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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(15)雌蛇の遺伝子。

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“大晦日格闘技男女大戦争”


ジェンダーバトル第一試合目はマスターズレスリング45才~50才の部で、今年全国3位になった小杉稔と、謎の16才少女奥村美沙子の一戦である。
両者あまり知名度はないが、小杉はレスリング関係者からは結構知られており、その真面目で熱心な高校教育現場での指導は定評がある。

対する奥村美沙子という少女は全くの謎。ただ、NOZOMIの内弟子?ということと、中学1年の頃までは体操をやっていたが、身体が大きくなってきたので柔道に転向したのだという。
それだけの情報しかない。


(実況)

「さあ! まずは奥村美沙子選手が入場します。彼女は一年前まではなんとまだ中学生だったのです。現在は高校1年の16才。こんな、まだあどけなさの残る少女が、46才とはいえ歴戦の男子レスリング選手とどうやって戦うというのか? まるで分かりません」


奥村美沙子はスポーツブラと下半身にフィットしたレギンス。
上下ともNOZOMIカラーの真紅。
レースクイーンのような衣装に身を包んだモデル風美女3人に先導され花道を歩いてきた。
奥村はそんな派手な演出に、恥ずかしそうに俯き加減にリングへ向う。


対する小杉稔の入場は、ブルーのレスリングウエア(シングレット)の上にガウンを引っ掛けただけの至ってシンプルな入場。奥村美沙子とは対照的にまっすぐリングを見つめ、険しい表情で緊張しているのが見て取れる。

この試合は62kg以下契約。
両者組技系(レスリングvs柔道?)であり打撃なし素手のグラップリングルール。4分3Rで行われことになった。


試合前の計量。

小杉稔(46) 170.2cm  61.8kg
奥村美沙子(16) 171.2cm 60.5kg


(実況)

「さあ、試合が始まりました。奥村選手はかなりの美少女だぞ。体操をやっていたということでしなやかそうでスタイルもいい。対する小杉選手は46才とはいえシングレットから覗く肉体はかなり鍛えられています」


小杉は今、こんな大観衆の前で一年前まで中学生だった女の子と戦うことが信じられなかった。見た感じは真面目で大人しそうな美少女だ。

(なぜ、自分はこんなオファーを受けたのだろうか? 女の子と戦うなんて...)

最初にオファーがあった時は当然断った。しかし、ある時、あのNOZOMIが直々に小杉の元にやってきて色々と話しをした。彼はNOZOMIの考えに共感したのだ。気が付けばオファーを受けていた。実直で真面目な彼は一度受けたものは絶対断れないたちである。

(NOZOMI? あの山吹望という、自分からすれば少女と言ってもいい女性だが何とも言えぬ魅力があったな...)


奥村美沙子は柔道部に席を置くといってもまだキャリアは2年半である。
小杉との試合に柔道着で臨むと思われたがスポーツブラにレギンス。
柔道というより、NOZOMIから柔術を学んでいると思われる。あのNOZOMIが期待する雌蛇の遺伝子なのか?


両者、低い構えから相手の様子をうかがう。小杉はこんな少女、タックルから簡単にテイクダウンを奪い上からの固め技で簡単にタップを取れると思ったが、そこは大人の男として自分から攻めるわけにはいかない。。
奥村が小杉の片足を取りにきた。小杉はそれをガッチリ受け止める。

(軽い! やっぱり女の子だ...)

小杉はそのまま奥村を持ち上げると、後方に反り投げマットに叩きつけた。
そして、上から押さえ込み首固めでタップを奪う態勢に入った。

しかし、奥村は巧みに首を丸めそれを許さない。それでも小杉は強引に固め技に持っていこうとするが、奥村の信じられない柔軟さに戸惑う。

(こいつは軟体生物なのか? ゴツゴツとした男同士の筋肉と筋肉のぶつかり合いとは全然違う!そう言えば彼女の師匠?であるNOZOMIは『雌蛇』という異名があったな、、この身体構造は男とは異な生き物だ)

