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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』その(36)殺したいほど愛してるぜ。
しおりを挟むダン嶋原が投げ入れたタオルはフワフワと宙を舞い、うつ伏せに倒れている村椿に覆い被さりその首に腕を巻き付けているNOZOMIの背中にスローモーションのようにふさりと落ちた。
嶋原はそんなNOZOMIの背中を見て、(美しい・・・)と、思った。
こんな美女が、怪物キックボクサーとの異名を持つ男をこうして絞め落としてしまったのだ。
蛇柄のビキニに身を包んだ女、長い髪が妙にエロチックでゾクリとする。
首を絞められ覆い被さられている村椿和樹は、戦い敗れたというより美しい母親に守られているようにも見える。苦痛というよりエクスタシーの絶頂で失神したのではないか?
美しき雌蛇 NOZOMI
ウオオオオオ!!
タオルが投げ入れられた瞬間、場内は津波のような大歓声が起こった。
村椿のパンチにその美しい顔は幾分腫れ上がり、しなやかな美脚もやや紫色になり引きずって歩いている。
大歓声に両手を上げ応えてはいるが、NOZOMIの姿は痛々しくその壮絶な死闘の後を物語っているようである。
そんなNOZOMIが勝ち名乗りを受けている傍らで、しばらく気を失い立ち上がれなかった村椿が蘇生した。
「気が付きましたか? 村椿さん。申し訳ない、タオルを投げました」
「へへへ、、ありがとよ嶋原。俺は負けたんだな?...」
「・・・・」
すると、そこへNOZOMIがやってきて心配そうに村椿の顔を覗き込んだ。
村椿の顔面はNOZOMIのそれより残酷に腫れ上がっており、紫色に左目が完全にふさがっている。
彼はNOZOMIのパンチを確かめるかのように、ノーガード状態で肉を切らせて骨を断つような戦いぶりだった。
勝ち負けを超えた、もっと大切な何かを探っているかのようでもあった。
「村椿さん、今日はありがとうございました。一生忘れられない心に残る試合になりました」
村椿はそんなNOZOMIの顔をぼうっと眺めていたが、口元に笑みを浮かべるとゆっくり立ち上がった。
「へへへ、、心に残った? ナイスファイト! ありがとうよ 、のぞみ」
その満足感に満ちた村椿の表情を見てNOZOMIは思わずハグをした。前回の試合ではハグしても悔しそうに震えていた彼が強い力で抱き返してきた。
抱き合う二人に場内から嵐のような大拍手。それはスタンディングオベーションが起こりそうな勢いだった。
村椿和樹は嶋原に支えられリングを降りた。降り際に振り返りNOZOMIに目をやると何か言いたそうな表情。
それでもニヤリと笑い降りて行った。
こうして死力尽くした戦いは終った。
この大晦日の格闘技戦は、夏の大会に続きNLFSの3連勝。異性格闘技戦はこれで女子の通算11勝6敗となった。
“ 女は男より強いのだろうか?”
リング上ではNOZOMIが勝利者インタビューを受けていた。
すると...。
一度リングを降りた村椿が踵を返し再び嶋原を伴いリングに戻ってくる。
そして、リングに上がるとリングアナにマイクを要求し受け取った。
「本当はよ、のぞみの嫌いな言葉かもしれないが、“男らしく” 黙ってカッコよくリングを去りたかったけどよ、どうやら俺はカッコつけるタイプではないらしい。黙ってらんない...」
村椿の第一声に場内はシーンとなる。
「のぞみ! ありがとうよ。最後ぐらいカッコつけさせてもらうけどよ、 矢吹ジョーの言葉を借りるならば、燃えたぜ! 燃えた、真っ白な灰になっちまったよ。これで何の心残りもない。嬉しかったぜ、のぞみ最高だったぜ」
場内から大歓声が起こった。
歓声が静まると村椿は何かを決意したような表情になり話し出した。
「のぞみ! 俺はお前が憎かった。キックボクサーとしての、否、男としてのプライドをズタズタにしやがって、過去の実績、その地位と名誉を汚され人生を狂わされた。のぞみが言うジェンダー論はバカな俺には分からないが、男が女にリングで倒されるってことは死ぬほど屈辱なんだよ!」
大歓声が一転して静かになった。
「俺はそんな屈辱の中で、お前に復讐することばかり考えていた。はっきりいえば、いつかお前を殺しにリングへ上がろうと復帰することを決意した。
でも、同時に...」
場内はシーンとしている。
NOZOMIも真剣な顔で村椿の次の言葉を待った。(村椿さん、何なの?...)
「でも、同時に、、俺はあることに気付いた。最初はそんなバカなことがあるか!と思ったよ。でも、その気持ちはどうしても拭いきれない。俺の頭からNOZOMIの顔が離れない。いつも山吹望という女がいる。いつ日か俺は憎むべき存在であるはずのNOZOMIを好きになっちまったんじゃないか? その魅力に取り憑かれちまったんじゃないかってね。その気持ちを否定しようとしてもどんどん膨らむ一方さ」
複雑なざわめきが場内から起こる。
NOZOMIの表情も複雑だ。
「勿論、憎悪もある。これは愛なのか憎しみなのか? 今日の試合はそんな自分の気持ちを確かめたく、NOZOMIと心中するつもりでリングに上がったんだ。のぞみは、そんな俺の気持ちに最高の形で応えてくれた」
シーンと水を打ったように場内は静まり返る。NOZOMIも妙に自分がドキドキしているのを感じた。
「今日の試合ではっきりしたよ。悔しいけど、俺はのぞみが好きだ。殺したいほど愛してるぜ。お前のような美女が俺のような男を、女のお前に倒されるような弱い男を好いてくれるなんて思っちゃいないが、自分の気持ちに決着をつけたい...」
しばらく間があった。
「俺はもう二度とリングに上がることはない。公の場にも立たない。だから
今日を最後にNOZOMIと会うことはないと思うが、陰ながら応援してるぜ。
最高にシアワセな試合だったぜ」
シーーーン
最後に村椿和樹はこう締め括った。
「愛してるぜ!のぞみ」
村椿和樹はそう言い残すと、今度は本当にリングを降り去って行った。
NOZOMIの胸も熱くなっていた。
次回より、いよいよ堂島麻美が動く。
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