9 / 30
9 昼食の時間
しおりを挟む「イリスさん、ここが食堂だ」
リカルドが私を食堂に案内してくれた。
そして、中に入って驚いてしまった。
(え!? こんなにたくさん!?)
広い食堂に50人ほどが一堂に会していた。
リカルドが私と共に中に入るとみんなの視線が一斉に集まって心臓が早くなった。
「みんな、紹介する。昨日結婚したって言っただろ? この方が結婚相手のイリスさんだ」
リカルドが大きな声で私をみんなに紹介してくれた。
まるで蜂の巣をつついたようにあちらこちらから一斉に声が上がった。
「うぉ~~若の妄言じゃなくて、本当に結婚してたのか!」
「若の空想じゃなかった!! 可愛いな~~」
「おお~~よろしく!!」
「ようこそラーン伯爵領へってな!!」
みんなに祝福されて「よろしくお願いします」と答えた。
あいさつをすると、リカルドが窓側の一番端に案内してくれた。
「イリスさん。こっちへ」
「はい」
リカルドの後について歩くと、リカルドが目つきの鋭い男性の横に座った。
「イリスさん、隣に座ってくれ」
「はい」
私が座ると、リカルドとは反対の隣の席には「失礼するよ」と言って先ほど話かけてくれがガイが座った。
私がガイに「どうぞ」と声をかけると、リカルドが初めに座っていた男性に声をかけた。
「ロダン。今戻った」
(この人がさっき名前の出てきたロダンって人なのね……)
先ほどガイと話をしていた時に出て来た名前だと思っているとロダンがリカルドを見ながら鋭い目つきで尋ねた。
「どうだった?」
「イリスさんまで巻き込んだんだぞ。当然、全部承認させた」
するとロダンではなく、ガイが楽しそうに言った。
「ひゅ~~やるな。さすが」
「ふっ、これでようやく本格的に動けるな」
「ああ。それと……運河の清掃は予定通り行うことにした」
ロダンが私を見て「へぇ~~」と言うと今後はリカルドを見て「わかった準備する」と言った。
「イリスさん。話は聞いた。俺はロダンだ。リカルドと結婚してくれてありがとな。本当に助かった。こいつのことよろしく頼む」
ロダンと呼ばれた男性だけが、リカルドのことを『若』とは呼んでいなかった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私がロダンにあいさつをした後にすぐ鐘が鳴った。
(何?)
いきなり鐘が鳴り響いて驚いたが、さらに驚くべきことに鐘が鳴ったと同時に、みんなが一斉に手を合わせて指を組み祈りの姿勢になった。
みんな何も話をせずに目を閉じていた。
先ほどまでの喧騒が嘘のように静まりかえっていた。
(これは……祈り?)
初めて見る習慣に戸惑っていると、数分で再び鐘が鳴った。
するとみんなが、一斉に動き出した。どうやら、食事を各自取りに行くようだ。
「リカルド様、さきほどの鐘は……?」
これがラーン伯爵領の風習だとしたら知りたいと思った。
リカルドは、すぐに答えてくれた。
「ああ、そういやぁ、他の領にはない習慣だったな。ラーン伯爵領では、食事の前に手を合わせて目を閉じて、食材に感謝する習慣がある。今日も無事に食事ができる自分の命に対しての感謝。そしてその自分を活かしてくれる食材への感謝。まぁ、この習慣を効率が悪いとか、面倒な習慣だという人間もいるが……俺たちにとっちゃあ、当たり前の習慣だからな、面倒だとは思わねぇが……イリスさんは、やっぱり面倒だと思うか?」
私は首を横に振った。
私もここに転生するまでは、両手を合わせて『いただきます』と言って食材に感謝するという習慣があったので、面倒だとは思わない。
だが、サイモンのような人なら確かに否定したかもしれない。
「いえ、面倒だなんて……食事に対して感謝をするのは当然のことだと思います」
「そうか……イリスさんと結婚できてよかった」
リカルドが目を細めて笑ったので私も思わず笑ってしまった。
「お待たせ。いっぱい食ってくれな」
「ありがとうございます」
リカルドと話をしていると、ガイが私の分の食事も持って来てくれた。
そして、ロダンがリカルドの食事を持って来た。
「俺まで悪いな」
「かまわん、新婚だろ? 本来なら寝室に閉じこもる時期だ」
「新婚……寝室に閉じこもる……」
「新婚」
気が付けば、リカルドと私は顔を真っ赤にして下を向いていた。
「若、そんな反応されると、こっちが恥ずかしいぜ……」
ガイの言葉でリカルドが顔を上げた。
「とにかく、イリスさん食べようぜ!!」
「はい!!」
そして私たちは気を取り直して食事を始めた。
今日のお昼ご飯は、お肉の香草焼きのようで美味しそうないい匂いがする。
ぱくりと口に入れて味わうと、私は思わず料理を二度見した。
「美味しい!!」
転生してこれまで食べたどの料理よりも美味しかった。
「そうか、俺たちの味付けが口に合ってよかった」
リカルドが嬉しそうに笑った。
「ああ、今回の料理人は口うるさいが、味はいい」
「確かに腕はいいよな。口うるさいけどな」
ロダンとガイも「うん、うん」とうなずいている。
一体どんな料理人なんだろう?
