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エクリプス辺境伯家16
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「これで契約は完了です。もう共犯者ですね。ウフフ」
契約の内容を羊皮紙に3枚書く。
「お母さん。もうちょっと優しく出来ないかな。誰も手を付けていないとはいえ交易開始前に出し抜いて利権を手に入れるなんて」
リーシャさんは少し黒かったが違法ではない。数少ない縁を必死につかみとろうとする姿は良くも悪くも純粋ではあったしお互いに不利益ではないからだ。褒められたやり方ではないがそれは前世のわたしから見ればだ。この世界では別にこれぐらいでは文句など言われないし黙らせることなどどうにでも出来る。
「ステラ。私は心配なのです。親である私が生きている間はアナタに良からぬ虫が近づきませんが死んだらどうするのですか?なかなか長生きできないこの世界では子供の将来を安心していられる時間は貴重なのですよ。生まれの順位が決まっているし公爵令嬢という枷はいつでも付いて回りますし女性であることで力ずくで従わされることもあるかもしれません。だからこそ幸せにしてくれる男性が必要なのです」
「でも、こんなのはいきなりすぎだよ」
「上の兄弟たちがアナタをどう見ているのか分かっていますか、『貴族家でもないくせに財力だけで偉いのだ』と思われているのですよ。優秀であろうがなかろうが人の欲望や嫉妬は恐ろしいものです。実の親や兄弟ですら平然と道具にする。大半の貴族はそんなものです」
「・・・・・・」
ステラは黙る。どこかに思うところがあるのだろう。
「旦那様も私の身分が貴族家でないのに一番力があることが心配しています。ハッキリ言えば私たち二人ともこのまま辺境伯様のところに逃げて欲しいと判断しています」
「どうしてお父様がそんなことを?」
「ようするにお家騒動に巻き込みたくないのでしょう。次期当主をなぜ決めていないのか分かりますか?」
「ハンスお兄様とクルードお兄様とフェンリッヒお兄様が争っているからですか?」
他の三人の妻には全員男子がいてほんの少し年が違うだけなのだそうだが妻の身分が違いそれで権力などもそれぞれ違う。良く言えば分散させているが悪く言えば同格の力を持っていることになる。そうなれば当然力関係に差があるわけではないので余計に揉めることになる。
「私が苦労して利権をうまく分散したのに恩義を感じず水面下で足を引っ張りあっている。母親や妻たちは制止していますが旦那様が死んだら派閥が生まれ公爵家は分裂するでしょうね」
「お母さんはどうして止めないの」
チラリとわたしを見る。
「良くも悪くもタイミングが上手く噛み合ったのです。辺境伯様が軍部を潰したので多くのポストが空きましたし他でも役割を分担できる貴族家を増やすチャンスでもあります。軍部の莫大な軍事予算が大幅に削減されたのでその分だけ経済発展に使えるのが大きいです。これまで他の場所と交易を結べませんでしたが辺境伯様の能力ならばすぐにでも販路が作れますので商人にとって大きなチャンスでもあります。種族差別の風潮も薄れ始めていますし他国からの他の種族などを差別せずに見る大きな切っ掛けにもなります。ここまで言えばもう分かりますよね?」
簡単に言えばトップと最大派閥が変わりあらゆる面で変化が起こったのだ。
「政治の方向が完全に変わった、そう言いたいんだね」
「そうですね。南部は諸侯軍の連合で議会制です。半分以上の票を取れば可決されますがそれは軍部に握られていて手が出せませんでしたが先の完全敗北で発言力と予算の大幅な削減が可決されハインケル公爵らの経済と外交を担当する貴族家が今後主導権を握るでしょうから旦那様らからすれば分家などを増やすチャンスでもあり領土も空いています。
加えて使者として派遣した人たちから報告でエクリプス辺境伯家には莫大な利権が数多く存在することが議会で説明され他種族との信頼が深いリーヴリルとは良い関係を長く続けるようにとの意見が採用されましたから大商人である私の実家を中心として多数の商隊がすぐさま編成されるでしょうし他国との外交関係も改善しなくてはなりません。
さらに本来なら莫大な資材や人手で行う開拓もまったく必要とせずに出来ます。当然これも経済発展を進める要因です。そんな相手と誰が敵対できるでしょうか、無理ですよね」
