2 / 24
その2 秘密。
しおりを挟む目の前でうなだれて座っている少女は紛れもなく弟の陽介だった。
弟が女の子になった?...。
私は自分の目を疑いながらも、まじまじとその姿を見つめた。陽介はいたたまれないのか? 顔を伏すばかりで決して私の目を見ず言葉も発さない。
私は陽介の隣にいる少年も気になったが(どういうことなのか?)担当署員の方に目を向けた。
「弟さんは被害者なので別に悪いことをしたわけではないのですが、通報もありお連れの野上さん(少年)も殴られた形跡があります。お二人とも高校生ですから、そのまま帰すわけにもいかなかったんですよ。一応保護者の方に連絡して確認のうえで引き取ってもらおうということで...」
詳しくはこうだ。
女子高生の制服を着て女装した陽介は野上君という少年と共に街をぶらぶらしていた。そこを街の不良に絡まれ、ふたりは路地裏に連れ込まれた。
陽介は不良に卑猥な言葉で冷やかされ痴漢行為も受けた。
更に陽介が女ではなく男であることが分かると、不良たちは面白がってスカートの中に手を入れ尻を触った。
必死に止めようとした野上君は、不良たちに数発殴打された。
その一部始終を誰かが見ていて通報したのだろう。警察が駆けつけると既に不良たちは逃げ去った後だった。
ふたりを引き取り、署を出ようとする際に署員が声をかけてきた。
「小林陽介君でしたね? 今は色々と男の娘とか流行っていて自由な世の中にはなっているけど、刺激的な格好にならないよう気を付けた方がいいと思うよ。スカートが短すぎるし、それを挑発と受け取る輩もいるからね...」
陽介も野上君も、私の後をうつむいて黙ったまま歩いてくる。警察は最初野上君の家に電話したようだが、連絡が取れず陽介の家に電話すると兄である私が出たのだそうだ。
連絡を取れたのが私で本当に良かったと思う。父や母が陽介のこんな姿を見たらどんなショックを受けるか分からない。それは女装男子とデートしていた野上君の両親も同じだろう。
「野上君って言ったっけ? 今日は陽介の巻き添えになって、必死に守ろうと殴られたそうで悪かったね...」
「そ、そんな... 誘ったのは僕の方だったし、、それに、このことは家の人に言わないでくれますか?」
「心配しなくてもいい。これは秘密にしておくから」
少年は安心したようにペコリと頭を下げると、陽介の方に目をやり去って行った。私は野上君という少年と陽介はどんな関係なのか気になったが、素直でシャイそうな彼に好感を持った。
女子高生姿の陽介は警察署にいる時から決して私と目を合わせない。一言も喋ることもない。私にしてもどう声をかけていいものか?
「陽介、お父さんやお母さんに知られるのを心配しているんだろ。大丈夫だよ、オレは絶対言わないし言えるわけないだろ。安心しろ!」
「・・・・・」
陽介は黙って目を上げた。
そこで初めて少女の陽介と目が合う。
なぜか私は彼女?にドキッとした。
(け、結構かわいいな...)
「とにかく陽介、そんな格好で家に帰るわけにはいかないな。着替えはどうするんだ? どこで女装したんだ?」
陽介が女子高生に変身した場所はカラオケボックスで、男の服はコインロッカーに置いてあるという。
私は陽介と一緒にコインロッカーに服を取りに行き、それに着替えるためカラオケボックスに入った。
「せっかく、そんなかわいい格好してるんだから、そのまま何曲か歌っていかないか? もうバレちゃったんだから開き直っちまえ! アハハ」
秘密(女装)がばれ、その恥ずかしさと兄である私がどんな反応を示すか心配だったのだろう? 硬かった陽介の表情がやっと和らいできた。
せっかく一時間ボックスを借りたので2~3曲ずつ歌った。陽介は隠れて発声練習もしていたのか歌声も女の子。
女子高生に扮した陽介は、流行りのポップなかわいい系の曲ではなく、しっとりと落ち着いた曲が好みのようだ。
そんな陽介を見て私は妙な気持ちになりそうだった。目の前にいる少女が弟の陽介だとは信じ難いのだ。
(なんて短いスカートだ、、警察の担当署員も “スカートが短すぎる” と言ってたな? 自分の弟ながら変な気持ちになりそうだ。こいつは男なのに...)
