いというわけだ。
 ちなみに、何故テストが初等部入学前の時期ではなく、一年の終わり頃になるのかという理由だが。
 実家で聞いた説明によれば、能力が確定するのが大体七歳を過ぎたくらいだから、だそうだ。
 子供によっては、幼いころにほんの少しの能力を持っていても、成長と共に消えてしまうこともあるのだとか。
 それが七歳を過ぎると、能力は消えることは滅多にないのだという。
 まあそれに、小学校に入学する前の子全員に、強制でテストを受けさせるのが難しい、っていうのもあるのかもね。
 なにせ幼児全員が幼稚園や保育園に通っているとは限らない。
 実際私、どっちにも通わずに畑をウロウロして育ったしね。
 そんな環境の子たちに通知をするだけでも一苦労だが、義務教育である小学校だとそれが比較的安易になるというわけだ。
 私たちはそんなことを話しているうちに正門をくぐり、校舎の前の受付で新入生の確認をしている列に並ぶ。
 どうやらここで名前を名乗って、クラスを教えてもらうらしい。

「あの人たちは生徒会の役員だよ」

知らない私に、徳倉君が教えてくれる。

「なるほど。
 他の人は休みだろうに、お勤めご苦労様です、だねぇ」

私はそんな呑気な感想を述べながら、待つ間に生徒会だというその人たちを観察する。
 こうした行事に生徒会が駆り出されるのは、これまたどの学校でも同じらしい。
 けれど慣れた様子でテキパキと新入生の列を捌くその中に一人、気になった生徒がいた。
 女子が一人、なにをするでもなくただニコニコと列を眺めているのだけれども。
 背が低めで、フワフワとしたヘアスタイルで可愛らしい人だ。
 彼女がどうして気になったのかというと、ちょっと距離を置いて彼女を囲んでいる女子達がいるのだ。
 彼女も生徒会の人なのだろうか?
 そして囲んでいる女子達は一体なんなのだ?
 私が不思議に思ってじっとその女子生徒を見つめていると、隣にすっと神高が立った。

「ちなみに。
 目を付けられると厄介なのが、昨日の夜の鴻上という二年の男子、そしてあそこにいる女子です」

そう囁くように言いながら、例の可愛い女子を目で指し示す。
 そう言えば昨日学園長が言っていたな。
 今、高等部で特別視されているのが、強力な発火能力を有する男子と、治癒能力者の女子だって。
 そして確かに、昨日あのヤンチャな鴻上先輩は火を出してみせた。
 ならば……

「じゃあもしかして、あの人が治癒能力者?」

ヒソッと尋ねる私に、神高が小さく頷く。

「なにか聞いていましたか。
 そう、女子寮の教祖様でもあります。
 彼女に楯突こうものなら、女子がそこかしこからわらわら湧いてきますよ」

そんなアンタ、どっかの害虫じゃないんだから。
 そんな会話が、聞こえたわけではないと思うが。

「そこ!
 なにかよからぬ会話をしていませんでしたか!?」

彼女を囲っている女子たちの中の一人が、明らかに私の方を見て怒鳴った。
 怖そうな顔をしてにらみつける姿に、私の周囲がざわついている。
 なんかやべぇヤツに目をつけられた的な、そんな雰囲気だ。

「よからぬっていうか、その人が可愛いなって話をしてました」

私がヘラっと笑ってそう言う。
 田舎者だからって舐めるなよ、こういう時は黙っていると、いいように受け取られるって知っているんだから!

「……そうですか」

「まあ、お世辞でも褒めてくれて嬉しいわ」

私の言葉を明らかに信じてなさそうな顔の女子のセリフに、例の可愛い女子が言葉を被せた。
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