だからこそ力はあるが生まれた身分も順位も低い妻や娘らを遠ざけて醜い利権の争いに巻き込まないようにしたというわけだ。おそらく先ほどの交渉は『一人立ち』できるようにする最後のプレゼントなのだろう。
「お母さんは私にどうしろというの?」
「あなたはこれからはハインケル公爵令嬢ではなく商家の生まれのリミナージュ家の娘として生きろと言っているのです。旦那様やお父さんから許可は貰いました。すでに縁切りは済んでいます」
羊皮紙を渡す、そこにははっきりと『ステラとリーシャはハインケル公爵家から絶縁し今後一切の関係を断つ』と書かれていた。
「お母さんはそれでいいの?あれだけ苦労したのにそれでいいの?」
「正直あれだけ苦労したのに何も感謝しない愚か者たちとは居たくありません。どうせ血の繋がりなどもないし貴族の窮屈さには辟易してたので南部の方針転換を機会に実家を手伝おうと思っていましたから。
リーヴリル様、どうか娘をよろしくお願いします。まだまだ世間知らずですが才能は飛び抜けていますから足手まといにはならないと思います」
頭を下げて頼まれる。
「わかった」
その頼みを正式に受ける。
「その契約書はどうするつもり?」
取引の優遇などの契約が具体的に書かれている羊皮紙。彼女が持つなら問題ないが他の人の手に渡ると面倒だ。内容を書き換えるかもしれない。
「それなら何も問題ありません」
わたしとステラに渡すのは良いが、
「こうすればいいのです」
残りの一枚を5つに分断する。
「別に契約書が分断しても無効という法はありません。分断して管理すれば内容を誤魔化せませんから」
通貨とは違い偽造防止の魔法などは使えないので乱暴だがもっとも効果的な方法だった。
「分断したこれは私が持ち必要が無くなれば焼却するか信頼する相手に渡します。ステラ、私といられるのは街道などの開発が終わる間だけです。その後はわたしは実家に戻りアナタは辺境伯様のところで世話になりなさい」
「・・・はい、お母さん」
涙を流して母親に抱きついているステラ。もしかしたらわたしを生んだ母親も同じ気持ちなのかもしれない。
そうして悲しい夜の中眠りに付いた。その翌日から何事も無かったように明るく振舞う親子は強いのだと思った。半月ほどかけて街道の整備を終えて次の開拓を行う。
契約の内容を羊皮紙に3枚書く。
「お母さん。もうちょっと優しく出来ないかな。誰も手を付けていないとはいえ交易開始前に出し抜いて利権を手に入れるなんて」
リーシャさんは少し黒かったが違法ではない。数少ない縁を必死につかみとろうとする姿は良くも悪くも純粋ではあったしお互いに不利益ではないからだ。褒められたやり方ではないがそれは前世のわたしから見ればだ。この世界では別にこれぐらいでは文句など言われないし黙らせることなどどうにでも出来る。
「ステラ。私は心配なのです。親である私が生きている間はアナタに良からぬ虫が近づきませんが死んだらどうするのですか?なかなか長生きできないこの世界では子供の将来を安心していられる時間は貴重なのですよ。生まれの順位が決まっているし公爵令嬢という枷はいつでも付いて回りますし女性であることで力ずくで従わされることもあるかもしれません。だからこそ幸せにしてくれる男性が必要なのです」
「でも、こんなのはいきなりすぎだよ」
「上の兄弟たちがアナタをどう見ているのか分かっていますか、『貴族家でもないくせに財力だけで偉いのだ』と思われているのですよ。優秀であろうがなかろうが人の欲望や嫉妬は恐ろしいものです。実の親や兄弟ですら平然と道具にする。大半の貴族はそんなものです」
「・・・・・・」
ステラは黙る。どこかに思うところがあるのだろう。
「旦那様も私の身分が貴族家でないのに一番力があることが心配しています。ハッキリ言えば私たち二人ともこのまま辺境伯様のところに逃げて欲しいと判断しています」
「どうしてお父様がそんなことを?」
「ようするにお家騒動に巻き込みたくないのでしょう。次期当主をなぜ決めていないのか分かりますか?」
「ハンスお兄様とクルードお兄様とフェンリッヒお兄様が争っているからですか?」
他の三人の妻には全員男子がいてほんの少し年が違うだけなのだそうだが妻の身分が違いそれで権力などもそれぞれ違う。良く言えば分散させているが悪く言えば同格の力を持っていることになる。そうなれば当然力関係に差があるわけではないので余計に揉めることになる。
