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しおりを挟む時雨の体を堪能していて、どこをどう走って来たか覚えていない。気付いたら家の前だった。
俺どんだけよ。
アパートの駐輪場にバイクを停め、時雨が降りる。そして、乗った時同様、時雨にひょいっと持ち上げられ、俺も地面へ着地。
時雨を案内しようと家に向かって一歩歩きだそうとするが、足がもつれ転びそうになる。それに気付いた時雨がさっと俺を支えてくれた。
「大丈夫か?」
色々ありすぎて(特に時雨との密着)パンクした頭同様足元もフラフラだ。
あは、うまく体に力が入らない。
フラフラと歩く俺を自然とエスコート(補助)をしてくれる紳士的な時雨様。はぁ、カッコいい。
「……ん、ありがとう」
そう返事はしたが、何だか頭がふわふわしてる気がする。ボーとして何も考えられない感じ……。あっ、もしかして痛み止めのせいかも。スズちゃん先生が帰り際に、「体質によって麻酔が効き過ぎることがあるから気をつけてね」って言ってたな。
「ミツ、本当に大丈夫か?ずっとフラフラしてるぞ」
ボーとしたまま、フラフラと歩く俺の様子がおかしいと思ったのか、時雨の眉間はずっと皺が寄っている。
「……ん、大丈夫。たぶん……麻酔のせい……」
「そうか……部屋、どこだ?」
「……2階、上がって、すぐのとこ」
「鍵は?」
「……ポケット」
2テンポ遅れてしゃべる俺を、時雨は軽々とお姫様抱っこで抱え階段を登る。
うわぁぃ!お姫様抱っこだ。
「……んへへ」
ぎゅっと抱きつきながら変な声で笑う俺に、時雨の口許がふっと緩む。時雨も何だか嬉しそうに見えた。
家の前に着くと時雨は俺をいったん下ろし、鍵をポケットから出してドアを開けた。
「一人で歩けるか?」
「ん……だいじょうぶぅ」
にへらと笑って答えたが、時雨の表情は険しいままだ。
「……大丈夫だよ?」
時雨に支えてもらっていた身体に力を入れ、歩こうとした途端、地面が揺れた。
「あれ?」
傾き倒れそうになる俺をすぐさま時雨の腕が支えた。
「……大丈夫じゃねぇだろう」
「あはは」
誤魔化して笑っていると、さらに眉間に皺を寄せた時雨が目に入る。
あっ、ヤバイ。コレ、マジで怒る寸前だわ。
「えっと……時雨、ありがとう。お願い、します」
お礼大事!
玄関で支えてもらいながら何とか靴を脱ぐと、電気を2か所つけ、キッチンを通りすぎてそのままリビング兼寝床まで連れていってもらった。
うむ、ここは常識人としてお茶を出すべきだよな?お菓子あったかな?あっ、冷蔵庫にチョコとペットボトルの水があった気がする。
「……時雨、冷蔵庫にある水、飲ん……?」
腰を支えられたまま、斜め上を見上げると、時雨が目を見開き固まっていた。
「……」
「時雨?」
時雨の視線をたどると俺の部屋だった。
何か珍しいものでもあったかな?別に何もないよな?置いてあるのは、布団、小さなテーブル、そして衣装ケースぐらいだ。
訳がわからず首を傾げていると、時雨が器用に片手で俺の頬をがしりと掴む。その表情はこれでもかというほど眉間に皺が寄っていて、わずかだかぎりっと歯ぎしり聞こえる。
えっと、怒ってらっしゃっている!えっ、何で!?
軽くパニクっていると時雨が静かに尋ねてきた。
「いつから……ここに住んでるんだ?」
「えっ?えっと……」
叔父さんとの事が終わって退院後だから……中3の10月頃で、今が高校1年の4月だから……。
「半年前、かな」
「そうか……」
そのままの表情で優しくポンポンと頭を撫でられた。
「……泊まるから。着替え買ってくる」
えっ、泊まり?まじで!あっ、でも、何もない!
「……おっ、俺も……買い物に!」
「大丈夫だ。食いもんだろ。適当に買ってくるからゆっくり休んでろ」
時雨はそう言うと静かに出ていった。
俺はふらふらしながら、無意識に布団があるところまで行き、パタンと倒れた。
「時雨がとまる……」
とまるって、泊まるだよな?止まるじゃないよな?あっ、布団ない!どうしよう、布団一組しかないから一緒に……推しと同じ布団!ヤバイ。胸がドキドキしてきた。あっ、掃除しなきゃ……って掃除機なかった!空気入れ換えて水拭きぐらいだな。
「雑巾ない……タオルで、いいか……」
倒れたまま改めて自分の部屋を見る。
うーん、今更ながら、この部屋何もないな。時雨楽しめるかな?何かゲームでも買うべきだよな?時雨の為に。あっ、でも……いっか。時雨がもう、家に来ることはないだろう。
『コイアイ』が、始まったのだから……。
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