オヤジが生まれ変わって?系救世主

無謀突撃娘

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エクリプス辺境伯家11

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「どういことだ!先陣に参加した者たちが全員いなくなるなど!」

 貴族や兵士たちなどを確認すると先陣に参加したものは全員いなくなっていた。逃亡したのなら後方の警備兵が見ているはずだがそんな大人数は通らなかったとのことだ。

 だがいまさらいなくなったところで50000の兵である自分たちが攻めればあっという間だろうし戦後の分配に悩む必要も無くなった。

「この豊かな北部を手に入れて南部の発展の礎としようぞ!」

 兵士たちを鼓舞して全軍を進める。もはや彼らにあるのはただの傲慢な欲望だけである。

「さてと。向こうは全兵士を動員してきたけどステラ公爵令嬢らとランドール伯爵たちはゆっくりしていいよ」

 砦の上でゴーレムたちにお茶とお茶菓子をテーブルと椅子を用意して座らせくつろがせる。この人達には証人となってもらうために砦に来てもらっている。

「まさか辺境伯様がこれほど若いとは」

「でしょう。私もびっくりしました」

 二人と連れて来た部下とともに驚きながらお茶などを味わっている。

「多数の強力な魔法使いがいると思ってましたが辺境伯様一人だけとは。それなのにあの戦闘力。もうこれで南部諸侯軍は終わりでしょう」

「リーヴリル様はなるべく戦死者を出さずに終わらせるつもりのようです」

「それでどうするのですか」

「とりあえずひたすら向こうに攻めさせるそうです」

 おそらく砦の壁に辿り着くことすら不可能だろう。防備の頑丈さは常識を完全に外れていて南部軍の装備と魔法使いでは破壊不可能だ。

「クソッ!この柵どうして破壊できない!大金槌でもびくともしないなんて」

「魔法攻撃を壁に打ち込んでもまるでビクともしない!どんな防御魔法をかけているの!」

 前日と同じように攻撃を加えるがまったく状況は変わらない。

「あれだけの数がいるのだからせめて砦の壁にまで到達して欲しいんだけどあの装備では仕方ないか」

 結局戦場はこう着状態。進軍することすら出来ない南部諸侯軍とひたすらにそれを眺めているこちら。

「和睦の使者を送ってこないみたいだね。。どうあっても壊滅させるつもりらしい」

「どう考えても無謀ですな。自分たちがどれだけ見逃されているのかすら理解していない。こんなのに無理矢理命令されていたと思うと怒りを覚えます」

「まったくです。こんな相手の敵に回るなど無謀以外の何者でもありません」

ランドール伯爵とその臣下はその愚かさを指摘する。先陣に参加した彼らの仲間は先に全員領地に帰している。万が一敵が予想より早く撤退した場合に備えて防備を固めてもらっているのだ。

「表面上は圧倒的に敵が攻めているけど防備の厳重さに手が出せないってところかな」

 お茶とお茶菓子を一緒に食べながら戦場にいるとは思えないほど暢気にしている。

「狙いはなんですか?」

「兵糧戦。もう少ししたら物資を焼き払う」

 あれだけの大軍になれば弓矢や食料など膨大だ。それを出来る限り減らす。彼らはそれても進軍してくるのだろうか?そうなるともうどうしようもない。

「残酷ですな。背後から元味方らに領地を押さえられ前方には難攻不落の砦に加え計り知れないほどの力を持つ存在。これでは戦を仕掛けた時点で終わりです。今の状態ですら温情をかけてもらっているのですから」

 やがて日が暮れていく。

「どちらに行かれるので?」

「敵の物資を焼き払いに行く。普通にやれば気づいて消化されるだろうけどわたしには相手が気づいた時には完全に手遅れになる物資の焼き払い方がある。これで向こうの士気は激減する」

 すでに相手の戦力は気を抜くとこちらでも蹂躙できるほどだ。ならばすべてに先手をとり何も出来ないまま終わらせるしかない。

「止めるの?」

「まさか。正体を知り仲間の貴族や兵士たちを無事に帰してもらったあなたに反論などありませんし今は戦争なのです。勝つために相手を消耗させあらゆる手を打つのは当然。自分ももう南部軍には愛想が付きました」

