私には未来が見える ※ただし生活密着型

黒辺あゆみ

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第二話 入学式は波乱の幕開け

6 姫様がいた

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両手で頬を抑えてはにかむ彼女の姿は、文句なしに可愛い。
 男子とガチで間違われる身としては、その可愛さが眩しいです。

「あなたもちょっとでも体調が悪かったら、私に言ってね。
 すぐに癒してあげるから」

彼女がこちらに歩み寄ってニコリと笑ってそう告げると、私の周囲にいた周囲の男子たちがざわつく。

「やっぱすげぇ可愛いな」

「眼福だ」

「癒される~」

そんなことを漏らしながら、デレっとした顔になる男子諸君。
 まあわかるけどね、彼女可愛いし。
 ただし神高はその例に当てはまらず。
 いつの間にか私から一歩離れていたかと思えば、「関係ありません」といった顔で明後日の方向を見ている。
 そして徳倉君と松川君はというと、私からちょっと離れてヒソヒソしていた。
 なにかな君たち、私とお友達と思われたくないのか?
 独りぼっちにされると、寂しくて泣いちゃうぞ?
 でもなるほど、彼女はどうやら救護要員としてここにいるらしい。
 こうして私が納得しかけていると。

「姫が直々に癒しを施す必要などありません。
 他の生徒が手早く保健室に運べばいいのです」

私に突っかかった女子が冷たく言い放つ。
 ってか姫ってなに?
 名前なのか、あだ名なのか。
 それともガチでどっかのお姫様とか?
 可愛いからありそう。
 私がそこのところを気にしていると、姫様(仮)な彼女はぷうっと頬を膨らませる。

「だったら、私がここにいる意味がないじゃないの」

「そんなもの、姫の顔を拝めるだけでも皆ありがたく思うはずです」

姫様の抗議にも、しかしその女子はそんなことを答える。
 すると困ったように微笑んだ姫様は彼女に言い返す代わりに、話しかける相手を私から変えた。

「でも、征人が誰かと一緒にいるなんて珍しいわね。
 やっとお友達ができたのかしら?
 だとしたら私も嬉しいわ!」

どうやら神高は姫様と知り合いらしい。
 っていうか、ほとんどの生徒と初等部からの付き合いだったら、知っていて当たり前か。
 話しかけられた神高は、無関係の態勢を渋々解いて、姫様に向き直る。

「……諸事情があって行動を共にしているだけです」

そしてただそれだけ言うと、沈黙する。
 ねえ、もうちょっと会話をしてあげてもいいんじゃないのかな。
 「無礼者!」って感じの目であのツンケン女子さんに見られてるよ?
 まあ、そんなの神高は気にしなさそうだけどね。
 私が変な気を使う一方、姫様はそんな神高と私を交互に見比べる。

「ねえ、あなたって見ない顔だけど。
 あなたみたいな子が征人の学年にいたかしら?」

そしてそんな疑問を口にした。
 見ない顔なのは新入りだから当然なのだが、果たしてここで言っちゃっていいものか。
 学園長からも絡まれるから気をつけろって言われているし。
 もうさ、早く私の順番が回ってこないかなぁ。
 そうしたら「あ、そうですか」って会話を切り上げられるのに。
 私がこんな風に、会話から逃げる方法を思案していると。

「もしやコイツが、噂に聞いた新入りの『無能』では?」

ツンケン女子さんがそう指摘すると、ゴミを見るかのような目をした。

「まあ、『無能』って……」

姫様は驚きのあまり固まっている。
 なに、昨日の夜絡まれた時もちょっぴり思ったけど、やっぱり学園長が言った通り、『無能』ってそういう扱いなの?

「おい、『無能』ってさ」

「噂の……」

「本当だったのか?」

さっきのざわつきとは違ったざわつきが、周囲に広がる。
 新入生のチェックをしていた生徒会の人たちも、この騒ぎに気付いて何事が囁き合い、一人が持ち場を離れて駆け出す。

「面倒な……」

神高が低く唸るように呟いた時。

「てめぇら、まぁだココにいたのかよ」

昨日聞いた覚えのある声が、突然割り込んできた。
 声のした方を見れば、校舎からゆったりとした足取りでやって来るのは、あのヤンチャな鴻上先輩だ。
 鴻上先輩の登場に、姫様がそちらを向く。

「鴻上君、先生からのお説教は終わったの?
 全く、あんまり危ないことばかりしちゃダメじゃないの」

ちょっと眉を寄せて怒ったように言うのも、姫様は可愛い。
 その証拠に、ほとんどの男子はボーっと見とれている。
 なんてズルい生き物なんだ。

「大きなお世話だってーの」

しかしこの可愛い攻撃に、鴻上先輩は嫌そうな顔をすると、ツンケン女子さんに向かって言った。

「アンタらはんなところで誰彼構わず噛みついていないで、信者の世話でもしていろよ」

うおぉ、ズバッと言うなぁこの人。
 少しもオブラートに包んでないよ。

「鴻上、口の聞き方に気をつけなさい!」

この言葉に、ツンケン女子さんはカッとなったように言い返す。
 その傍らで、姫様が困ったように首を傾げる。

「まあ、鴻上君ったらまたそんな言い方をして。
 皆、私のお友達よ?
 信者なんて失礼だわ」

そう告げて、姫様は私を見た。

「ねえ、あなたもそう思うでしょう?」
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