思い起こせば、小さい頃から陽介はそんな傾向があったような気がする。
色白で華奢、顔が小さく、見た目だけでなく所作も女の子的だった。
そんな陽介に父や母は「もっと男らしくしなさい!」とよく叱っていた。
私は身長176、体重も70前後ありスポーツ好きで活発な方だと思う。
陽介の身長は見たところ170あるかないかだろう? でも、体重は50そこそこしかないように感じる。色白でしなやかな身体付きは線が細く、性格も女性的で対照的な兄弟だと思う。
カラオケボックスに美しい女子高生とふたりきり。私はこの少女とデートをしているような錯覚に陥った。
(いかん、いかん、こいつは弟だ)
チェックのミニスカートから伸びる陽介の美脚、痩せている割にプリッとしたヒップラインに目を奪われた。私は後々まで陽介の美脚とヒップラインの虜になることをこの時は知らない。
私の目が陽介のお尻に釘付けになっていると目が合った。すると、陽介が挑発的な微少を浮かべる。私は慌てて目を逸らし歌詞本を捲った。
(気のせいさ、、陽介が兄であるオレを誘惑するわけがない。オレも変な気を起こさないようにしないとな...)
時間になる前に、陽介は着替え女子高生から普通の男子に戻った。私はちょっぴり勿体ないような気がした。
普段の陽介は地味で目立たない弱々しい男子なのに、女子高生となった彼は明らかに華がありそれに表情も自信に満ちていたからだ。
(着替えてみると普通の男じゃないか)
そのまま何事もなかったかのように、私と弟は家に帰るのだった。
その後、陽介は少女に変身しているのだろうか?気になっている。部屋ではしていると思うが、野上君とはどうなったのだろうか?
陽介がトランスジェンダーなのか、単なる女装趣味なのかは知らない。
私はLGBT問題に関しては理解しているつもりだが、いざ自分の弟が少女となって現れると複雑でもあった。
女子高生姿の陽介に心奪われつつも
その姿のまま外を歩いてほしくない。
カミングアウトしてはダメだ。
私は偽善者的なところもあるので自分の身内が性的少数者だと世間に知られることを恐れているのだ。
私はあの一件以来、一度も陽介に女装の話題を触れることはなかった。
難事はその二ヶ月後に再び起こった。
晩夏から初秋にかけてだったと思う。
日曜日だった。
私は日頃の疲れで10時過ぎまで眠っていたのだが、遅い朝食、否、朝昼兼用の食事をするためリビングに向かう。
父はしばらく出張中であり、陽介もどこかへ出掛けているようだ。
家には母とふたりだった。
キッチンから前夜買っておいたカップ麺とコンビニオニギリを持ってリビングに向かった。テレビのスイッチを点けカップ麺にお湯を入れた。
周囲を見まわすと、ある一点に目が止まった。 ????
壁にかかったハンガーに夏用の白いセーラー服がきれいに吊るされている。紺襟に三本線が入った典型的なセーラー服がきれいにかかっている。
それにスカートと赤いスカーフまで。
なんなんだ?
それにジッと目を凝らしていると、母がリビングに入ってきた。
「孝介、聞いてよ! 陽介の部屋にこんなものがあったのよ。男の子なのになんでセーラー服があるのかしら...」
「お、お母さん。勝手に陽介の部屋に入って行ったの?」
「だって、、鍵が掛かってなくて半分ドアが開いてたから覗いたらベッドの上にこんなものがあったの。クリーニングに出して取りにいったものね」
「でも、なんでこんなリビングに当てつけみたいにハンガーで吊るすんだ?
そのままにしておけばいいのに!」
「孝介、何言ってるの? こんな、男なのに気持ち悪い、、帰ってきたら問い質さないと。ああ~嫌だ、、」
大変なことになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる