オヤジが生まれ変わって?系救世主

無謀突撃娘

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エクリプス辺境伯家10

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「お前たちは何をしていたのだ!攻め落とすどころか騎馬のほとんどを失いただ様子見をしているなど勇猛な南部軍の先陣といえるのか!」

 ナタリー公爵らが先陣を任されたランドール伯爵を責めている。予定では先陣で南部の砦を突破して王国に攻め上がる予定で兵も追加で連れてきた。もちろんその貴族たちは戦争を様子見しようとした者たちが多く力づくで連れてきたのだ。

「ですが敵ははるか2キロ以上からこちらを壊滅させるほどの攻撃魔法を唱える魔法使いが無数にいるのですよ!そんな相手にどのように進軍すればよいのですか!何の壁も無いこの地形では無駄に犠牲者を出すだけです!そんな相手など聞いていませんよ、むしろ犠牲者を出来るだけ少なくして陣を前に進めていたのですよ。そこを評価してください!このようなことなど偵察にいった使者からも聞いておりません!」

「そうです!いくらなんでもこのような相手など想定しておりませんしあまりの威力に防御魔法ですら軽々貫通します。これでは無駄に死人を出すだけです。どう考えても不利すぎます、正直に申し上げればたとえこれだけの本隊と合流したとしても敗北は必死かと!今ならまだ見逃してもらえます。和睦を結びましょう!」

 先陣の他の貴族や騎士達も同じ意見だ。相手はこちらよりも前のほうを先制攻撃してきた。有効射程が足りなかったのかは分からないがあれほどの長距離で強力な魔法攻撃をする魔法使いなどこの世界でも数えるほどしかいないはずだ。加えて上空に生み出されて数え切れないほどの火球。あれはおそらく先ほどの攻撃と同等だろうと考えると密集隊列はただ的になるだけだと判断した。

 次に騎兵のよる分散して接近して砦に近づく作戦に切り替えたが接近し始めるととたんに地面から無数の刃の領域が生まれる。馬上の騎士は鎧で防御できるが馬の足元はがら空きなので簡単にズタズタにされほぼすべての馬が足を切られ馬上の騎士達はなすすべなく落馬。それでかなりの死者が出てなんとか生き残ることが出来た者たちも馬を捨てて刃と刃の隙間をギリギリ通り帰還した。

 1日目の結果は大惨敗といっても良かった。運がいいのは魔法による追撃が来なかったことだろう。

 2日目は先のことから確実に進軍する方法に切り替える。軍や陣地を少しずつ進軍させて確実に間合いを詰めていく。味方の魔法使いは多いが先日の攻撃魔法を見て「あれほどの威力と数になると防ぎようがありません」と言われた。残念ながら魔法使いとして別次元の強さだと判断した。一体どのようにしてあれほどの魔法使いを味方に引き入れたのだ?普通に考えればかなり有名な魔法使いなるがどこの国にもそのような人物の評判は聞いたことが無いし貧乏なディングル王国がなぜそのような人物と縁を結べたのだろう?

 魔法による攻撃は一度も無く確実に陣地を進めていく間にかの領地のことを調べてみた。帰ってきた使者から領主はエクリプス辺境伯となっていてユーフォリア王女とリースリット王女とシャナという女性が傍にいたとのことで戦争反対派の半数は帰ってこないことは報告で聞いていた。領地から亡命した他種族にはあれほどの魔法使いなどいないはずだ。

 なので使者として行った者達に詳しい話を聞くことにした。

「われらに何を聞きたいと?」

 話を聞くと相手が子供で強引に従うように言ったが周りが反対してこちらがキレて宣戦布告、ろくに調査などしていないことが分かった。

「お前たちはなんと言う大馬鹿者だ!新興貴族ならばその能力や領地の調査など必須であろう!」

 こいつらは情報の重要性が何もわかっていない。各国で貴族枠はおおよそ決まっている、それがいきなり辺境伯などに成れるのならばどれだけの力があるのか判断などできない。辺境伯には軍事行動での独断専行権が与えられている。場合によれば主君に逆らって敵を滅ぼすことも出来るのだ。

 これ以上の爵位ももちろんあるがそこには戦時下での優先的な判断は公爵ではなく辺境伯の判断の方が優先される。

 これはかなり厄介な相手なのだと判断して軍を進めることにした。

 3日目からは投石器や移動櫓で攻撃を判断したが投石の攻撃は砦の目前で弾かれ移動櫓は接近させようにも魔法による集中攻撃で簡単に破壊される。なんとか砦近くまで行くとさらに絶望が降り注ぐ。

「なんだ・・・これは・・・?」

 遠目からは判断できなかったがその壁と堀に絶句する。外堀の幅は普通の倍以上あり水が張ってあるし壁の高さは普通の倍近くある、これでは梯子をかけても上まで上れない。さらにその前には木で作った柵がいくつもあり進軍を妨げる。すぐさま破壊しようとするが、

