女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ

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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(19)NOZOMIの思い。

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NOZOMIとの試合で鎖骨粉砕骨折させられたダン嶋原はかなり重症らしく、
手術後全治3~4ヶ月、本格的な練習再開は半年後、それから試合ともなると復帰は早くとも一年後になる。

メンタルをやられたと噂の村椿和樹と違って、ダン嶋原は精神的に強いというかあまり過去を引きずらない性格。物事を深刻に受け止めず挫折を糧に前に進もうとするポジティブな男だ。

「試合復帰まで一年も必要なのかよ? NOZOMIよ、今度の大晦日はオレの方から挑戦するから顔を洗って待ってろよ。逃げるんじゃないぞ!」

手術後、彼はマスコミの前でそうリベンジ宣言した。女子選手に敗れた恥ずかしさから心を折られ隠遁生活を送る村椿和樹と違って、嶋原は恥ずかしさより悔しさの方が強いのだ。


話題になった『大晦日格闘技男女大戦争』は男子の2勝1敗であったが、奥村美沙子に勝利した小杉稔にしても判定であり余力なく、もう1ラウンドあれば奥村が有利であっただろう。
翔龍道に逆転KO負けしたシルヴィア滝田は完全に相手を見下した戦い方で油断していたとしか思えない。ダウンを奪った段階でマウントになりパンチで仕留めていればシルヴィアが勝っていた可能性が高かったのだ。

そして、NOZOMIのインパクト。


男子vs女子の格闘技戦は、キックボクシングだけでなく各格闘技界に波紋を広げていたが、第一人者が女子選手に負けたキック界の面子だとか、その他格闘技であってもNOZOMIに勝てる者はいるのか?という狭い格闘技界の問題だけでなく「男」の面子に関わる議論にまで発展していった。


女子選手に負ける男子選手が不甲斐ない、だらしない。誰かNOZOMIを倒してやろうって男はいないのか?
女に負けて恥ずかしくないのか?

世間からもそんな声が漏れてきた。


「これからは異種格闘技戦は封印して総合格闘技、MMA一本で行きたいと考えています。誰か、総合ルール、65Kg以下(総合ライト級?)で、私と戦おうっていう男子選手はいませんか?」

公にNOZOMIはそう宣言した。
しかし、キックボクシングルールで最強ダン嶋原をKOしたのを見せられたら怖気づくだろう。NOZOMIが得意にしているのはムエタイがベースの打撃ではなく柔術なのだ。その柔術の技術は悪魔的で、柔らかくしなやかな身のこなしは雌蛇と形容され相手は無間地獄に陥り逃れられなくなる。
そんな柔術を禁じられたキックルールで最強男子キックボクサーをKOしてしまったのだから、総合ルールでの彼女は一体どれほど強いのか?


「誰も挑戦してきませんね。 それじゃ70Kg以下まで挑戦者を広げます。男は女より強いんでしょ? 私はか弱き女ですよ。誰か男の強さを証明して...」


NOZOMIがダン嶋原、村椿和樹というキック界の大スターを連続で撃破したことは海外にもセンセーショナルに報じられ、格闘技界だけに留まらず各方面に衝撃を与え注目された。
NOZOMIは格闘家だけでなく、モデル活動もしている。否、むしろ彼女が世に出て有名になったのはそっちの方でカリスマモデルとも言われていた。
その美貌は多くのファッションデザイナーにも注目され、パリコレにも呼ばれたとか、ミス・ユニバース日本大会に出場したら優勝候補なのではないかとの声も聞くほど。

そんな絶世の美女が、現役最強?否、
史上最強?との声もある男子キックボクサーをガチンコで倒し、その鎖骨を砕いてしまったのは驚くべきことで、様々なメディアで取り上げられ議論を巻き起こすことになった。

所謂ジェンダー論争である。


最初は男女が同じリングで真剣勝負することを奇異の目で見ている者が多かった。そして、女子の勝利に痛快な思いをした者もいただろう。
しかし、最強男子キックボクサーの嶋原が敗れると “シャレにならない” という声も多くなり、保守的な考えの持ち主からは批判の声も出てきた。

男の癖に女に負けるなんて、この恥知らずめ! 誰かあの女(NOZOMI)に男の強さを見せつけようって奴はいないのか? 女に舐められたままでいいのか?

最初は女子選手に負ける男子選手の批判ばかりであったのが、やがてそれは男子に戦いを挑むNOZOMIにも向けられるようになった。

TV番組にNOZOMIがゲスト出演していた時のこと。ある識者が質問をしてきた。彼はNOZOMIのジェンダー論に以前から批判的であった。


「アナタはなぜそんなに執拗に男子選手を挑発するのか? アナタが強いのは認めるよ。でも、敗れた男子選手の男としての立場も考えてあげるべきではないのかな? 男子選手の積み上げてきた実績もプライドもズタズタにしてその人生をも狂わせた。強さを求めるのもいいけど、女性はやさしさの方が大切じゃないのかな?」

NOZOMIはそれをうんざりした顔で聞いていた。

「男としての立場? 実績?プライド?そんなものは過去に女だからという理由だけで差別を受けてきた多くの女性たちの苦悩に比べれば大したことはないですよ。なぜ、女に負けると過去の実績に傷が付くんですか? プライド?
それはどこから来ているのです? 世間の目じゃないかしら? 彼らを傷つけているのは私じゃない。未だに残っている保守的な世間の目なんですよ」

「何を屁理屈言ってるんだ! そういうことを言ってるんじゃないんだ。貴方に敗れた嶋原は鎖骨骨折の重症、村椿はメンタルをやられ消息不明。堂島に至っては...」

ここで、その識者は言い過ぎたと思ったのか?言葉を濁した。

「残念ですけど、女子(私)に敗れた男子に向ける世間の目は冷たい。男女共同参画社会になっていこうとする時代です。格闘技を通して、私はそんなジェンダーギャップと戦っていきたいと思うのです。男子が女子に負けることがあっても普通のことと捉える社会になってほしい。堂島源太郎さんのことも仰ってましたが、私は彼の為にも頑張らなければならない。挫折したら天国で堂島さんが、お前の覚悟はその程度のものだったのか?俺は何の為に命を落としたのか?って、悲しむに決まってますからね...」


このNOZOMIの発言は大きな反響がありジェンダー論争は益々加熱する。

やがて、春がきた。

NOZOMIが新たな行動を起こす。

マスコミを集めて大きな発表があるということだ。
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