「ステラは?」

「正直ここまで圧倒的に優勢なのは予想外です。ここまで何も出来ないのに力ずくで侵攻しているナタリー公爵らには敗戦の責任を取ってもらうしかありませんしお父様らが後方で領地を占領しているだろうと思うので別に潰しても損などありません。リーヴリル様の方が正しいのですから」

 止めるどころかむしろやって欲しいと頼まれる。

 夜になり【インビジブル】と使い敵陣地にむかう。

「クソッ。何なのだあの防備の固さは。ありえないぞ」

「魔法攻撃をいくら打ち込んでも傷一つ付かない。どれだけ強固なのだ」

「指揮官らはただ数頼みに突撃しろというだけ。どう考えても詰んでるよ」

「あの壁の高さと堀の広さはなんなんだよ。柵を破壊したとしても登れないぞ」

「これは敗戦濃厚だな。逃げ出すか」

 様々な言葉が耳に入ってくる。戦功を稼ごうと躍起になる者、冷静に敵を見て勝とうとする者、ただ命令のままに従う者、逃亡を図ろうとする者。あそこまで防備が頑強なら打つ手など無いし魔法攻撃が飛んでくればあっという間に大打撃だ。なので半分ほどはただ義務的に戦っている。

 防備の兵士たちも攻め手が見つからないのでまるで気が入っていない。ただ命令のままに動いているだけだ。わたしはそんな彼らの背中を押してあげる。敗北という崖に突き落とすために。戦場で隙を見せれば取り返しの付かない一撃を打ち込まれることを教えてあげる。

 食料の備蓄の山に近づくとその中心に入り食料の布袋を切り裂いて青銅の筒から鉄粉を練り混ぜたような物をそこにコロンと出してその周りを塞ぐ。すべての物資の山を回りそれを何度も行い砦に戻る。

「あと2時間ほどでどんな魔法を使おうが消せない大火事だ」

 そして2時間後にその変化が訪れる。

「うん?なんだ、煙臭いぞ?どこから発生しているのだ?」

 何人かの兵士たちが燃える匂いを感じ取り兵糧などが置いてある場所まで行く。すると中心部から煙がほんの少しのぼっている。

「何で火の気が無いのに煙が?おい、布袋をどかして消火しろ」

 監督役らしき人物が兵士たちに物をどかして消火しようとして動かした瞬間、

「な!何だこれは!?」

 すさまじい炎が内側から生まれあっという間に周囲の物に引火。その炎は山ほどに高くなりものすごい勢いで陣屋まで巻き込む。

「魔法使いたちをたたき起こせ!火事だ~!」

 だが、あちらこちらの物資から同じように火の手が上がり水魔法を使っても焼け石に水の状況だった。火はさらに広がり兵士たちのテントだけでは収まらず貴族らの陣屋まで到達し大混乱をおこす。それはまるで太陽のように真っ赤だった。

「あらら~。予想より広がっているね。この分だと何も残らないかも」

 ステラやランドール伯爵らも隣にいるので感想を聞く。

「さすがにここまでされたらもうどうしようもないでしょう。この何もない荒野で準備もなく放り出されたら間違いなく死にます」

 さすがに同情している。無理も無い。彼らとてわたしのところに来なければ同じことになっていたのかもしれないのだから。

「エクリプス辺境伯様にお願いがあります。助けられておいて無礼ですが」

「なんなの?」

 とりあえずお願いを聞いてみると自分を降伏の使者として送って欲しいとのことだ。何でそんなことを言うのだろうか?

「残念ですがもうこの時点で完全敗北です。辺境伯様は捕虜などや領地占領の和解金や賠償金を強欲に取る気は無いのでしょう?私はそれなりに顔が効くし交渉術もある程度知っているので使者として送っておけばより多くの貴族家の統治がやりやすくなります」

 向こうも伯爵家ほどが離反したとなればこちらに従わせやすいだろうと。少し考えれば成功すればこれ以上無駄に戦争する必要もなくなるし失敗しても失うものなど何もない。

「わかった。その提案を受け入れよう。書簡を書くけど南部の貴族の礼儀に沿った書き方をしたいから教えて欲しい」

 そうして教わりながら書簡を書く。もうすでに決着は付いたが追い込まれると何をするのか分からないので不安はある。書き終えてランドール伯爵らに渡して眠りに付いた。
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