「ダメです!斧を使おうがハンマーで叩こうがびくともしません!エンチャントがかけられています!」

 物理的な攻撃でも魔法的な攻撃でも破壊が不可能なのだ。逆にこちらの武器が破壊される始末で一体どこまで強力なエンチャントをかけたのだ。仕方なく弓隊や魔法使いで攻撃するが壁は傷一つ付かないしそれにすら反撃してこない。こんなこと兵法書のどこにも書かれていないし対応策なども書かれていない。

 結局できたことは陣地を砦近くに進めることだけだった。そうこうしているうちにナタリー公爵や開戦を訴えたルスード伯爵らが到着した。

「なんたる無様な姿だ!それでも同じ伯爵か!恥を知れ!」

 王都に進軍するどころか砦一つすら落とせないことを罵倒される。

「われら本隊が到着したからにはあの砦なぞすぐさま破壊してくれる!」

「無礼を承知で申し上げますがここを攻め落とすことなど不可能です。今すぐ撤退すべきかと」

「なんだと!たかがあのような物など全軍で攻めかかればあっという間に落とせるはずだ!貴様、臆病風に吹かれたのか?それとも敵と内通しているのか?」

 この人達はここがどれだけ恐ろしいか理解していない。15000もの兵をその気になれば近づくまでも無く壊滅させることが出来るはずなのにあえて接近させている。それも本隊が到着するまで待つ余裕に攻撃したのは最初だけで出来るだけ被害を抑えようとする戦闘に反撃すらしない不気味さ。

 まるで獲物を待っているかのようだ。

「お前たちはもう要らぬ!兵権を取り上げる、後方に下がるが良い。兵士たちはわしが指揮を執る!」

 まさかの兵権剥奪。しかも兵士たちをすべて取り上げ自分たちに組み込むなど承知できない。

「いくらなんでもそれは横暴です。どうか温情を」

「うるさいうるさい。このような無様な姿の貴族など必要ない。帰国したら覚悟しておくことだな」

 茫然自失のまま追い払われた。

「いくら好戦派とはいえ常軌を逸しています。これでは無駄な死人が増えるだけなのに」

 わかっている、分かってはいるがどうしようもない。向こうはこちらよりすべてで上回っている公爵でこちらは伯爵。どうしても超えられない壁があるのだ。

「クソッ。たとえ自分はこの戦争で死んでもかまわないが臣下や部下が死んだらその家族にどう説明すればいいのだ」

 自分は貴族で領地を守る責任があるのでそうおいそれとは死ねないが覚悟はある。圧倒的に死ぬのは臣下や部下や兵士たちだ。勇敢に戦って死ぬのなら本望だろうが相手の攻撃力だと跡形も残らないだろう。死体も遺品もなくむごたらしく死んでしまえば当然指揮していた自分に非難が集中するしそれは長く残る。無駄死にさせたのだと。

 正直に言えば和睦を申し入れるか最悪降伏すれば見逃してもらえると思っている。もちろん莫大な和解金で借金まみれになるが命には代えられない。財産や領地も手放すかもしれないし指揮官である自分は殺されるかもしれないがそれで臣下や部下や兵士たちの命が助かるのなら軽いものだ。

 テントに戻ると珍しく神に祈りを捧げていた。どうか無事にみんなが帰れるようにと。

「ふ~ん。戦争に参加した人たちにも現実が分かる人たちもいると思ったけど神様に祈ったって無駄だよ。現実を変えられるのは現実に生きる人たちだから」

「誰だ!」

 周りには人の姿には見えないが美しく愛らしい声が聞こえてくる。

「姿を見せないことは失礼だけど大声を出さないで話を聞いて。単刀直入に答えを言うよ。この戦争に参加した貴族や兵士たちはほぼすべて捕虜となる。そして、穏健派のハインケル公爵らが後方の領地に兵士たちがいないことで領地の制圧をしている。つまりあなたたちには帰るべき場所すらなくなった」

 なんだと!それではもはや南部諸侯軍は終わりではないか。

「あなたはこちらがそちらを壊滅させることが出来るのになぜそれをしないのか疑問に気づいている。ハッキリ言えばこちらとしてもそちらに無駄な死人とお金を出して欲しくないからだよ。アナタさえわたしの頼みを受け入れるのならば先陣に参加した全員をすべて無事に領地に帰してあげることが出来る。アナタはもうあの公爵様らに従いたくないでしょう。無闇に死人を出したくないでしょう。どうしますか?」

 それは悪魔の囁き。だが、皆の命が助かるならどのような条件でも飲もう。

「分かった。我らはこの戦は完全に敗北するものだと思っている。すぐさま領地に帰してくれるのならばそちらに従う」

「契約成立ですね。それでは先陣に参加した仲間たちをここに全員連れてきてください」

 それがどういうことなのか分からなかったがコッソリと先陣に参加した者たちを全員連れてきてしまうことになった。
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