この船でラーン伯爵領に戻るのならしばらくはこの料理が食べられるのかもしれないと思うととても嬉しかった。
「ごちそうさまでした」
私が食事を終えて手を合わせると、リカルドが驚いた。
「食事の前だけじゃなくて、後にも祈るのか?」
「え、ええ」
するとリカルドも両手を合わせて「ごちそうさまでした」と言ってくれた。
なんだか心がぽかぽかしてあたたかくなった。
リカルドと話をしていると、目の前からお盆が消えて気づくとガイとロダンが私とリカルドの食器を片付けてくれた。
「ありがとな」
「ありがとうございます」
二人にお礼を言うと、リカルドが立ち上がって私に手を差し出した。
「さてと、部屋に荷物おいたら、出掛けよう」
「え? どこにですか?」
「そんなの決まってるだろ?」
リカルドはとても楽しそうに片目を閉じた後に言った。
「買い物だよ。最低でもトランク3つ分は買うぞ。(そうすれば、少なくとも一人じゃ持てねぇだろ、うん。持てねぇな)」
トランク3つ分?
もしかして、結婚したらトランクを4つ持って行くという風習があるのだろうか?
(私が今、1つしか持ってないから……足りないってこと、かな?)
「トランク4つ分の荷物が必要なのですか?」
リカルドは少し考えて答えた。
「そうだな、最低そのくらいは必要だな(そのくらい荷物があれば、簡単には荷造りもできなくなるだろう)」
「最低でも!?」
私はバックの中の小切手の存在を思い出した。
それなりの金額をもらったので、足りるはずだ。それについさっき服がないと思ったばかりなので、服も買った方がいいかもしれない。
それに夕食はここではないと言っていた。
(そう言えば、夕食はどこで食べるのかな?)
私はリカルドを見上げた。
「あの……夕食はどちらで」
「夕食は『ディルッソ』って店を押さえてもらった」
「デ、デ、ディルッソを予約したのですか?」
「ああ」
「よく予約が取れましたね……すごく美味しいって有名で、なかなか予約が取れないと聞いたのですが……」」
「そうか……だが、間違いなくそこだ。(そんなに予約取るのが大変な店なのか……あいつ、いい仕事したな)」
『ディルッソ』は王太子殿下や、王太子殿下妃でもお忍びで利用されているという王都でもかなり有名なお店だ。
美味しいとう話だが、きっとかなりの金額ではないのだろうか?
(そんな高いお店を!! 財政難なのに!! 私のお金で足りるかな?)
思わずオロオロしていると、リカルドが照れたように笑った。
「まぁ、(王都には)滅多に連れて来てやれねぇし、結婚記念でもあるから……」
「滅多にない!! 結婚記念!!」
私はリカルドの想いに胸がいっぱいになった。
結婚記念だからきっと無理をしてくれたのだろう。
「ありがとうございます! 嬉しいです」
「喜んでもらえてよかった」
私はそして重大なことに気付いてしまった。
(『ディルッソ』に行くのにこの服はない!! 何か用意しなきゃ!!)
退職金をもらって本当によかった。
さすがにあの高級なレストランにこの服では行けない。
「じゃあ、買い物に行くか。どこか行きたい店はあるか?」
「いえ……ただ服が欲しいと……」
「じゃあ、俺の知ってる店でもいいか?」
「はい」
こうして私はリカルドと一緒に買い物に行くことにしたのだった。
1,054
あなたにおすすめの小説
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
さようなら、私を「枯れた花」と呼んだ貴方。~辺境で英雄を救って聖女と呼ばれたので、没落した元婚約者の謝罪は受け付けません~
有賀冬馬
恋愛
「お前のような見栄えの悪い女は、俺の隣にふさわしくない」
婚約者アレクに捨てられ、辺境へ追いやられたセレナ。
けれど、彼女が森で拾ったのは、アレクなど足元にも及ばないほど強くて優しい、呪われた英雄ライアンだった。
セレナの薬草が奇跡を起こし、王都を救う特効薬となったとき、かつて自分を捨てた男との再会が訪れる。
「やり直そう」と縋り付くアレクに、セレナは最愛の人と寄り添いながら静かに微笑む。
――あなたが捨てたのは、ただの影ではなく、あなたの未来そのものだったのですよ。
【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
こころ ゆい
恋愛
※番外編書きたい気持ちがあるのですが、一旦、恋愛小説大賞の締め切りに合わせて、完結とさせて頂きます。🌱
※最後、急ぎ足で駆け抜けたので、説明不足や誤字脱字多くなっているかもしれません。都度見つけ次第、修正させて頂きます。申し訳ありません。💦
ジャスミン・リーフェント。二十歳。
歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、
分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。
モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。
そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。
それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。
「....婚約破棄、お受けいたします」
そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。
これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに
有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。
選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。
地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。
失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。
「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」
彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。
そして、私は彼の正妃として王都へ……
恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました
あい
恋愛
両親を失ったあの日、
赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。
それが、アリア。
世間からは「若い母」と呼ばれながらも、
彼女は否定しなかった。
十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。
恋も未来も、すべて後回し。
けれど弟は成長し、ついに巣立つ。
「今度は、自分の人生を生きて」
その一言が、
止まっていた時間を動かした。
役目を終えた夜。
アリアは初めて、自分のために扉を開く。
向かった先は、婚姻仲介所。
愛を求めたわけではない。
ただ、このまま立ち止まりたくなかった。
――けれどその名前は、
結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。
これは、
十六年“母”だった女性が、
もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる