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エクリプス辺境伯家15

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「まずは南部の交易を始めるに当たって常時使用するメインとなる道を決めてからそれに沿って整備することにする。ステラ、リーシャさん。よろしくお願いします」

「はいっ!まず一番大きな道ですね、そうなるとまずは・・・」

 ステラとリーシャさんが地図を見ながら大まかにすぐさま結ぶべき道の優先順位をつける。彼女の母親は南部最大の商家の出なので当然頻繁に使う交易路は分かっているので連れてきている。

 それ以外にも距離や方角を測量できる人などを派遣してもらっている。自分でもできるが専門家に任せたほうが楽だし確実だ。なお、来ている全員ハインケル公爵の息のかかった人だけだ。まずは彼らから信頼関係を築こうと判断したからだ。

「まずはこの砦と南のエルガー子爵の領地まで一直線に結びます。ですが、本当にこんなことが出来るのですか?はっきり言って街道工事の重要性は理解していますが普通ならば切りそろえた石材や人間が多く必要で何十年もかかるのですが」

「お母さん。辺境伯様なら大丈夫だよ」

 他の人達には【空駆ける馬車】に乗っていてもらう。恐ろしく高速で整備するので歩いて移動していては時間がもったいない。

「シャナ。すまないけど領地の統治はお願いするね。しばらく帰って来れないから」

「わらわに任せておけ」

 彼女なら問題ないだろう。

「それじゃ、《世界再構築》!」

 地面のマップを見るとそれなりに距離があるな。普通ならこれだけで数年はかかるがわたしならすぐだ。すぐさまデザインして実行すると地面が光に包まれて荒野に整備された街道が現れる。

 全員が驚愕の表情を浮かべているがすぐさま馬車に乗って南の町まで向かうことにした。

「これは恐ろしく早いですし振動などもありませんね。街道も何の問題も無く設計して作られています。どれだけ豊かでもここまで早く工事を終えるなど不可能です」

 街道は南部が比較的雨が多いことを考慮して領地よりもさらに水はけをよくするため4層にしているし補強にコンクリートなども使っている。所々止まりきちんと作られているのか確認しつつエルガー子爵の領地まで見事に繋がった。

 突然見事な街道が出来て領民は騒然となっている。そうこうしている内にエルガー子爵が臣下を連れて現れてた。

「お前たちは北から来たのだな?一体なぜ突然に街道が整備されているのだ、説明し・・・、これはリーシャ様にステラ様まで、どうしているのですか?」

「エルガー子爵、いきなり整備された街道が現れるが不自然なことは分かりますが私たちですらまだ半分夢のように思っていますが現実です。この工事は南部国家再建のために必要な仕事ですが一切負担させないことをお約束します。これから整備される街道は好きに使っていいそうです。私達はすぐに他の街道も整備しなくてはいけませんので説明は後でします。よろしいですね」

 敬礼して領民に説明をし始める子爵。それなりに有能なようだ。

「ここから東と西と南の町まで3本の同じぐらいの道をお願いします」

 すぐさま道を創り出す。とりあえず地図上では繋がっているが実際に確認するのは後だ。まずは南まできちんと綺麗に結んでからでないと将来不具合が出てしまう。

 南部の最南端の場所まで一気に街道を繋げる。途中の領地では東と西の一番近い町までとりあえず結んでいる。

「南はここまでです。これ以上は魔族の領地になりますから」

「魔族?」

 始めて聞く種族だ。一応ノートリアスから教わった説明だともっとも最初に生み出された種族で一番肉体も魔力が高いとのことだ。

「魔族は領地から普通は出てきませんが侵攻をしたら相手を完全に滅ぼすまで容赦しません。残念ながらステータスが格段に高いので無闇に入ることは出来ません。向こうはこちらなど気にもかけていませんから愚かなことをしなければ何の害もありません」

 リーシャさんからの説明で納得する。だけど、いつか魔族とも話しをしてみたいと思った。

 とりあえず南までは工事が終わり夕暮れになったので野営することにした。食事はもちろんわたしが作る。調理場を作るのが面倒なので簡単なものだが味は保障済みだ。二人はわたしのテントで食事をしている。

「簡単なのに非常に美味しいですね。これは領地で飲食店を作れば儲かりますね」

「お母さん。辺境伯様の領地ではこれと同じぐらい美味しい料理が数多くあるよ」

 これはすぐさま人を送り調べないといけないです、とぼやく。実家が商人なのでそういう計算が速い。話は領地で産出される品々の話に移る。

「辺境伯様のところではそれらの品々がそんな値段で取引できるのですか。この工事が終わったら旦那様や父さんにすぐさま商隊を多数派遣して交易相手の信頼をガッチリ掴んでおかないといけませんね。他の相手にこれは渡せません。この情報は計算できないほど大きいですよ」