「私が苦労して利権をうまく分散したのに恩義を感じず水面下で足を引っ張りあっている。母親や妻たちは制止していますが旦那様が死んだら派閥が生まれ公爵家は分裂するでしょうね」
「お母さんはどうして止めないの」
チラリとわたしを見る。
「良くも悪くもタイミングが上手く噛み合ったのです。辺境伯様が軍部を潰したので多くのポストが空きましたし他でも役割を分担できる貴族家を増やすチャンスでもあります。軍部の莫大な軍事予算が大幅に削減されたのでその分だけ経済発展に使えるのが大きいです。これまで他の場所と交易を結べませんでしたが辺境伯様の能力ならばすぐにでも販路が作れますので商人にとって大きなチャンスでもあります。種族差別の風潮も薄れ始めていますし他国からの他の種族などを差別せずに見る大きな切っ掛けにもなります。ここまで言えばもう分かりますよね?」
簡単に言えばトップと最大派閥が変わりあらゆる面で変化が起こったのだ。
「政治の方向が完全に変わった、そう言いたいんだね」
「そうですね。南部は諸侯軍の連合で議会制です。半分以上の票を取れば可決されますがそれは軍部に握られていて手が出せませんでしたが先の完全敗北で発言力と予算の大幅な削減が可決されハインケル公爵らの経済と外交を担当する貴族家が今後主導権を握るでしょうから旦那様らからすれば分家などを増やすチャンスでもあり領土も空いています。
加えて使者として派遣した人たちから報告でエクリプス辺境伯家には莫大な利権が数多く存在することが議会で説明され他種族との信頼が深いリーヴリルとは良い関係を長く続けるようにとの意見が採用されましたから大商人である私の実家を中心として多数の商隊がすぐさま編成されるでしょうし他国との外交関係も改善しなくてはなりません。
さらに本来なら莫大な資材や人手で行う開拓もまったく必要とせずに出来ます。当然これも経済発展を進める要因です。そんな相手と誰が敵対できるでしょうか、無理ですよね」
だからこそ力はあるが生まれた身分も順位も低い妻や娘らを遠ざけて醜い利権の争いに巻き込まないようにしたというわけだ。おそらく先ほどの交渉は『一人立ち』できるようにする最後のプレゼントなのだろう。
「お母さんは私にどうしろというの?」
「あなたはこれからはハインケル公爵令嬢ではなく商家の生まれのリミナージュ家の娘として生きろと言っているのです。旦那様やお父さんから許可は貰いました。すでに縁切りは済んでいます」
羊皮紙を渡す、そこにははっきりと『ステラとリーシャはハインケル公爵家から絶縁し今後一切の関係を断つ』と書かれていた。
「お母さんはそれでいいの?あれだけ苦労したのにそれでいいの?」
「正直あれだけ苦労したのに何も感謝しない愚か者たちとは居たくありません。どうせ血の繋がりなどもないし貴族の窮屈さには辟易してたので南部の方針転換を機会に実家を手伝おうと思っていましたから。
リーヴリル様、どうか娘をよろしくお願いします。まだまだ世間知らずですが才能は飛び抜けていますから足手まといにはならないと思います」
頭を下げて頼まれる。
「わかった」
その頼みを正式に受ける。
「その契約書はどうするつもり?」
取引の優遇などの契約が具体的に書かれている羊皮紙。彼女が持つなら問題ないが他の人の手に渡ると面倒だ。内容を書き換えるかもしれない。
「それなら何も問題ありません」
わたしとステラに渡すのは良いが、
「こうすればいいのです」
残りの一枚を5つに分断する。
「別に契約書が分断しても無効という法はありません。分断して管理すれば内容を誤魔化せませんから」
通貨とは違い偽造防止の魔法などは使えないので乱暴だがもっとも効果的な方法だった。
「分断したこれは私が持ち必要が無くなれば焼却するか信頼する相手に渡します。ステラ、私といられるのは街道などの開発が終わる間だけです。その後はわたしは実家に戻りアナタは辺境伯様のところで世話になりなさい」
「・・・はい、お母さん」
涙を流して母親に抱きついているステラ。もしかしたらわたしを生んだ母親も同じ気持ちなのかもしれない。
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