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第二部 魔獣襲来イベント

Episode26.思い出しましたわ、オルフェン様のこと

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「こんな時間に自分から二人きりになろうとするなんて、なかなか積極的だね」
「常に能動的な人間でありたいので、それは誉め言葉として受け取っておきますね」
 
 にこりと微笑んでおく。
 セロースは気を利かせてくれたので部屋にはもういない。
 部屋にはロサミリスとオルフェンだけだ。

「まずは、謝らせてください。あのときは無礼を働きました、お詫び申し上げます」

 オルフェンに迫られたあの日、無骨に彼を拒否した。
 もっと淑女らしい柔らかな包み方もあっただろうに。
 深々と頭を下げたロサミリスに対して、燃えるような赤い瞳を逸らし、オルフェンは悲し気な微笑みを浮かべた。

「気にしてないって言ったら嘘になる。フラれ慣れてないっていうのもあるけど、友人として一緒にいる事もダメなのかって、ちょっとしたショックだった」
「……いえ、ご友人としての拒否ではなく」
「分かってる分かってる。悪かったのは僕だよ、五年前にフラれてそのまま諦めれば良かったのさ」

 今度は、オルフェンが目を合わせてくれない。
 字面だけを見れば、魔法武術の練習に参加させてくれないかという誘いは友人としての意味が強いだろう。でもあの時のオルフェンは、それ以上の意味を感じさせるほど熱が籠っていた。

「実はオルフェン様と再会してしばらく経った後、思い出しました…………。オルフェン様をフッた五年前の事を」

 五年前、まだロサミリスがジークの婚約者ではなかった頃。
 家族ぐるみの付き合いがあったロンディニア公爵家と、子息であるジークを仲介する形で、アルフェリノ騎士公爵の子息オルフェンを紹介された。

 社交的で誰とでも友達になれるオルフェンと、今よりも数倍やんちゃで天真爛漫だったロサミリスはすぐに意気投合し、真面目なジークを引きずる形でいろいろな場所に遊びに行った。

 露店に出るお菓子を食べ歩いたり、お腹を空かした野良猫に餌をあげたり、オトナのお店に誤って入ってしまい顔を真っ赤にして逃げ出したり、勝手に遊びに行ったせいで両親に叱られたり。
 そしてオルフェンと別れる直前に、告白を受けた。

『僕のお嫁さんになってくれませんか』

 真剣な顔だった。
 本気だということは、さすがのロサミリスもすぐに分かった。
 しかし、ロサミリスは断った。

『ありがとうございますオルフェン様。でも、わたくしはジーク様をお慕いしてますの』

 今になって思えば、あの時のオルフェンは泣きそうな顔をしていた。でも我慢していたのだと思う。騎士が泣くのは恥だから。騎士公爵家でそう教えられた彼は『そっか』とだけ言って、その時はお開きとなった。

 ロサミリスは、あれが本気の恋だと思っていなかった。
 だから今まで、オルフェンの事を忘れていた。
 出会った初日に恋に落ちるなんて、恋愛小説の中だけだと思っていたから。

 その日以来、オルフェンと出会うのは婚約者ジークと一緒に出席した夜会だけ。
 オルフェンもあえて言ってくることはなかったので、その記憶はロサミリスの中で薄らいでいった。

「思い出してくれたのは嬉しい。あの日過ごした君との記憶は宝物なんだ」

 適わない恋だと分かっているからこそ、オルフェンは微笑む。
 それが残酷なものであることを、ロサミリスは分かっていた。
 分かっているからこそ、今度は真正面からオルフェンと向き合った。

「オルフェン様」
「なにかな」
「わたくしがジーク様をお慕いしている事は、昔も、婚約者となった今でも変わりません」
「うん、知ってる。というかバレバレ」
「え……そんなに……?」

(わたくし、そんな分かりやすい女だったのかしら。え…………やだ、恥ずかしくなってきたのだけど!)

 熱くなった頬を手に当てて、冷ます。
 いつもの調子を取り戻したらしいオルフェンは、にやにや笑っていた。

「公衆の面前じゃなくて密室で告れば未来も違ってたかなー。ほら、僕ってモテるし? 強いし? 騎士公爵家って超優良物件じゃん?」
「密室ならオルフェン様を蹴り飛ばしてでも逃げてましたけれど」
「なら今からそんな事ができるか試してみる?」

 急にトーンを落としたオルフェンが、壁際にロサミリスを追い込む。
 どんっ、と壁に手をつかれると身動きが取れない。かといって無理に逃げ出そうとすれば、腕なり何なりを引きはがさないと出られないだろう。

 ただ、前回のようにロサミリスは動じることはなかった。
 真正面から赤銅色の瞳を見あげている。
 ロサミリスの美しい青宝玉サファイアの瞳に、一瞬だけオルフェンが息を呑む。

「嫌いになりますわよ?」
「じゃあ止める」

(行動はやいですわね!? 嫌いになるって言った手前どうなんだって話ですけれども!)

 あっさり引き下がったオルフェンは、背中を向けている。肩をふるふると震わせ、笑いをこらえているようだった。

「やっぱ面白いね、君」
「何とでも仰ってくださいまし」
「で、────僕に何を頼みたいのかな?」
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