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【漢字一文字】海上ブランコ 〜障害を持つ姉と妹、家族の願いはすれ違い〜

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ずっと一緒にはいられない

「文章力向上委員会」に掲載していた短編より。
お題は「容」
2007年7月


 柏島につながる橋の下にはブランコがある。

 乗り始めたときは地面の上だったのに、満潮時には海になるのが面白くてはまった。
 凪いだ内海で乗るブランコは安全で、爽快だ。
 上手に漕げない私のかわりに、いつも姉が背中に立って漕いでくれた。
 ブランコの上まで水が満ちて漕げなくなると遭難ごっこをやった。
 私はちょっと水が怖かった。
 でも最後は必ず姉がブランコの上から手を差し伸べて私を助けてくれるから安心していたんだ。

 姉のことを恥ずかしいと思い始めたのはいつだろう。
 知的障害。学校に行くようになってはじめて知った。姉が勉強を嫌がって暴れていること。それでからかわれていること。

「リリコにはユニコが頼りなのよ」

 姉が痣を作って帰るたびに母は言った。
 頷いてみせるけれど学校では知らんぷりしていた。
 姉は私が困っているとき、いつだって手を差し伸べてくれたというのに。

 今年はいよいよ姉が卒業する。母は姉を地元の中学に行かせたがっている。
 地域で理解され、友達に助けられながら暮らしていけるようにと願って。

 私は大反対。学校での姉を母は知らない。
 いつまでも無邪気な子どものままの姉はみんなのイライラを一身に引き受けるスケープゴートだ。

「リリコも私たちと同じ世界に生きているの。そのことを忘れないで頂戴」

 母はぴしゃりと言う。私はそんな姉をもう見ていたくはないのに。

 何年かぶりに姉を誘って海上ブランコに出かけた。
 姉は無邪気に喜んで、小さい頃のようにブランコを漕いでくれた。揺れるブランコの上で私は言った。

「養護学校にいきなよ。勉強に苦しむこともなくなるし、友達もきっとできるから」

 足に海が迫っていた。白い太陽がまぶしい。きっと背中の姉も同じ景色を見ている。

「ユニコとおんなじところがいい」

 姉は言った。

「私が通うようになるまで一年間、一人ぼっちなんだよ。それに私」

 何もしてあげなかったのに。
 腰が浸かりブランコが止まった。スカートが張り付き、パンツが濡れて変な感じ。なんだか泣きそうだ。

「今日はどこに行こうか」

 姉はごっこ遊びを始めるつもりだ。わざと飛び込んでおどけてみせる。

ーー大海原に投げ出された二人の少女。頼みは天から伸びた綱と板切れ一枚。
 流されるな。陸地は見えてる。
 漕いで、漕いで、漕ぎまくれ。
 飛び降りてバタ足で運ぼうか。
 やや、小魚発見。ついてまいろう。それ急げ。
 額に髪を張り付かせた姉が手を差し伸べるーー

 小さい頃とずっとずっと変らない、大好きなお姉ちゃん。
 私はぽよぽよ柔らかい姉の手をぎゅっと握った。
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