「お母さん、辺境伯様はそれ以外にも優れた才能を持っているんだよ」

【空駆ける馬車】もわたしが作ったことを説明される。あんまり情報を流して欲しくないんだけど。

「〈マジック・クリエイター〉のジョブ持ちですか。これほどの物を作り出せるとはとてつもなくすごいですね。これだけでも欲しいくらいです。ステラを妻に貰ってもらえませんか?」

 公爵と同じことを言われるが今はまだやるべき仕事が数多くありそれを解決してからでないと返事は出せないことを説明すると、

「それならその仕事を手伝うという条件の中で妻に娶るということでもかまいませんよ。ステラだって辺境伯様に思いを寄せているみたいだしさほど年齢も離れていないし、こんなに完璧なら是非とも結ばれて欲しいし」

 ステラが赤面して母親を止める。今はそれは内密の話なのだ。公爵からは「早く結婚してほしい」とひたすら言われているのだ。こちらが何処の誰の子か分からないし一代で興した新興貴族だと説明するとさらに目を輝かせるリーシャさん。

「私も貴族の生まれではありませんし身分など能力しだいでどうにでもすることも出来るのが南部です。他国では種族により違いますしここでは他種族に酷い差別をしていましたがその貴族たちはすべて改易させられたので少しでも早く関係改善をしたいのですし、それに辺境伯様は他種族の信頼が厚いのでしょう?」

「・・・・・」

「沈黙は肯定と受け取りますよ。商人は利に聡い。いかに有益か無益かをすぐさま判断しなくてはいけませんし時間は有限で最も高い。誰よりも早く商機を見つけて誰よりも早くそれを手にいれ誰よりも早く市場を開拓したものが一番利益を手に入れる。世の中はすべてこれだと言えるでしょう」

 この人は成功者の心得を知っている。隙を見せることは出来ないのだと判断する。

「そう警戒しないでください。わたしのとってアナタは今までで最高に魅力的で難敵だと判断しています。私の順位は四番目で娘が一人いるだけですがおかしいとは思いませんか?上には生まれの良い妻や姉妹がいるのになぜ私たちなのか?それは私が妻の中で一番力があるからですよ。嫁いだのは支配体制を確立することと関係がありますが実家は南部を牛耳るリミナージュ商会の会頭です。これだけでも大半は黙らせられますよ」

「それと娘の結婚とどういう関係があるの?」

「内緒の話になりますが他の妻たちの子供らのポストや利権や結婚相手はほとんど私が決めたんですよ。実家の莫大な財力とコネとパイプで時に懐柔し時に脅してライバル蹴落として公爵家の財源を完全に支配しています。旦那様は当然知っていますし他の妻たちにもそれを匂わせるように見せていますから攻撃できないしこちらが隙を見せない限り誰も手出しが出来ないのですから」

「もしかして交易品の価格や取引を優遇しろというのかな?」

「お母さん。あまり無理押ししたらダメだよ。お父さんにも止められているでしょ」

「他に邪魔者がいない今だからこそ攻めるのです。私は強欲だと自覚していますが何も娘の恋慕している相手を取ろうとは思っていません。南部貴族が大幅に削られた今だからこそさらなる実権を握ろうとしてもおかしくはないでしょう。それが実家の利益、ひいては南部全域の発展に繋がるのですから」

「他の貴族家などはどうするの?こちらに何のメリットがあるの?」

 ここを聞いておかなければいけない。もし、こちらの予想どおりの言葉が出てきたのなら受け入れる。

「南部の公爵家は三家で軍部を預かるナタリー公爵は潰されましたしもう一つは外交官的なポストにいて同格ですが住み分けがキッチリしているので争うことはありません。戦争に参加した軍部系の貴族はほとんどいなくなりましたからこれからは軍事国家ではなく経済国家に舵を切ることになるでしょう。そのためには資源や交易を誰よりも開拓しなくてはいけません。どうでしょうか?そちらの交易品を優先的に買う代わりに塩などを安く優先的に回すという条件では?南部はもっとも海に面していて塩の生産は世界一です、お互いに甘い汁が吸えますよ」

 こちらが内陸で海に面していないのでどうしても塩などが不足する。わたしが生きているうちは問題ないが必需品である塩などはどうして必要だ。北のほうは山岳地帯なので高く売れるし西のほうは森林地帯だし東のほうでも不足している。大量に安く購入できる相手を探していたので渡りに船だった。一生付き合える相手だと判断した。
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