上から攻める小杉。
奥村はそれを必死に防いでいる。さすが元体操選手だけあって、その柔らかさはNOZOMI以上かもしれない。
そんな攻防がずっと続き、小杉は何度もテイクダウンを奪い固め技を狙うが蛇のようにスルスルと逃げられる。
攻めあぐねるまま1Rが終了。


(実況)

「攻めても攻めても極めることが出来ません。なんて柔らかいんだ!まるでNOZOMIのコピーを見ているような奥村選手。雌蛇の遺伝子なのか?」


第2Rに入っても1R同様の攻防が続き試合は膠着状態。
レスリングルールならフォールで終わりなのだがこれは総合格闘技ルール、相手からタップを奪うかKOするしかないのだ。小杉は焦りはじめていた。
密着状態から極めるのは難しいと考えた小杉は投げ技で何度も何度も奥村をマットに叩き付けた。
しかし、持ち上げると小杉の首に腕を巻き付け、胴に脚を巻き付けその衝撃を巧みに緩めている。

小杉は何度マットに叩き付けても必死にそれを防ぎ立ち上がってくる奥村美沙子に感動していた。
見ると、歯を食いしばってうっすらと目に涙をためているではないか。

そして2Rも終了、最終Rに入った。


(実況)

「試合は最終ラウンドです。奥村美沙子の柔軟さに、そのディフェンステクニックに驚かされますが、まだ彼女の攻める場面がありません。このまま判定に持ち込まれるのか?!」


小杉は奥村の戦う姿勢に感動ばかりしているわけにはいかないと思った。

(勝つのは自分だろうが、判定まで持ち込まれたら? 相手は16才の女の子なのだ。屈辱以外の何ものでもない)

それでも同じような攻防が続き時間は過ぎていく。
しかし、3Rも後半になると46才の小杉に疲れが見えてきた。ずっと相手の身体をコントロールし攻めているのだ。
逆に奥村に疲れは見られない。

そして、時間もあと1分を切ろうとしている時だった。上になっていても疲れで攻め切れない小杉の首に、下から奥村の蛇のように柔軟な脚が巻き付いてきた。小杉は奥村の両足に首と肩をロックされ腕を引き込まれた。

下からの三角絞めである。

必死に力で振り払おうともがくと、三角絞めは不完全だったのか?どうにか外すことが出来た。
すると、奥村は小杉の背後にスルスルっと回り込むとその首に腕をまわす。
更に足も胴にまわった。

胴絞めスリーパーである。

小杉稔は16才の少女、奥村美沙子にタップを奪われてしまうのだろうか?

しかし、またしても不完全でその腕がロープのようにきっちり首に食い込むことはなかった。

残酷にも最終R終了のゴングが鳴る。


判定は終始奥村の身体をコントロールし支配していた小杉が勝利。
しかし、見ている者には最後の1分間で不完全ながら三角絞めから胴絞めスリーパーで攻め立てた奥村の健闘の方がインパクトが強かったであろう。
勝ち名乗りを受けながらも、息が上がりフラフラしている小杉と、悔しそうに唇を噛み締めている奥村。
あと1分あったらどうなっただろう?

小杉稔は(実質自分の負けだな...)と思ったが、そんな悔しさと恥ずかしさよりも清々しさの方が勝っていた。

悔し涙を流す奥村美沙子に近付くとその右手を取り高々と持ち上げた。

場内から大拍手が湧き起こった。

「奥村くん、実質君の勝ちだよ。私に余力はなかった。君のファイト、感動した! ありがとう」

がっちり握手をするとハグをしてお互いの健闘を称え合った。

無名で地味な性別も年齢も大きく違う格闘家同士ではあったが、まさしく感動的な名勝負であった。


そして、大晦日格闘技男女大戦争。
ジェンダーバトル2試合目が始まる。


(リングアナ)

「シルヴィア滝田選手の入場です!」


真紅の空手着に身を包んだシルヴィアが花道を歩いてきた。
そんな彼女を先導しているのは、またしてもレースクィーンのような衣装の美女3人であった。
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